【年末企画・錫】ミャンマー・ショック、半導体需要の弱さで相殺
2023年の錫価格は概ね落ち着いた値動きだった。2022年に新型コロナ禍の影響でマレーシアやインドネシアでの生産が減少し、品薄感から価格が高騰した影響を消化する動きが優勢だった。夏にミャンマーの一部域での錫生産が停止されたが、半導体向け需要も弱く影響は相殺された形となった。
■LME錫の年間値幅は2割、SHFE錫も年初水準に戻す
過去1年間のLME錫価格の推移($/ton)
ロンドン金属取引所(LME)の錫現物価格は12月下旬時点で$2万5000/tonちょうど近辺と年初から1%程度の上昇にとどまった。月間平均価格を見ると、高値は7月の$2万8751、安値は3月の$2万4014だった。値幅は2割程度で、値動きは小さな年だったと言える。2022年3月に$5万を超えてほぼ10年ぶりの高値を付けた後だけに、2023年は調整の動きが目立った。コロナ明けでマレーシアなどからの生産が回復した一方、半導体産業の戻りが遅れ、はんだ向け錫の需要も回復が遅かった。
過去1年間のSHFE錫価格の推移(RMB/ton)
中国の錫需要も、同国の製造業の回復遅れから鈍さが目立った。上海先物取引所(SHFE)の錫現物価格は12月下旬時点でRMB20万9000/ton後半と、年初に比べ0.4%程度の上昇にとどまった。
2023年の錫業界での大きなトピックは、8月1日のミャンマーの錫採掘停止だろう。
関連記事: ミャンマー Wa州 2023年8月からの錫採掘停止を発表 | MIRU (iru-miru.com)
国際錫協会(ITA)によると、ミャンマーShan州の自治区であるWA州で、すべての鉱山の操業が停止した。ミャンマー産錫は世界の錫生産量の10%程度を占め、主に中国の加工業向けに輸出されている。9月以降、少しずつ操業が再開し過度な不安は薄れているものの、7月のLME錫価格の年内高値はこの停止措置を前にした動きだった幸いにして半導体向け需要が弱かったため供給不足懸念は短期に収まったが、生産国の政策に供給が左右されることへの懸念はくすぶる。
世界の錫生産シェア
(出所:JOGMEC)
■2024年は再び需給ひっ迫か インドネシアの輸出禁止がカギ
ミャンマーを巡り起きた供給不安は2024年も続きそうだ。インドネシアのジョコ・ウィドド大統領が2021年、2024の錫インゴットの輸出禁止に言及している。自国産業保護が理由だが、インドネシアは世界の錫生産の20%弱を占めるだけに、ミャンマー以上にインパクトは大きい。
一方で、半導体産業は2024年こそ回復しそうだ。業界団体のSEMIは12月初旬に発表した半導体製造装置の市場予測で、2024年の半導体装置の市場規模を約1053億ドルと、前年比4%程度増えると予測した。半導体産業の回復に伴いはんだ向け錫の需要が高まれば、供給不足と相まって錫価格の押し上げ要因になるだろう。
関連記事: 2024年の世界の半導体製造装置市場は6%増 | MIRU (iru-miru.com)
■フィッチ系列も錫の先行きに強気
錫価格の先行きを強気にみる見方は増えている。米格付け会社フィッチ傘下の調査会社であるビジネス・モニター・インターナショナル(BMI)は11月、2023年の錫価格予想を、従来の$2万5,000/tonから$2万5,700に小幅ながらも上方修正した。同社は2024年について、「ミャンマーとインドネシアの要因から海上輸送の錫市場で供給が減少し始め、価格が上昇する」とし、価格は$2万8000程度まで上昇する可能性があると予測した。
一方、市場調査会社のモルドールインテリジェンスも、半導体産業の堅調な拡大を背景に錫需要も安定して伸びると予想。錫の世界市場規模は2023-2028年に年平均 2.59%程度で拡大すると予測している。
(IR universe Kure)
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