2025年〜2026年 ガリウム輸出市場の動向と今後の展望
2025年の中国におけるガリウム輸出データには、明確な段階的特徴が現れている。本稿では、輸出動向の推移、政策的背景、需給構造の変化、および今後の産業展望について論理的に解説する。
1. 2025年輸出データの概況と段階的特徴
2025年のガリウム輸出は、上半期から下半期にかけて量と仕向け先の双方で顕著な変化を見せた。
上半期の動向(多様化の兆し):
第1四半期の輸出量は約9,000kgと比較的安定して推移した。主な仕向け先は日本と韓国であり、特に日本は2,808.79元/kg(*1月)という高値で取引の大部分を占めた。続く4月には輸出量が4,627kgに増加し、仕向け先が多様化。ドイツ、カナダ、スロバキア、ポルトガルがサプライチェーンに加わり、中でもドイツは7月までの累計で7,300kgを調達した。単価面では、対日輸出価格が2月の2,660.71元/kgから12月には2,749.31元/kgへと上昇基調で推移しており、規制環境下における長期契約の価格安定性が示された。
下半期の動向(需要の急増とピーク):
下半期は輸出量が大幅に増加し、ガリウム取引の活発期となった。7月はドイツ(5,000kg)と日本(4,007kg)の需要に牽引され、単月で9,007kgに急増(年間総量の約18%)。10月には単月として年間ピークとなる15,570kgを記録した(主な内訳:ドイツ10,000kg、日本5,000kg)。
年間総括と迂回ルートの浮上:
年間累計では、日本が約28,300kgで最大の仕向け先となり、次いでドイツが約22,300kgとなった。一方、12月のスロバキアやエストニアなど東欧諸国向けの輸出データから、中国産ガリウムが第三国を経由して欧米のサプライチェーンに間接的に流入している可能性が示唆された。これは後述する「密輸取り締まり特別行動」で重点的に監視されている「第三国経由の迂回輸出」の手法と高度に合致している。
2. 政策の推移:輸出規制から法執行の厳格化へ
2025年の輸出変動は、中国当局による政策執行のペースと密接に連動している。
規制対象の拡大(2月):
2025年2月4日発効の「10号公告」により、新たにタングステンやインジウムなどが規制対象に追加された。これにより、ガリウムを含む7種の希分散金属すべてが中国のデュアルユース(軍民両用)輸出規制品目に指定された。
法執行の厳格化(5月):
2025年5月9日、国家輸出規制業務協調メカニズム弁公室は深センで「戦略鉱物密輸輸出取り締まり特別行動現場会議」を開催。偽装申告や第三国経由などの回避手法に対する重点的な取り締まりを明確にした。これにより、下半期は輸出総量が増加する一方で、コンプライアンス(法令遵守)の大幅な強化が図られた。
米中関係による政策調整(11月以降):
11月9日、中国は対米ガリウムなどの輸出禁止措置を一時停止(2026年11月27日まで)すると発表した。ただし、依然として北京からのライセンス申請が必要な規制品目であることに変わりはない。この戦術的な緩和は12月の輸出データに直結し、対日輸出(9,109kg)のほか、スロバキア(1,000kg)やエストニア(450kg)向けなど、貿易活動の顕著な回復をもたらした。
3. 需給構造の深層:価格高騰とサプライチェーンの分断
2025年から2026年初頭にかけてのガリウム市場最大の変数は、供給サイドのショックに起因する。
特殊な供給構造とアルミニウム危機:
ガリウムは独立した鉱床を持たず、世界の90%以上がボーキサイトからアルミニウムを精錬する際の「副産物」として抽出される。2026年初頭、中東情勢の悪化に伴う天然ガス供給の途絶により、カタールやバーレーンなどの主要アルミニウム製錬所が不可抗力を宣言。アルミニウム価格の高騰と同時に、副産物であるガリウムの生産量も急減した。
価格の急騰と波及効果:
供給逼迫により、2026年3月初旬にはガリウム価格が約2,100ドル/kgに達し、2025年初頭比で約123%の急騰を記録した。直近のスポット取引においても、依然として2025年の平均価格の約2倍となる2,000ドル/kgに迫る水準で高止まりしている。このコスト圧力は下流産業にも波及しており、2026年第2四半期には砒化ガリウム基板や、GaN(窒化ガリウム)パワーデバイス、高周波RFモジュールなどの製品価格が相次いで引き上げられている。
4. 今後の展望:ガリウム産業における5つの重要テーマ
現在のガリウム産業は、大国間競争とハイテク産業の交差点という歴史的転換点にある。今後は以下の5つの方向性が市場を左右する。
中国の供給的優位性は揺るがない:
世界における高純度ガリウム金属市場は、2025年の約9.8億ドルから2032年には15.8億ドルへ成長すると予測されている。資源の賦存量、政策環境、確立された産業チェーンを持つ中国の支配的地位を、短期間で代替することは困難である。
欧米による代替サプライチェーン構築の加速:
米国エネルギー省の「TRACE-Gaイニシアチブ」による回収技術支援や、MITによる電子廃棄物からのリサイクル技術開発が進んでいる。また、代替材料としての酸化ガリウム(β-Ga₂O₃)の研究も注目されている。しかし、いずれも社会実装や規模化にはまだ長い時間を要する。
構造的な需要拡大の継続:
AIインフラの急速な拡張により、AIサーバーやデータセンター電源モジュール向けのGaNパワーデバイス需要が爆発的に増加している。EV(電気自動車)、5G通信、防衛・航空宇宙分野と合わせ、2026年の世界市場は約35.1億ドル(年平均成長率22.2%)に達する見込みである。
米中対立が及ぼす政策的影響:
現在の対米輸出禁止の「一時停止」は戦術的措置に過ぎず、米軍ユーザー向けの輸出制限は撤回されていない。地政学的摩擦が再燃すれば、再び全面的な輸出禁止に踏み切るリスクが常に潜んでいる。
「タイトバランス(需給逼迫)」の常態化:
中国の政策的規制および副産物という物理的制約と、AI主導によるグローバルな需要爆発。この相反する要因により、ガリウム市場は中長期的に需給が逼迫した状態が続き、価格の高止まりがニューノーマル(新常態)となる公算が大きい。
以下に2025暦年の中国からのガリウム輸出の月別国別の推移を記す。
2025年ガリウム輸出分析(HSコード81129990)
| 年月 | 輸出国・地域 | 数量(kg) | 総額(元) | 単価(元/kg) |
| 202501 | 日本 | 3,007 | 8,446,038 | 2,808.79 |
| 202501 | 韓国 | 600 | 1,694,700 | 2,824.50 |
| 202501 | タイ | 100 | 337,275 | 3,372.75 |
| 当月合計 | 3,707 | 10,478,013 | ||
| 202502 | 日本 | 5,000 | 13,303,549 | 2,660.71 |
| 202503 | ドイツ | 300 | 728,810 | 2,429.37 |
| 202504 | 日本 | 3,007 | 7,507,391 | 2,496.64 |
| 202504 | カナダ | 1,000 | 2,280,297 | 2,280.30 |
| 202504 | スロバキア | 500 | 1,287,649 | 2,575.30 |
| 202504 | タイ | 100 | 325,806 | 3,258.06 |
| 202504 | ポルトガル | 20 | 55,780 | 2,789.00 |
| 当月合計 | 4,627 | 11,456,923 | ||
| 202506 | 日本 | 2,004 | 5,003,072 | 2,496.54 |
| 202506 | ドイツ | 2,000 | 5,377,816 | 2,688.91 |
| 202506 | マレーシア | 100 | 243,147 | 2,431.47 |
| 202506 | インドネシア | 10 | 27,293 | 2,729.30 |
| 当月合計 | 4,114 | 10,651,328 | ||
| 202507 | ドイツ | 5,000 | 12,974,748 | 2,594.95 |
| 202507 | 日本 | 4,007 | 10,606,964 | 2,647.11 |
| 当月合計 | 9,007 | 23,581,712 | ||
| 202508 | 日本 | 5,200 | 13,790,140 | 2,651.95 |
| 202508 | カナダ | 2,000 | 4,657,579 | 2,328.79 |
| 当月合計 | 7,200 | 18,447,719 | ||
| 202509 | ドイツ | 5,000 | 11,885,436 | 2,377.09 |
| 202510 | ドイツ | 10,000 | 24,343,098 | 2,434.31 |
| 202510 | 日本 | 5,000 | 12,117,695 | 2,423.54 |
| 202510 | マレーシア | 220 | 528,053 | 2,400.24 |
| 202510 | 韓国 | 200 | 566,641 | 2,833.21 |
| 202510 | タイ | 150 | 468,993 | 3,126.62 |
| 当月合計 | 15,570 | 38,024,480 | ||
| 202511 | 日本 | 6,207 | 16,327,766 | 2,630.54 |
| 202511 | 韓国 | 772 | 1,898,563 | 2,459.28 |
| 202511 | 台湾 | 100 | 268,823 | 2,688.23 |
| 202511 | エストニア | 100 | 292,215 | 2,922.15 |
| 当月合計 | 7,179 | 18,787,367 | ||
| 202512 | 日本 | 9,109 | 25,043,462 | 2,749.31 |
| 202512 | スロバキア | 1,000 | 2,143,719 | 2,143.72 |
| 202512 | エストニア | 450 | 1,169,388 | 2,598.64 |
| 202512 | タイ | 250 | 636,470 | 2,545.88 |
| 当月合計 | 10,809 | 28,993,039 | ||
(趙 嘉瑋)