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台湾のリサイクル技術 スラグのエイジングをどうする

2026/08/03 11:40
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台湾のリサイクル技術 スラグのエイジングをどうする

のっけから私事で恐縮ですが、筆者が製鉄所で仕事をしていた頃、積み上がる一方のスラグをどうするかは、重要な問題でした。対象は高炉スラグと転炉スラグです。製鉄所では環境リサイクル室なる部署を設けて、販売を促進しましたが、適当な解決策はありません。高炉スラグは何とかセメント材料として販売することができました。いわゆる“高炉セメント”は、石灰石から製造する“ポルトランドセメント”に比べて、品質・性能は全く劣らないのに、所詮廃棄物利用だということで足元を見られ、なかなか高く売れませんでした。硫黄分が残っているとか、いろいろ言われて二級品扱いされたのです。

それでも販売できただけ高炉スラグはましでした。悩みの種は転炉スラグの方でした。脱リン後のスラグには(P)が多く含まれます。それが環境に漏れ出れば、湖水や海水の富栄養化に繋がり問題になります。もう時効ですが小倉製鉄所がこっそり転炉スラグを海洋に廃棄し、環境管理部長が逮捕されたことがありました。玄界灘の水質汚染につながったのです。もはや小倉製鉄所自体がありませんが・・・。

もうひとつ転炉スラグで問題視されたのは、猛毒のフッ素の含有です。転炉スラグにホタル石を添加すると、スラグの融点があがり、溶鋼とスラグとの界面積が増えて、精錬の効率が上がります。トランプエレメントを極限まで下げる難しい精錬に取り組む時、ホタル石は実に有効ですがこれは麻薬と同じです。害があるのです。スラグ中の(F)もまた悩みの種でした。

ちなみに全くの余談ですが、鋼中の成分を表す時はカギ括弧を使います。[P][F]といった具合です。一方、スラグ中の成分を表す時は丸括弧を使います。(P)、(F)と言った具合です。冶金を学んだ方には常識ですが、異なるご専門の方に念のためご紹介します。

販売されない転炉スラグは製鋼工場の周囲に積み上げられます。製鉄所の歴史とともに、スラグの山は高くなり、安息角ギリギリの角度で積まれていきます。空地が潰され、使わなくなったインゴット置き場が潰され、最後には従業員の駐車場が潰されていきました。筆者は転炉スラグの問題が解決する前に、製鉄所を離れ、その後の事情を把握していませんが、その後電気炉メーカーに勤務し、電気炉スラグにも同様の問題があることを知りました。

電気炉では脱リンもしなければ、転炉のような厳しい精錬もありませんから(P)の問題も(F)の問題もありません。なんだ簡単じゃないか・・と思ったら違いました。最大の問題であるエイジングの問題は、転炉スラグと共通でした。

転炉スラグや電気炉スラグ中に存在するCaOやMgOは、時間をかけて水分を吸収しCa(OH)2や、Mg(OH)2に変化します。これは発熱反応であり、ワンカップのお酒の燗やインスタント食品の加熱に用いられますが、同時に相当の体積変化をもたらします。

すなわち膨張するのです。これがエイジングですが、この膨張反応を短時間の内に完了させれば問題はありません。セメントになったあとに膨張しなければいいのです。しかし、実際にはそううまく行きません。セメントになった後、さらにコンクリートの構造物になった後もエイジングが続けば大問題です。構造物は変形し、破壊されます。

ではどうすればいいのか?蒸気を当てて、速やかに水分を吸収させるしかないのですが、筆者が製鉄所で転炉スラグのエイジングを試みた頃(20世紀)は1月以上が必要でした。ヤードに転炉スラグを積み、その上にビニールシートを敷いて、常圧で蒸気配管から蒸気を通すというものです。そして1月間待つのです。しかし、それでは時間も場所もエネルギーも大量に使うことになります。はてさてどうしたものか?

台湾の台中市郊外の彰化県の工業地帯にあるTSR(Taiwan Steel Resources Company)へ向かう車中で、筆者はかつて取り組んだ課題を思い出していました。

 

1.TSR社の概要

TSRは、TSUの子会社で、台湾の電気炉メーカーから回収した電気炉スラグを独自の技術でコンクリート原料に転換する企業です。

面白いのは、同社固有の技術というのが専らソフトウェアであるということです。

使用する高温高圧のチャンバー自体は別の業界で一般的に使われているもので目新しいものではありません。同社では中国のメーカーに製造させています。

電気炉スラグをトロッコに乗せて、そのチャンバー内に送り込み、高圧状態で蒸気を吹き込んでエイジングを促進させる・・ただそれだけですが、そこにノウハウがあります。その部分は特許申請中であり、工場内の写真撮影は不可でした。

TSRは2016年の創立で、2018年に工場が完成、2019年に操業を開始しています。そして還元スラグ(黒スラグ)の処理を2023年に開始しています。

現在は、2ラインあり、酸化スラグ(白スラグ)を年間19万トン処理し、同時に還元スラグ(黒スラグ)を年間17万トン処理し、製品のコンクリートは年間20万m3生産しています。

 その思想は、鋼は鋼の循環サイクル、スラグはスラグの循環サイクルが重要というものです。スラグの循環サイクルの中には、酸化スラグ、還元スラグの他にロータリーキルンスラグ、廃コンクリートも含まれます。

原料は、スラグの製造元の電気炉メーカーによって性質が異なります。塩素量も原料段階で測定されます。

設備は5列ある高圧チャンバーにスラグを装入し、21kgf/cm2の高圧環境下で高温蒸気を吹き込み3時間~6時間処理し、エイジングを完了させるというものです。

Steam Stabilized Reactive Phase Before Use と書いてありました。

3~6時間という数字は、筆者が経験した1月という時間と比べて驚異的な数字です。

トロッコは1両あたり2~3トンのスラグを載せ、8両連結で高圧チャンバーに入ります。処理時間は平均4時間ですが、3時間の場合は1日700トン処理でき、5時間の場合は1日500トン処理します。1シフト4人のみで自動化が進んだラインです。

3直3交替の24時間操業で、交替要員も入れて、合計15人が勤務します。

(1月当たり、4日間はメンテナンス用として操業を止めるとのことです)。

(作業の大半は操作室で行う監視業務になりますが、チャンバーの蓋が閉まったかの確認は現場で作業者が行います)。

反応は発熱反応であり自動的に昇温しますが蒸気発生のボイラーは天然ガスを燃料として用います。設定温度は215℃で、飽和蒸気圧下でエイジングを行います。(台湾の建築法に拠る)     

そこでサンクトの松本氏から鋭い質問が飛びます。

CaO+H2O→Ca(OH)2 MgO+H2O→Mg(OH)2は不可逆反応ではありません。500℃を超える高温域に入ると、逆に水酸化カルシウムや水酸化マグネシウムが、水分を放出する吸熱反応になり、体積も減少します。エイジングは逆の方向に進みます。人間もサウナに入れば若返る・・・ハズはありませんね。従って、温度管理は操業技術の重要なポイントとなります。215℃は経験的に得られた数字です。

技術面の質疑応答に応じてくれたTSRの蔡氏によれば、均一に短時間で蒸気を行きわたらせ、均質な材料を作ることが最も重要なポイントであるとのことです。

 

2.製品の用途と品質管理

出来上がった製品は、コンクリートとして使うのなら、当然品質検査が不可欠です。分析機器としては、XRF、ICP、XRDが用意され、高温高圧テストが実施されます。

 環境適合の基準は、NIEA R22に準拠し

 コンクリート用途の適合基準はCNS15311に準拠し

 膨張率の基準はCNS1240に準拠します。

その結果、製品の用途が決まります。

・CLSM:最も低強度で構造物用コンクリートとしては使用できません。

強度的には20kgf/cm2~90kgf/cm2 で埋設パイプラインの埋め戻し用が用途です。

ちなみに一般のコンクリートの強度・は210kgf/cm2~420kgf/cm2です。

・非構造物用途のコンクリート:基礎工事と屋外の床、埋め立て用途のコンクリートです。(Non-Structural Concrete Projects)

膨張率については全製品で0.5%以下の基準を適用しています。

TSRでは全ての製品を管理し、来歴を客先に報告できる体制を取っています。

(Traceability from the point of origin to the construction site)

この発想はISOの発想に近く、ISOの認定は受けていないが、これに準じた対応と言えます。

この還元スラグ(黒スラグ)については、2022年~2027年の間に57万トンを処理し、合格率は99%であったとのことです。

しかし、ここに至るまでは試行錯誤の日々であったとのことです。

前述の通り、電気炉メーカー毎にスラグの膨張率が異なっています。その一方で2010年までは膨張率の管理は非常に緩かったとのことです。

2010年以降は用途別に膨張率の管理が厳格化されたとのことです。

  酸化スラグ CaO 45~55% 膨張率 0.1%

  還元スラグ CaO 35~50% 膨張率 1~1.5%  全体で膨張率0.5%以下

そこででた質問は「両者をブレンドして薄めることは可能ですか?」

酸化スラグの方が硬くて粒径が大きい。

還元スラグの方が軟らかくて粒径が小さい。→ブレンドは容易ではない。直接コンクリートに触れない外料材には使用可能 ・・・とのことです。

TSRでは試行錯誤の結果、当初20%だった合格率を99%に上げることに成功。→ここにTSRのノウハウがあり、特許性があると認識。

日本にこの技術を導入するなら特許が成立してからとなりますが、日本の法規制の変更が必要となります。セメント需要が低迷している現在の日本の環境では、この技術を導入して、転炉や電気炉のスラグのセメント化を進めるのは難しいと認識します。

ここで余談ですが、2000年代の初め、筆者が大陸中国の上海宝山製鉄所を訪問した時のエピソードを書きます。

「転炉スラグの活用方法について何か知恵はないか?」と先方の製鋼技術の管理職に尋ねたところ、「膨張する材料であれば、膨張してもよい用途、さらには膨張した方が好都合な用途に使えばよい」との回答でした。

具体的には高速鉄道や高速道路の橋脚の周囲を固める用途が適当であり、軟弱な地盤で膨張してくれれば、地盤を引き締める効果が期待できる」というかなり乱暴な答えでした。これは、台湾での2010年の膨張率管理強化の前のエピソードであり、一概に大陸中国の管理が杜撰とも言えないのですが、乱暴な話です。少なくともロット間の膨張率がバラバラであれば、橋脚間に強度のバラつきや位置のズレが生じる可能性があります。コンクリート自体にも不要な内部応力が残存して破壊や寿命短縮の問題が生じます。

TSRでは膨張率が管理されなかった例として、凹凸ができた路面などの写真が提示されました。

大陸中国と台湾の発想の違いか・・と筆者は思いましたが、現在の大陸中国がどういう管理をしているかが重要です。コンクリートの膨張率に限らず、多くの面で台湾と大陸中国を比較する必要があると痛感しました。

以下次号

久世寿(Que sais-je)

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