未知なる可能性を秘めたマークテック&ハイテクノライズ社訪問記
2025/04/15 14:36 FREE

その昔、筆者が大学に通っていた頃、応用化学科で「粉」の研究にはまった同級生がいました。「粉」の世界は五里霧中、右も左も分からない世界で彼は悪戦苦闘していました。同じ物質なのに「粉」になると化学的特性も物理的特性も全く変化するのです。「粉とは不思議で面白く、恐ろしい存在だ」と筆者は考えていました。
ハイテクノライズ社の話を聞いた時、その学生時代の記憶が蘇りました。「ぜひ工場見学したい」と思いました。
IRUNIVERSE棚町社長と筆者が同社の成田工場を訪問した際、応対していただいたのは、鈴木大輔社長執行役員と山崎澄子氏です。まずはマークテック社とハイテクノライズ社の関係から説明していただきます。
マークテック社は鋼材用マーキングシステムや浸透探傷用の特殊塗料で実績のある会社で鉄鋼業の関係者にはおなじみの会社です。鋼材のマーキングでは塗料と印字システムの両方を納入し、浸透探傷では、カラーチェック用塗料や磁粉探傷用の蛍光塗料の両方を製造販売しています。しかし特殊塗料の業界は成熟した産業であり、新たな成長分野を開拓すべく幾つかの新規事業を展開しています。
具体的には、
具体的には、
1. 化学品の受託生産(ODM/OEM)※ 危険物、有害品を含む。
中国、タイ、にも生産拠点あり。
2. 受託検査サービス(X線CTスキャン)
これは鋼製品や耐火物など、X線透過率の低い物体に高い線量のX線を当てて内部形状を把握するもので、エンジンのシリンダヘッドなどが対象になります。
顧客は、自動車、鉄鋼、化粧品などの業界になります。
3. (株)風技術センター
模型を製作し、風洞実験を行う会社で大学、研究機関、ゼネコン、設計事務所が主要顧客になります。
4. (株)ニコス システムの老朽化更新や新規提案を行います。
5. (株)金門光波 He-Cdレーザー、UVファイバーレーザーの開発・製造をします。
6. (株)ハイテクノライズ 粉体強度や粉体摩擦の計測を受託したり、試験・計測装置の製造・販売をします。
具体的には、車載電池用の粉体材料などが対象となり、電池、金属、セラミックス、医薬品業界などが顧客となります。
・同社の計測サービスでは、粉体をミクロな状態(つまり一粒ずつの状態)で計測する一方、マクロな状態でも物理特性を把握し、総合的な物理特性を調べられるのが特長です。
※ 粉体の摩擦の評価には通常、安息角の値が用いられますが、これは無負荷の状態での数値。電池材料や粉末冶金などで重要視されるのは、充填圧力がかかった状態での摩擦力であり、本試験装置のデータが有用となります。
※ 粉体の強度・硬度は、粒子1個ずつの値が重要です。強度が低いと粒子が割損したり、層間破断が発生して不良となり、硬すぎると粒子間の接触面積が減って、性能劣化を招くという問題があります。
上記の通り、マークテックはコアとなる事業を中心に新規事業を、自社の新規事業部門にしたり、子会社として独立させている訳です。個人的感想ですが、そのどれもが、多くの可能性を秘めています。
(ハイテクノライズ 鈴木社長)
核となる事業を中心に、それに関連した事業を展開して、事業の拡大と経営の安定を図るビジネススタイルを「アメーバ経営」と称したのは京セラの稲盛和夫氏ですが、マークテックはまさにそれを実現している訳です。
しかし、ここまでの鈴木社長の説明には、質問したい点や異論を唱えたい点が多くあります。
第一に、既存の事業(マーキング装置や探傷用塗料)は成熟した産業か?です。
確かに主要な需要家である鉄鋼や金属加工産業は日本では成熟した産業です。しかし、詳しく見ると、まだまだ潜在需要があります。鋼材の半製品(鋳片)のマーキングでは、まだ機械刻印方式のスタンパーが残っています。スプレーマーキングではノズルと鋼材表面の距離が少し離れると文字が滲む問題があり、また鋼材表面の凹凸が大きければ印字できません。そういった理由からスプレーマーキングを諦め、スタンパーを残したり、手書き作業を残している製鉄所は多いのです。
広島県のある電炉メーカーでは、鋼片のマーキング方法改善は切実な問題です。スプレーマーキングの性能を改善するだけで獲得できる潜在顧客は日本国内にもまだあります。
浸透探傷についても、顧客のニーズを考えれば改善の余地が多くあります。非破壊検査ではMT(磁粉探傷)、PT(浸透探傷)、ET(渦流探傷)、UT(超音波探傷)、RT(放射線探傷)などがあります。それぞれに特長があり、ユーザーは複数の検査を重複して行うことになります。もしPTだけで済ませればそれに越したことはありません。マークテックはMT用の薬剤も製造し、X線 CTの開発や委託検査も行っていますが、MTとPTの検査の統合を考えてはいかがでしょうか?もしPTのカバー範囲が広がれば、ユーザーの利便性は増し、市場拡大につながります。新たな可能性が見えてきます。
国内だけでも市場拡大の余地はありますし、海外に目を転じれば鉄鋼業はまだ拡大基調にありますし、高付加価値化、高品質化の流れの中で非破壊検査需要も増大します。鉄鋼業や機械産業を一概に成熟した産業とは言えないのではないか?と思います。
新規事業については、提言したいことや確認したいことがさらに多くあります。
1. 化学品の受託生産については、廃液や廃却品の引き取りや処理とセットで考えるのが得策です。世の中はリユース、リサイクルの時代です。少量の劇薬や毒薬を使用する小規模事業者では廃液処理設備のコストを賄うのが難しい場合もあります。
化学品の受託生産だけでなく、その回収もセットにすれば、顧客を拡大できる可能性があります。
例えば、埼玉県の板ガラス加工メーカーでは、サンドブラストやフッ酸によるエッチング処理などで意匠性の高い板ガラスを製造していますが、使用後のフッ酸の処理に多額の費用をかけています。フッ酸には硫酸が混じっているため、ホタル石にして回収、再利用が難しいのです。
その工場ではサンドブラストに用いる珪砂の粒度や硬度の管理も課題です。
それらの一連の業務を一括して請け負う契約は可能かも知れません。
マークテックでは、塗料と溶剤を販売する一方で、その廃液を回収し再処理して
リサイクルするビジネスを開始しています。それを全面的に展開すべきだと思います。
2. X線CTの活用は、さらに多くの可能性を秘めています。
例えば、建設機械に使用されるスイベルジョイントは、鋼材の中に複雑な油圧の流路を設けていますが、現在ガンドリルで穿孔加工しており、コストと時間がかかります。これを鋳造で対応できればコストダウンになりますが、不良品の検査が課題となります。建設機械部品だけでなく油圧装置全体の共通課題である装置の鋳造化は難しい課題ですが、X線CTの活用は有力な手段です。
それ以外でも潜在的な用途はたくさんあります。ガスタービンのタービンブレードには冷却用空気を流す細孔が必要ですが、その有効な検査手段も確立していません。それ以外にもあります。
製鋼用の耐火物ではポーラス部に流すArガスを通す孔やスリットを耐火物中に設けますが、その検査手段が未確立です。
いずれも重要部品であり、全品検査のコストをかける価値のある部品です。
重要なのは、それらのメーカー側から打診や相談を受けるのを待つのではなく、こちらから提案するスタイルで事業を展開することです。それによって新規開発の主導権を握ることができます。
3. 風洞実験のサービスについても提言したいことが多くあります。
風洞実験は、かつては航空機開発や建築設計の分野で重要なツールでした。しかし数値解析の技術が急速に発展し、その必要性は減じています。航空機や飛翔体の場合、極超音速など特殊な条件を除けば、ほとんど数値解析で対応でき、模型を用いた風洞実験は確認用の手続きとして行われています。
逆に地形の模型を用いて、風力発電最適地を探索する場合などは、相対的に風速が遅すぎて風洞実験になじみません。
ビル風の影響を調べる場合は、風洞実験が有効ですが、その場合も数値解析でカバーできます。風洞実験は確認用です。
ではどうすればいいのか?と言えば、これは数値解析の研究結果とセットにして客先に提出するコンサル型のビジネスにすることです。クライアントであるゼネコンは大手メーカーは、自社で数値解析する技術を持っていますが、風洞実験と併せて委託先に丸投げできれば、業務を合理化できます。
さらに高層ビルの設計ではビル風の研究だけでなく、電波の反射・散乱も研究し、それとセットでデータを販売すれば、付加価値は高まります。
ANSYSなどの数値解析ソフトはパッケージ化されており、最小限のスタッフで対応できます。対象物体の形状データは、どうせCATIAなどのCADデータで与えられるので、模型製作も数値解析も同じ手間でできます。
更に重要なのは、大手ゼネコン以外の中堅企業をクライアントにすることです。 前述の板ガラス加工メーカーは、日建設計の設計を元に板ガラスを加工・製造していますが、自社に技術があるにもかかわらず、自社での設計はできません。風洞実験と数値解析に基づいた、窓ガラスの耐風圧性能や耐震性能をレポートするサービスを提案することは、同社にとっても歓迎すべきものだと考えられます。
4. ハイテクノライズの取り組み
「粉」の技術はますます重要になりつつあります。粉体技術の進むべき方向は、より細かいナノ粒子の追及、より均一な粒子の追及、最適な高度・強度の確保といったものですが、ミクロの状態とバルクの状態の両方を評価でき、かつ一粒一粒の硬度、強度を測定し、摩擦特性も評価できるハイテクノライズの技術は、ますます脚光を浴びるはずです。
問題は同業他社との競合です。
鈴木社長の説明では、摩擦特性の評価技術については、同社のオリジナルのノウハウであり、他社は追随できないとのことです。
一方、強度試験装置では、島津製作所なども類似の装置を提供しますが、測定範囲や測定精度で、ハイテクノライズの製品に劣り、島津製作所の製品を導入したクライアントが、ハイテクノライズに測定を依頼する例もあるとか。
また検査受託サービスで競合する分析会社や検査機関が、ハイテクノライズの製品を購入する場合もあるが、問題は無いとのことです。客先は基本的な技術を持たないため、基本的な操作はできるものの、一歩踏み込んだ応用的な使用はできないからだそうです。
ハイテクノライズは、粉末冶金協会に参加し、粉末冶金や3Dプリンターの最新技術の発展をフォローしています。また生産拠点はアジアと東南アジアが主ですが、米国のAABCの展示会にも参加するなど、欧米の需要動向も注視しており、さらなる海外での事業展開の可能性を追及しています。
しかし、問題点もありそうです。僭越ながら筆者が考える問題点を列挙します。
(1) 取引先が皆大企業や大組織で、契約内容が単なる下請けになってしまう可能性があります。これはハイテクノライズに限らない話で、独自の優れた技術を持つ中堅企業が、会社の規模の違いゆえに下請けになり、プロジェクトのイニシアチブを取れないという問題です。
技術力あるいは開発能力を考えた場合、対等の関係が築けるはずのプロジェクトでもそうはならないのです。
対応策は複数あります。一つは同じように優れた技術を持つ中堅企業や中小企業と組む方法です。
例えば、金属ナノ粒子の製造では、水中プラズマを用いたプロセスが有力です。導波管を用いたマイクロ波でプラズマを発生する方法では東京のARIOSが有力で、電極を用いたプラズマを発生する方法では京都の栗田製作所が有力です。電極方式と導波管方式の優劣比較については別稿に譲りますが、独自の高い技術を持つ両者は、中堅企業であり、そして生成したナノ粒子を測定評価する技術を持ちません。ハイテクノライズが両者のどちらかとタイアップすれば、強力な企業連合となります。
ハイテク企業だけではありません。前述の鋼片のマーキング装置に悩む広島の電炉メーカーは、微細粒子の製造装置も開発・製造・販売しています。しかし粒子を測定・評価する装置を持っていません。同社と提携する価値はおおいにあります。
前述の埼玉県の板ガラス加工メーカーは化粧品のOEM大手でもあります。しかし粉の測定評価装置を持ちません。この会社と提携する価値もおおいにあります。
以上、まとめると大企業だけでなく、固有の技術を持つキラリと光る中堅企業を探してタイアップするかクライアントにする作戦がお薦めです。
(2) もう一つの問題は人材確保です。これもハイテクノライズに限らず、全ての中
堅企業、中小企業に共通の問題で、なかなかいい解決策はありません。
ハイテクノライズの場合、中核となる技術は、現在技術顧問を務める産総研出身の一人の科学者が開発したものです。日進月歩のハイテクの世界ではそれに続く開発が必要ですが、それが可能か否かは、優秀な若手の科学者や技術者をどれだけ抱えられるかで決まります。これが難しいのです。
島津製作所はノーベル賞受賞者を擁し、抜群の知名度があります。キーエンスは破格の高給で人材確保で優位に立ちます。
ではそれ以外の企業はどうするか?
個々は大学や高専などと共同研究を進めて、学生達にハイテクノライズの技術力をアピールするか、あらゆるメディアや学会、セミナーを通じて自社技術のPRをするしかありません。すぐに効果があるかは不明ですが、もともと人材育成は時間がかかるものです。
粉の世界はまだまだ奥深く、素人の筆者には伺い知れません。どこまで微細でかつ均一な粒子を製造できるか。そしてそれをどう活用していくのか。その技術開発の過程で、寄り添っていくのがハイテクノライズなのか、それとも開発の主体的な推進者として取り組んでいくのが、ハイテクノライズなのか、興味深いところです。刮目して同社の今後を追いかけたいと思います。
(Akai Yoshihiro)
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