先月、カナダの資源大手テック・リソーシズ(Teck Resources)と、世界最大級の非鉄金属製錬企業である高麗亜鉛(Korea Zinc)は、2026年の亜鉛精鉱の処理手数料(TC)を1トン当たり85ドルとすること、ならびに副産物(銀・ゲルマニウム)の手数料引き上げで合意した。
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本合意は、亜鉛製錬業界の収益モデルが、ベースメタル単体の加工から「ハイテク・防衛向け重要鉱物の抽出」へと構造的にシフトしている現状を浮き彫りにしている。
1. 亜鉛TCの現状:歴史的低水準とマージンの圧迫
2026年のTC水準: 1トン当たり85ドル。50年ぶりの最低水準であった2025年の80ドルからわずかに回復したものの、依然として記録的な低水準。
製錬所のジレンマ: 従来、TCは製錬所の収益の約3分の1を占める中核だったが、現在の低TC環境は、亜鉛単体での製錬ビジネスに大きな打撃を与えている。
2. 副産物の高騰によるパラダイムシフト
亜鉛TCの低迷とは裏腹に、高麗亜鉛は2025年に過去最高の利益を記録した。これは精鉱に含まれるマイナーメタルの価格急騰が直接的な要因。
銀(Silver): 価格が年間150%上昇し、高麗亜鉛の2025年における銀の収益は、主産物である亜鉛の収益を上回った。同社は世界供給の5%を担っており、その多くはテック社のアラスカ・レッドドッグ鉱山に依存している。
ゲルマニウム(Germanium): 防衛システムや先端技術に不可欠な素材であり、2023年の中国による輸出規制開始以降、価格が急騰(昨年単年で75%上昇)している。高麗亜鉛は2028年より新工場でゲルマニウム生産を開始し、脱中国サプライチェーンの要衝となる計画である。
3. 亜鉛TC安とゲルマニウム高騰の相関性
現在の市場では、「極端に低い亜鉛TCを受け入れてでも、高騰する銀やゲルマニウムを豊富に含む優良な精鉱を確保する」という新たな経済合理性が働いている。
副産物利益への依存: 高麗亜鉛のような高度な抽出技術を持つ製錬所にとって、亜鉛自体の処理手数料(TC)が採算割れに近い水準であっても、精鉱から得られるゲルマニウムや銀の莫大な販売益で全体収益を大幅に黒字化させることができる。
地政学的優位性: テック社のレッドドッグ鉱山産の精鉱は、米国の関税の影響により中国市場へ競争力のある価格で輸出できない。この制約により、高麗亜鉛は高付加価値な副産物を含む北米産精鉱を、自社に有利な条件で囲い込むことが可能になっている。
今回の合意は、亜鉛のサプライチェーンが地政学リスク(中国の輸出規制・米中関税)に強く影響されていることを示している。製錬企業にとっての主戦場は「亜鉛の加工マージン」から「精鉱に含まれる重要鉱物(クリティカル・ミネラル)の抽出価値」へと完全に移行しており、これが歴史的なTC安と製錬所の最高益が共存する最大の理由となっている。
(IRUNIVERSE YT)