5月22日付のとある英国コンサルタントのオンライン記事によると、化学産業はドイツ第3位の産業部門であるだけでなく、自動車、農業、医薬品といった他の主要産業にも、機械工学用の樹脂や農業用の肥料・農薬などの製品を供給している主要な産業である。
圧倒的なシェアだが
EU内ではドイツが圧倒的なシェアを誇り、2024年にはEU全体の化学製品売上高の約3分の1を占めたが、2025年の生産量は前年比で約2.5%減少した。
エネルギー価格の高騰
ウクライナ戦争、そして現在のイラン戦争によって引き起こされたエネルギー価格の高騰は、ドイツの化学産業に深刻な打撃を与えている。ドイツはコスト削減策を模索しており、例えば国内最大の総合化学プラントであるロイナ(Leuna)化学コンプレックス(ドイツ東部のザクセン・アンハルト州に位置する)では、そこにある企業が廃熱、副産物、インフラをそれぞれ共有している。
同コンプレックスに拠点を置くUPMバイオケミカルズ(本社:フィンランド)は、繊維、自動車タイヤ、ボトルなどに使用される再生可能な木材由来のバイオケミカル製品を生産している。現状では、残念ながら、これらのバイオ化学製品は化石燃料由来の代替品よりも高価であり、新たなバイオ精製施設の建設コストはサプライチェーン全体に波及しているが、将来的にはこれらのバイオ化学製品が有力な代替品となる大きな可能性を秘めている。
狭まる品質差、ドイツとアジア
原材料、エネルギー、物流コストの上昇分を製品価格に転嫁することは、特にアジア諸国との激しい競争のため、現実的な選択肢ではない。ドイツ製品とアジア製品の品質差は以前ほど大きくなくなり、ドイツの高い人件費に加え、煩雑な官僚主義と規制の厳しさが競争力を一層のこと低下させているのが現実だ。
しかしながら、アジアの石油化学メーカーは現在、ペルシャ湾からのナフサをはじめとする原料供給の枯渇に苦しんでおり、化学品サプライチェーンが崩壊しつつあり、再びヨーロッパに注目が集まっている。その結果、打撃を受けたヨーロッパの化学産業は、不安定ながらも予想をわずかに上回る第1四半期を終えたが、残念ながら、企業が感じている安堵感は長続きしないものと思われる。
海外移転か
ドイツとヨーロッパは、化学産業が競争力を失い続ければ、海外移転を余儀なくされるという現実に直面していることは明らかだ。多くの企業が既に投資を延期し、生産量を減らし、人員を削減している。ドイツ南西部のルートヴィヒスハーフェン・アム・ラインに本社を置き、150年の歴史を持つ世界最大の総合化学企業であるBASFは中国への投資とドイツ国内でのコスト削減で既に先陣を切っている。同社が一部のバックオフィス業務をドイツからインド、マレーシア、その他のアジア諸国に移転するという噂も流れ始めている。信頼性が高く手頃な価格のエネルギーへのアクセスが広がり、それを供給するインフラを整備する必要がある政策立案者には、大きなプレッシャーがかかっていると言えるだろう。
ドイツの現状
近年、ドイツではエネルギー価格の高騰や環境規制の強化により、産業界が甚大な打撃を受けている。ドイツのCO₂排出量は減少傾向にあるが、その主要因はエネルギー消費型の産業が縮小したことによるものであるようだ。
上述のように、ドイツでは、化学のみならず、鉄鋼、自動車といった基幹産業が国際競争力を喪失し、数多くの企業が海外移転を目指している。フォルクスワーゲンは昨年末にドイツ国内で初めてドレスデン工場を閉鎖し、跡地はAI・ロボット研究拠点として活用される予定だ。
2025年にはドイツ国内の主要な化学企業6社が大型プラントの停止を相次いで発表し、約2,000人の雇用が危機に瀕しているとの報道もあった。エネルギー価格の急騰と需要の低迷により、化学産業は「存亡の危機」に直面しており、ダウ社などの海外資本もドイツ国内での生産縮小に踏み切っているようだ。
最後に
筆者も度々声を小さく海運の脱炭素規制の記事で主張してきたことだが、ドイツの化学産業の敗退が、やはり行き過ぎた環境規制が経済発展を阻害する要因になりうるよい例なのではないだろうか。もちろんエネルギー価格の高騰と需要の低迷ももちろんありだが。日本の産業の今後もそのような視点から今後見ていきたい。