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脱炭素の部屋#275 環境ビジネスとAI

2026/06/23 07:56
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 昨今、ビジネスの世界におけるAIの急激な普及ぶりには目を見張るものがあります。少し前だと、たとえばオンライン会議のわずか30分後に議事録が配布されて、ちょっとびっくりしたというような話がありました。

 ところが最近では、その程度では驚かなくなりました。混み入った企画書や提案書の作成、分厚い英文資料の抄訳、あるいは市場調査レポートの要約などが数時間で完了するようになり、オフィスの生産性は劇的に向上しつつあります。

 私自身も日々さまざまな資料を扱う仕事をしていますが、AIが登場する前と後では仕事の進め方そのものが変わったと言っても過言ではありません。かつては数日かかっていた作業が数時間で終わるようになり、人間はより重要な判断や企画立案に時間を使えるようになってきているのです。

 このような変化が訪れる中、環境ビジネス、とりわけ産業廃棄物処理業とAIは非常に親和性が高い分野ではないかと私は考えています。その理由の一つは、この業界が長年にわたってデータの蓄積を続けてきた業界だからです。

 産業廃棄物処理業界には、排出事業者が適正処理を確認するためのマニフェスト制度があります。排出された廃棄物がどこへ運ばれ、誰が運搬し、どのような方法で処理されたのかを追跡できる仕組みで、現在では電子マニフェストの普及も進んでいます。

 さらに廃棄物処理法をはじめとして、許可制度、契約書管理、収集運搬記録、処理実績報告など、業務のあらゆる場面で記録保存が求められています。現場の担当者からすると時に煩雑に感じられることもあるかもしれませんが、その結果として膨大なデータベースが形成されてきたのです。

 例えばどの地域からどのような廃棄物が発生しているのか、どの季節に排出量が増減するのか、どの業種がどのような処理方法を選択しているのか、といった情報が日々蓄積されています。実はAIにとって最も重要なのは、このような大量のデータです。AIはしばしば「人間の代わりに考える技術」のように語られますが、実際には大量の情報の中から規則性や傾向を見つけ出すことを得意としています。インターネット上の膨大な文章を学習して文章を生成する生成AIも、その本質は大量のデータ処理技術にあります。

 たとえば数万件の処理実績データを読み込ませれば、どの顧客が将来的に排出量を増やしそうなのかを予測することも可能になります。また、過去の契約内容や問い合わせ履歴を分析することで、営業担当者が見落としていた商機を発見することもできるでしょう。

 ここで私が特に注目している応用分野を二つご紹介したいと思います。一つ目は営業活動への応用です。産廃業界では、営業担当者の経験や人脈に依存した営業スタイルが今なお少なくありません。しかしAIを活用すれば、地域ごとの事業所情報や業種情報、排出傾向などを分析し、有望な見込み客を効率的に抽出できる可能性があります。

 例えば工場の新設情報や設備更新情報、さらには環境報告書などの公開情報を組み合わせることで、「近いうちに新たな処理ニーズが発生しそうな企業」をリストアップするといった活用法も考えられます。従来であればベテラン営業マンの勘と経験に頼っていた部分を、データに基づいて補強できるようになるわけです。

 二つ目は設備運営への応用です。焼却施設や選別施設、中間処理施設では、設備の故障や停止が収益に大きな影響を与えます。そこで過去の運転データや点検記録をAIに学習させることで、異常の予兆を検知し、故障前にメンテナンスを実施する予知保全の仕組みが構築できる可能性があります。

 製造業ではすでに実用化が進んでいる技術ですが、環境ビジネス分野においても十分な応用余地があります。設備稼働率の向上は、そのまま利益率の改善にもつながるからです。さらに将来的には、廃棄物の組成分析や選別工程への応用も期待されています。画像認識技術を活用することで、人手不足に悩む現場の省力化にも貢献できるかもしれません。こうした可能性を考えると、AIは単なる業務効率化ツールではなく、新しい競争力を生み出すための経営資源として捉えるべきなのだろうと思います。

 技術専門家を一人フルタイムで雇えば、年間で1000万円から2000万円程度のコストがかかると言われています。もちろんAIが専門家を完全に代替するわけではありませんが、専門家が行っていた調査や分析業務の一部を担うことができれば、長期的には大幅なコスト削減につながる可能性があります。

 また、人材不足が深刻化する中で、優秀な人材の確保そのものが難しくなっています。そう考えると、AIは単なるコスト削減策ではなく、人材不足への対応策としても重要な意味を持つことになります。

 私はしばしば「AI導入によるメリットは大型設備投資に匹敵する」と申し上げています。環境ビジネスの経営者は、設備投資には真剣に向き合います。数億円規模の設備更新であれば、何度もシミュレーションを行い、その効果を慎重に検討するでしょう。

 ところがAIについては、まだ「便利なパソコンソフト」程度の認識に留まっているケースも少なくありません。しかし実際には、営業力、技術力、情報収集力、さらには意思決定のスピードそのものを底上げする可能性を持っています。

 そう考えると、AIは設備投資以上に経営へ大きな影響を与える存在になるかもしれません。規制によって蓄積されたデータを、今度は競争力の源泉として活用する。そんな時代が、すでに始まっているのです。環境ビジネスの経営者には、ぜひこの点に注目いただきたいものだと思っています。

西田 純

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