EU廃棄物輸送規則:リサイクル業界が直面する危機
2023年11月に欧州議会とEU理事会が政治的合意に到達した「廃棄物輸送規則」案は、最終採択過程を経て官報の発行を待ち施行となる予定だ。
今回の改正により内容が強化された規則案が施行されれば、EU域内外への廃棄目的の廃棄物輸出が禁止される。
EU域内については、廃棄を目的とした輸出は全ての廃棄物に対して禁止となる。例外として、輸出先からの事前許可があれば可能だが、それには厳しい条件が課せられ手続きも複雑となる。EU域外への廃棄目的の輸出およびOECD非加盟国への有害物質の輸出(回収目的であっても)は全面的に禁止される。そしてプラスチック廃棄物に関しては、OECD非加盟国への非有害物質(B3011)プラスチック廃棄物の輸出が禁止となる。また、EUはこれまで等閑にされてきた廃プラの不法輸出の取り締まりを本格的に強化する方針だ。
欧州のリサイクラーにとって、これらの新規則要件は何を意味するのか?これまで輸出されてきた廃プラはどうなるのか?目下のところ、想定されるのは、突然行き場を無くした廃プラは単に積み上げられ最終的に焼却されるというシナリオだ。EUは、域内で発生する廃プラをすべてそれぞれの加盟国で回収しリサイクルする能力を持ち合わせていない。
新要件がもたらす業界への影響について、ベルギーの容器包装廃棄物回収リサイクル業界団体は、「欧州のリサイクル市場は崩壊する」と警告する。ベルギーのケースでは、商業廃プラの発生量は年間10万トン、うち2万4000トンはOECD非加盟国へ輸出されている。他の加盟国も多かれ少なかれ同様の状況だ。EU域内のリサイクル能力を大幅に引き上げれば状況は変わりうるが、短期的には、規制本来の目的であるサーキュラーエコノミーの推進どころか逆効果だという。またリサイクル能力が向上しても、バージンプラスチックの価格は、石油価格に左右されるため、再生材価格と需要の安定化も大きな課題だ。リサイクル規模拡大への投資誘致も難しいのが現状である。
欧州リサイクル協会EuRICは、リサイクル業界の危機を回避するため、早急なEU域内のリサイクル能力引き上げと再生材含有ターゲットの必要性を強調する。2022年に改正案が発表された容器包装・容器包装廃棄物規則案では、容器包装に使用されるプラスチックに対して、再生材含有ターゲットを設置されることになっている。EuRICは、再生材含有ターゲット設置は、再生材需要を引き上げ循環型の市場を形成する「唯一」の解決策だと述べる。容器包装に次いで、昨年7月に欧州委員会が発表したELV規則案でも、自動車へのプラスチック再生材含有ターゲットが導入されることになっている。
一方で、欧州メディアは、最近EUへのプラスチック再生材(rPET)輸入が上昇しており、EU域内のリサイクラーには競争不可能な低価格で販売されており、新たな懸念事項となっていると伝えている。
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SCHANZ, Yukari
オーストリア、ウィーン在住フリーライター。現在、ウィーンとパリを拠点に、欧州におけるフランス語、英語圏の文化、経済、産業、政治、環境リサイクル分野での執筆活動および政策調査に携わっている。専門は国際政治、軍事、語学。
趣味は、書道、絵画、旅行、フランスワインの飲酒、カラオケ、犬の飼育。
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