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ICBR2025(国際電池リサイクル会議)で見えた欧州」電池リサイクル業界の現状

2025/09/12 09:43 FREE
ICBR2025(国際電池リサイクル会議)で見えた欧州」電池リサイクル業界の現状

スペイン・バレンシアで開催されているICBR2025年2日目会議最終日は、午前中から2つのセッションに分かれて行われ、それぞれのテーマごとのプレゼンテーションが行われた。一つ目の「EUおよびグローバル電池回収システム」では、欧州と米国から電池の生産者責任組織からそれぞれのシステムの紹介があった。

日本からは、国立環境研究所の寺園淳氏が「日本におけるリチウムイオン電池火災事故の予防に向けた安全性評価」に関するトークを行なった。寺園氏は、モニターシステムが捉えた保管庫で起こったリチウム電池搭載の電気機器火災事故例を紹介しながら、火災に至るまでの電池の熱暴走過程について説明した。続いて、安全管理を行う目的で実施されたタイプ別リチウムイオン電池のクラッシュテストの結果報告を行なった。また日本におけるポータブル電池の回収システムについても触れ、回収率が低いことも付け加えた。質疑応答では、会場参加者から、比較的安定していると言われるLFPでも火災は起こるが、NMCなどのその他の電池との比較では、危険性の違いがあるのかという質問が寄せられ、同氏は、「実験結果からは、LFPの方が安全性は高いと言える」と回答した。

電池リサイクルにおけるカーボンフットプリントに焦点を当てたセッションでは、ドイツの大学からリチウムイオン電池リサイクルにおけるライフサイクルアセスメントに関する研究プロジェクトの紹介、英国のMinviroからはリサイクル材料とバージン材料におけるカーボンフットプリント比較について報告した。EU電池規則では、電池のライフサイクルにおけるカーボンフットプリントに関する要件が設定されており、今後はカーボンフットプリント数値の削減は大きな取り組み課題となる。

今回のICBRにおけるセッションは、電池リサイクルの技術も大きな焦点となっており、電池規則への要件へ対応を念頭においたリサイクル技術の改善プロジェクトや新技術の取り組みなども紹介された。パラレルセッションであったため、こちらも詳細は別途報告する。

午後のセッションの一つでは、英国のFastmarkesが、LFPのリサイクルに関する現状と予測に関するトークを行なった。NMCなどの技術の増加により、一時は大幅な減少が予測されたLFPは、それに反して安定した成長を示しており、これは今後使用済みとなるLFPの増加を意味しリサイクルが必要となる。一方で経済性が低いことがLFPリサイクル推進の大きな障壁となっており、コストの削減やブラックマスの精錬技術の改善も大きな課題だ。

最後のセッションでは、電池のサーキュラーエコノミー予測をテーマに、ベオリアと欧州電池リサイクル協会が登壇した。仏ベオリアのGholamitard氏は、欧州の電池リサイクル産業に関し、我々は業界を牽引していくのか?あるいは取り残されるのか?と問いかけた。同氏は、現在の欧州電池リサイクル業界は、成長への加速が必要なことを強調するとともに、EU規制が定める基準の高さに触れ、環境負荷の削減には理想的な一方で、産業界にとっては大きなチャレンジをもたらすものだと述べた。そのため、欧州業界には協力体制と政府レベルによる支援が不可欠であることも付け加えた。

EUが推進する電池戦略は、一時は電池バブルと言われるほど欧州電池産業への投資を集めた。だが、EV販売の伸び悩み、中国製品との高まる競争に伴うNorthvoltの倒産、その他の電池スタートアップの不振などに伴い、暗礁に乗り上げた様に見える。だが、今回のICBRの盛況を見るにつけ、電池リサイクルセクターは堅固に推移しているように思われる。一方で、電池リサイクルセクターでも中国・韓国などアジアからの進出が目立ち、ここICBRでもこれらの国々からの参加者が急増している。

EU政策による電池産業支援を受け、多数のリサイクル・スタートアップもEU市場に参入している。しかし、欧州の電池リサイクル業界では商業レベルの処理能力を持つ施設が依然として不足しているのが現状だ。この市場の隙間を狙い、数年前からアジア企業がEU市場への進出を開始している。
この状況を巡って二つの対立する見方が存在する。一方では、現状が続けばEU企業の「自立」は困難で、従来の海外企業依存構造からの脱却は進まないという懸念がある。他方で、電池リサイクル技術の複雑さを考慮すると、スタートアップが短期間でこの技術的課題を解決することは現実的ではなく、欧州リサイクル業界の拡大にはアジア企業の「老舗技術」が不可欠であるという現実論もある。この議論の背景には、EUが目指す戦略的自立性と、技術開発に必要な時間・経験・投資規模のギャップが存在しているようだ。

なお、次回の欧州ICBR2026の開催地はドイツ・ベルリンに決定している。

*ICMは今年、ICBRアジアとして、11月に今年2回目となる国際電池リサイクル会議を中国・上海で開催する。MIRUはICBRアジアの特別メディアパートナーとして参加することになっており、日本からの参加希望者はMIRUを通じてお申し込み可能。詳細は以下リンクで。
https://www.iru-miru.com/article/76150

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SCHANZ, Yukari
 オーストリア、ウィーン在住フリーライター。現在、ウィーンとパリを拠点に、欧州におけるフランス語、英語圏の文化、経済、産業、政治、環境リサイクル分野での執筆活動および政策調査に携わっている。専門は国際政治、軍事、語学。
 趣味は、書道、絵画、旅行、フランスワインの飲酒、カラオケ、犬の飼育。
*ヨーロッパに御用がある際はぜひご連絡ください→ MIRUの「お問い合わせ」フォーム又はお電話でお問い合わせください。

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