
輸入ステンレス鋼材について近々、経産省がアンチダンピング課税の調査を実施する、という噂がある。
これはかねてから、大手ステンレスメーカーが経産省に申し入れていた案件ではあるが、経産省はこれまではなかなか申請を認めようとはしなかった。
その理由として
1,日本のステンレス鋼材価格が他国よりも高い
2,ステンレスメーカーが赤字とはなっていない(むしろ過去最高の利益をあげているメーカーも)
の2点がネックとなっていた。
· 2024年度のステンレス冷延鋼板の輸入量: 21万3,056トン(前年度比25.5%増)で、初めて20万トンを超えました。特に中国からの輸入が63.1%増の9万7,849トン、台湾からは19.1%増の5万3,073トンと、いずれも過去最高を記録しています。
· 2024年のステンレス鋼材輸入量合計(速報値を含む): 29.5万トン(2023年比23%増)と報告されています。これは過去最多だった2022年を下回るものの、過去2番目に多い水準です。そのうち、冷延鋼板が輸入の3分の2を占め、28.6%増の20万5,499トンと過去最多に達しました。
近年、中国や台湾からの輸入が大幅に増加しており、韓国に代わって主要な供給国となっています。インドネシア材の輸入も増えつつあります。
(関連記事)ステンレス鋼材国内市場近況2025 #12 2024暦年 ステンレス鋼生産・輸出・輸入
ということで、確かにステンレス鋼材の輸入量は増えている。
問題はそれによって国内のステンレス産業がダメージを蒙っているのかどうか?だが、鋼材の価格的には足元でいうと304冷延薄板はキロ当たり520~540円、対して輸入品は韓国産で420~440円、中国品で380~420円、インドネシア品で350~380円、となっている。シンプルにいえば日本品がハイクオリティであるがゆえに世界一高い、といえる。
経産省の特別関税調査室に聞いてみたところ、AD(アンチダンピング)課税の調査対象となるのは、あくまで企業からの申し立てがあってから、のことで、今現在にステンレスメーカーからなにか依頼があったかどうかは申し述べることはできない、とのことだった。そのAD調査の要件となるのは「例えば、韓国、中国のメーカーが自国ではキロ当たり100円で販売していて、日本に輸出する場合は60円で売る、という事案が明らかになった場合は調査対象になる」とのことだが、
おそらく、これは無い。むしろ中国も韓国もインドネシアも自国で販売するよりも高めで日本に売り込んできている。日本市場が高いゆえ。
そして、実際ステンレスメーカーの利益を圧迫している、という事実があれば調査に乗り出す、とのこと。前述したが、現状では日本製鉄のステンレス事業(日鉄ステンレス)も日本冶金も生産量はかつてに比べると低位ではあるが、安定した利益をあげている。黒字だ。さらに大手のコイルセンター、リンタツ、阪和工材も減益にはなっているが、赤字、ではない。
材料よりも製品のほうが問題
ここで述べたいのが、ステンレス鋼材という材料、素材よりも、すでに中国などで製缶タンク、エレベータBOXに「加工」されて、製品として入ってくるもののほうが影響は大きい。
製品で入ってくると、国内の「金属加工業」は出番がなくなる(仕事がなくなる)。実際、中小の金属加工業は後継者がいないこともあり廃業あるいは同業に身売りするケースも増えていると聞く。東大阪あたりに多いのではないだろうか?
この金属加工の現場に詳しい方も「AD関税をかけるのならば、鋼材よりも加工品、製品のほうでしょう。素材を中国に送って、中国で加工して日本に輸入する、という事例は少なくない。AD関税をかけるのは素材よりも加工品にかけるべき」と語る。
この「完成品」の市場規模は数年前に比べるとかなり大きくなっていると思われる。これはこれでそうした「輸入加工品」の日本への経済効果、ダメージがいかほどかというバランスも重要ではあろう。
(IRUNIVERSE YT)