米国トランプ政権がロシア産原油の輸入国に高率の関税を課する政策を採ったことなどもあり原油価格が強含みに転じ、海外ナフサ市況が9月に入ってトン600ドル台を付ける日が増えている。円相場は米FRBが利下げに転にても円高転換には至らず、この状況が続くと10~12月の国産ナフサ価格が24年4~6月以来の下落基調に歯止めが掛かり、上昇に転じる可能性がある。
25年7~9月の国産ナフサ価格は前四半期比3,600円の下落の公算
国産ナフサ価格は25年4~6月がキロリットル当たり6万6,300円(前四半期比7,100円の下落)まで確定している。国産ナフサ価格がキロリットル7万円を切るのは23年7~9月の6万3,600円以来、1年半ぶりとなる。
国産ナフサ価格は海外ナフサ価格のほぼ2ヵ月遅れの入着ベースに諸経費を加算することで四半期ごとに決定されるが、海外ナフサ価格(月平均値)は5月がトン570ドル強、6月が590ドル強、7月が580ドル強と落ち着いた動きとなり、円相場も1ドル146円前後の小動きにあった。輸入ナフサ価格は7月の貿易統計速報ベースではキロリットル6万834円と前月比で若干の下落にとどまっている。8月、9月の輸入ナフサ価格はキロリットル6万円前後となると推定され、7~9月の国産ナフサ価格はキロリットル6万2,700円と前四半期比5.4%の下落、前年同期比では18.5%の大幅な下落になると試算される。
国産ナフサ価格は10~12月にはこれまで見方に反し、上昇に転じる可能性も
7~9月の国産ナフサ価格の試算値は我々の予想値のキロリットル6.1万円強からは若干、下落ペースがマイルドになった。石化企業もその前提として下落基調が続くとの見方が太宗であったが、ここにきて海外ナフサ市況が強含みに転じている。OPECプラスが自主減産を縮小し始め、米トランプ政権がロシア、ウクライナの和平交渉に対する不信感からロシアから原油を輸入している諸国に対し高関税を課する政策に転じたこともあり、海外ナフサ市況は9月に入りトン600ドル台を付ける日が多くなっている。また、円相場も米FRBが金融緩和に転じても一方的に円高に転じる可能性も小さくなりつつある。
海外ナフサ価格(月平均値)は8月がトン585ドル弱、9月が足元までの数値ではトン590ドル強と2ヵ月連続で上昇基調にある。このままの水準、円相場が続くと仮定すると10~12月の国産ナフサ価格はキロリットル当たり6.3万円前後となり前四半期比0.5%程度であるが上昇に転し、その後も強含みで推移する可能性が出てきている。
石化企業にはコンビナート再編と併せ、強気の価格戦略に順風
国内の石化関連企業の今25年度の国産ナフサの前提は日本ゼオンがキロリットル6.3万円(24年度は7.3万円)、トクヤマが同6.8万円(同7.65万円)への下落を想定しているが、その下値の見方には上下でバラつきがある。4月から夏場までは国産ナフサ価格は国内石化企業、合成樹脂企業、樹脂加工企業の想定を上回るペースでの下落になっていたが、足元では下落スピードも緩やかになり、下げ止まりから上昇に転じる可能性も出てきている。
川上の石化企業はエネルギー、物流の付帯コストの転嫁に加え、最近では修繕コストを転嫁する動きにある。国産ナフサ価格の多少の下落では価格を維持または値上げの構えにあり、コンビナートの再編、構造改善策も出揃い、強気の価格戦略の維持にはフォローの風となろう。
フィルム製造や樹脂加工の川下企業も国産ナフサ価格ベースのフォーミュラー制を採用しており、国産ナフサ価格の下落は期待していないが原料安の恩恵に浴することになる。フィルム大手の東洋紡やプラスチック容器大手のエフピコは25年度上期までは価格是正と原料安の相乗効果で好収益が見込まれる。
国産ナフサ価格の下げ止まり、上昇の幅が上記のような小幅で推移するようであれば、今25年度下半期の石化、樹脂加工の両者の収益にとって好環境となろう。

(叶 一真)