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欧州からの風:July 2025  「EU・米国が15%の関税で合意」

2025/07/29 17:10
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 EU・米国は27日、関税および貿易に関する包括的な協定に合意したと発表した。この協定により、年間1.7兆ドルの貿易規模を持つ両地域の経済関係に新たな安定性と先行きの透明性がもたらされることが期待されている。

 

 今回の協定の核心となるのは、EU輸出品の大部分に対する15%の統一関税率の設定だ。この税率は自動車、半導体、医薬品など産業の主要部門に適用され、追加課税なしの包括的な上限として機能する。米国大統領の「気まぐれ」とも言える関税政策は世界を揺るがし、ここEUでも産業界や市民へ不安と不透明さを与えてきたが、今回の協定により一旦安定へ向かうようだ。

 特に注目すべきは、戦略的製品に対するゼロ関税の導入である。航空機および部品、特定の化学製品、ジェネリック医薬品、半導体製造装置、農産品、天然資源、重要な原材料がこの対象に含まれる。両者は今後もこの対象品目の拡大に向けて継続的に取り組む方針である。
鉄鋼・アルミニウム分野では、世界的な過剰生産能力という共通の課題に対処するため、公正な国際競争を確保しつつ、両地域間の関税削減とクォータ制度の導入が決定された。

 エネルギー分野における協力強化も重要な要素だ。米国のエネルギー製品を購入することにより、EUは供給源の多様化を図り、欧州のエネルギー安全保障に貢献する。具体的には、ロシア産ガスと石油を米国産の液化天然ガス(LNG)、石油、核燃料の大規模購入により代替していく計画である。
技術分野では、米国製AI半導体がEUのAI大型工場の稼働を支援し、同時に米国の技術的優位性の維持にも寄与する構造が構築される。

 この協定は、企業に多面的な影響を与えるものだ。第一に、不安定な時代において、先行きの予測を可能にし、企業の計画立案と投資活動が促進される。第二に、即効性のある関税軽減措置により、企業の収益に直接的な好影響がもたらされる。第三に、EUにとって最大の輸出市場へのアクセスが確保される一方、米国製品の欧州市場参入も促進され、欧州の消費者利益と企業競争力の向上が期待される。

 この協定は、世界GDP の約44%を占め、合計8億人の市場を形成する両地域にとって、NATO首脳会議に続く大西洋パートナーシップの第二の柱として位置づけられた。今回の枠組みは出発点であり、今後さらなる関税削減、非関税障壁への対処、経済安全保障分野での協力拡大が予定されている。
EUは同時に、対外経済政策の構築に向けた取り組みを強化し、4億5000万人の消費者を擁する単一市場を最大の資産として活用しながら、欧州の競争力、革新性、動力性の向上を図っている。また、既存の76の貿易協定に加え、メルコスール、メキシコ、インドネシアとの新たな協定交渉も完了させるなど、世界規模での貿易パートナーシップを拡大している。

 


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SCHANZ, Yukari
オーストリア、ウィーン在住フリーライター。現在、ウィーンとパリを拠点に、欧州におけるフランス語、英語圏の文化、経済、産業、政治、環境リサイクル分野での執筆活動および政策調査に携わっている。専門は国際政治、軍事、語学。
趣味は、書道、絵画、旅行、フランスワインの飲酒、カラオケ、犬の飼育。
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