現在、全国で年間約119万トン排出されている廃石膏ボードは、今後の建て替えラッシュ等に伴い、約40年で約2.9倍に急増するというデータがある。しかしながら、最終処分率は28%と他の産業廃棄物に比べて高く、国内産業全体での対策が求められる。廃石膏ボードの再資源化促進の取り組みを始めた総合商社のフジテックスの環境事業担当者である寺原拡志氏(執行役員・環境事業部部長)に話を聞いた。
廃石膏ボードの再資源化の仕組み作りが急務に
廃石膏ボードを取り巻く状況は、今まさに大きな転換点を迎えている。寺原氏は、再資源化が急務となっている背景として、将来的な排出量の急増と、既存の処分ルートが限界に達しつつあるという二つの切迫した課題を指摘する。統計によれば、廃石膏ボードの排出量は今後40年で現在の約2.9倍にまで膨れ上がると予測されている一方で、現在の最終処分率は28%と、他の産業廃棄物と比較しても再資源化が進んでいないのが実情である。
これまで回収された廃石膏ボードの主な受け皿は、石膏ボードメーカーによる製品への再投入や、セメントメーカーでの利用であったが、この既存ルートが目詰まりを起こし始めている。寺原氏によると、石膏ボードメーカーがバージン材に対して再生材を混合できる比率は依然としてわずかであり、加えて品質管理の観点から、解体系廃石膏ボード材の再利用は高度な選別技術が必用など、受け入れ量は限定的にあるという。
さらに深刻なのが、最終処分場の逼迫である。古い石膏ボードの中には有害物質が含まれている可能性があり、溶出の危険性から管理型処分場での受け入れを拒否する動きが全国各地で出始めている。排出量が増え続ける一方で、最終処分する場所も再利用するルートも塞がれつつあり、このままでは建設現場や解体現場の停滞を招きかねないため、地域内で循環できる新たなソリューションの構築が急務となっている。
再生材需要が上昇
一方で、市場のニーズには確かな変化の兆しが見えており、寺原氏は「動脈側」と呼ばれる排出事業者の意識が劇的に変化していると語る。肌感覚として再生材の需要は確実かつ急速に高まっており、その背景には、製品メーカーがサプライチェーン全体に対して環境負荷の低減を強く求めるようになっている現状がある。最終製品を世に送り出す大手メーカーは、部品調達先である企業に対し、環境への取り組みをスコアとして求めるようになったため、これまで「いかに安く捨てるか」だけを考えていた企業が、「いかに質の高い再生原料を確保するか」という視点にシフトし始めている。
フジテックスの環境事業部には、3~5年後にはバージン材の原料調達が困難になると予測し、真剣に悩んでいる企業からの相談が増えているという。こうした企業にとって、廃石膏ボードを単なる廃棄物ではなく、安定的に供給可能な「資源」として捉え直す動きは、事業継続における重要な戦略となっている。
「タナカOECモデル」を展開する田中建設と業務提携

①自社改良土センターへ石膏系固化材を供給または同
県・近県の改良土センターへ石膏系固化材を販売
②自社所有の自走式土質改良機による土質改良工事へ
石膏系固化材を供給、または同県・近県で自走式土質改良機を
所有する建設業者に石膏系固化材を販売
こうした社会的要請に応えるべく、フジテックスがパートナーに選んだのが、石川県で独自のリサイクル技術を磨き上げてきた田中建設(石川県能美市、田中均社長)である。同社が開発した「タナカOECモデル」は、廃石膏ボードを「処分コスト」から「新たな収益源」へと転換させる革新的なビジネスモデルとして注目を集めている。
最大の特徴は、廃石膏ボードを原料として、付加価値の高い石膏系固化材「TNシリーズ」を製造する点にある。
従来の一般的なリサイクルモデルでは、再生材はコスト高になる事が多い。品質面もバージン材に劣ることが多いが、TNシリーズの石膏系固化材は、バージン材より安価であり、更に原料の汚泥に含まれる化学成分により、結晶反応が起こり、強度も優れている事が特徴である。日本全国に存在する再生土拠点が主なユーザーとなる。
また、廃棄物処理の許認可を新たに取得する必要がないケースが多く、事業参入の障壁が非常に低いという点も、全国展開を見据えた大きな強みとなっている。さらに、このモデルは災害大国である日本において重要な社会的意義を持っており、実際に能登半島地震の復旧支援において、再生された改良土が築堤盛土として活用されている実績もある。
フジテックスのネットワークでタナカモデルの普及を加速

総合商社であるフジテックスがこの事業に介在する価値は、同社が長年培ってきたネットワークと技術的知見の融合にある。フジテックスは設立40周年を迎え、環境事業を基幹事業として国内のリサイクラーに対し5,000機以上の設備納入実績を持つ。寺原氏は、自社の役割を単なる機械の販売店ではなく、社会課題と解決策を繋ぐコーディネーターであると強調する。
今回の提携において、フジテックスは3万社を超える顧客データベースを活用し、日本全国から再資源化事業に意欲のあるパートナー企業を発掘する役割を担う。具体的には、事業計画の策定からプラント導入の支援、さらには補助金申請のサポートまでをワンストップで提供する。特に、石膏ボードから紙を分離する前処理設備に関しては、同社が10年以上の販売実績とノウハウを持っており、この前処理の強みと、田中建設が持つ後段の製造技術を組み合わせることで、精度の高いリサイクル網を構築できると考えている。
もちろん、フジテックスが事業の対象とするアイテムは石膏だけではない。「金属や太陽光パネルも含め、幅広いネットワークやノウハウを持っているため、高いリサイクル技術を持っているが広める術がないという事業者様がいれば気軽に相談してほしい」と寺原氏は語る。
水平リサイクル推進に期待
なお、近年のリサイクル関連政策について、寺原氏は現場を熟知する立場から冷静な分析を示している。2024年に施行された「再資源化事業等高度化法(高度化法)」について、方向性は評価しつつも、現時点では実効性に課題があるというのが同氏の率直な見解である。現在の高度化法は緩和措置が限定的であり、依然として設置許可等の高いハードルが残っているため、事業者の投資意欲を劇的に高めるまでには至っていないという。
一方で、環境省が目指している、特定の優良なリサイクラーをプラットフォーム化し、排出事業者とマッチングさせることで水平リサイクルを推進するという構想には期待を寄せている。寺原氏は、法規制が足かせになるのではなく、意欲ある企業が地域行政の壁を越えて広域で活動できるような、より踏み込んだ制度運用が必要だと指摘する。フジテックスとしては、太陽光パネルやリチウムイオンバッテリーなど、今後社会問題化するであろうアイテムのリサイクルスキームを先んじて構築してきた自負があり、今回の石膏ボードの取り組みも、民間主導で経済的に自立した循環モデルを提示する挑戦の一つであると示唆した。
(IRuniverse K.Kuribara)