Americas Weekly#14 カザフスタンの雪解け大洪水にやきもきする米国のコモディティー市場
中央アジアの資源大国カザフスタンが大規模な洪水に見舞われ、米国の金融市場の懸念材料として浮上している。主力の石油産業では一部で油井の操業が一時的に停止しており、世界最大の生産量を誇るウラン生産への影響も心配される。当局などによる被害状況についての情報公開が十分ではなく、米国の投資家をいらつかせている。
カザフスタンでの大洪水は、ロシアの春の雪解け水が原因だ。欧州で3番目、世界でも7番目に長いウラル川に大量の雪解け水が流れ込み、ロシア国内でダムが決壊、下流のカザフスタンに水が押し寄せている。
ウラル川はロシアのウラル山脈東部を源流とし、ロシア、カザフスタンを流れてカスピ海に達する。春の雪解け水による増水は毎年の「恒例行事」だが、今シーズンは秋から冬にかけて流域で大量の雨が降り、各地で水害が発生していた。その状態で雪解けの季節になったため、3月末以降、各地でダムが決壊するなどして大洪水が発生した。ロシア南部、カザフスタン北部では広範囲で町が水没した。両国合計で12万5000人以上が避難する事態となった。今後も被害が拡大するとみられている。
カザフスタンのトカエフ大統領は「規模と影響という点では、過去80年で最大の災害になりそうだ」と話している。ロシアの地元メディアも「この100年で最も深刻な水害」と伝えている。
この影響で、カザフスタン中部のアクトベでは、数カ所の油井が一時閉鎖となった。また、地元石油業界によると、アクトベから南に約185キロの地点にあるケンキヤク油田の約440の油井への送電に影響が出ているという。
カザフスタン中部ではこのほかにも、停電による油井の操業停止やパイプラインの閉鎖などが相次いでいるという。
カザフスタンの石油産業の業界団体であるペトロカウンシルのアシルベク・ダキエフ会長は「水害による石油産業への影響は許容範囲内のものだ」と説明しているが、そう判断する具体的な情報は乏しいままだ。
カザフスタンのエネルギー省はこれまで、国内の石油生産について日報の形で操業の状況を公表していたが、今年に入って公表を取り止めた。このため今回の水害の石油生産への影響について、米国の投資家は正確な情報がつかめないでおり、不安を募らせている。
ウラル川の下流に位置するカスピ海に近い石油の街、アティラウでは、現時点で大規模な操業停止の報告はないとされるが、ウラル川の水を迂回させてカスピ海に流し込むための新しい水路が急きょ、建設された。大量の雪解け水はこの後、アティラウなどの下流の街に到達するとされており、護岸工事や施設の補強が急ピッチで行われたという。
工事の様子をダキエフ会長は「戦時中のような忙しさだった」と表現している。
水害の範囲はカザフスタン東部にも移りつつある。東部ではこの冬、積雪が多く、通常の1.5~2倍の雪解け水が発生する可能性があるという。カザフスタン政府や地元政府は洪水の「第2波」の発生を警戒しており、ダムの水位を通常より低く維持するなどの対策をとっている。
今回の大洪水では、ウラン生産への影響も懸念されている。現状でカザフスタン国内のウラン鉱山に関する被害の情報は入っていないが、マーケットは大きく反応している。カザフスタンの国営原子力会社で世界最大のウラン生産会社であるカザトムプロムの株価は4月3日以降、下落した。深刻な洪水の状況が大きく世界に伝わった4月12日以降、一段と落ち込んでいる。
エネルギー関連の上場投資信託(ETF)でウラン開発企業に投資する「グローバルXウラニウムETF」は、洪水を受けて一時急騰した。カナダや米国のウラン関連企業にとって需要を増やす結果となるとの見通しだったが、その後、カザフスタンの状況が世界のウラン業界全体に深刻な影響を与えかねないという懸念が強まったため急落している。カザトムプロムのライバルであるカナダのウラン会社カメコの株価も同様の足取りをたどっている。
脱炭素を実現するために世界規模で注目される原子力発電の燃料となるウランの生産は、カザフスタンがリードしている。2023年の世界のウラン生産の約40%を占め、2024年も一段の成長が見込まれる。ウランの「ロシア依存」からの脱却を進めたい米国としても、カザフスタンは重要なパートナーとなる。
そのカザフスタンに毎年流れてくる雪解け水が、カザフスタンのウラン供給に大きな影響を与えるとしたら、米国のエネルギー政策に大きな障害となる。ウラン関連銘柄に一気に資金を集める投資家としては、まずは被害の全容を知りたいところだ。
***********************************
Taro Yanaka
街ネタから国際情勢まで幅広く取材。
専門は経済、外交、北米、中南米、南太平洋、組織犯罪、テロリズム。
趣味は世界を車で走ること。
***********************************
関連記事
- 2024/04/27 中国太陽光パネルのジンコソーラー、23年は大幅増収増益=出荷量、世界首位返り咲き
- 2024/04/26 EU、エネルギー憲章からの離脱で合意 1994年設立、気候政策に敵対的で時代遅れに
- 2024/04/26 2024年2月フェロクロム輸入統計分析 主力カザフスタン品の急減で低炭素品・高炭素品ともに大幅減少
- 2024/04/25 マイクロ波化学 鉱山プロセスで革新的なマイクロ波利用の標準ベンチ装置を完工
- 2024/04/25 原油価格の動向(4/24)
- 2024/04/24 三菱重工と日本ガイシ アンモニア分解ガスからの膜分離水素精製システムを共同開発
- 2024/04/23 米国ボルチモア港閉鎖による米国石炭輸出量減とその影響
- 2024/04/23 日本製鉄の水素活用「直接還元鉄を活用した電気溶融炉による高効率溶解等技術開発」PJ、NEDO基金事業に採択
- 2024/04/22 【MIRUウェビナー】欧州からの風~電池規則とELV規則(法案)~ 5/9 15時~
- 2024/04/22 関西電力他 「EVワイヤレス給電協議会」設立発起