ロンドンに拠点を置く、世界有数の輸送・物流保険会社であるTTクラブと、サプライチェーンリスク戦略アドバイザーであるBSI(英国規格協会)コンサルティングは4月、「2025年貨物窃盗レポート」を発表し、世界中の関連企業、物流事業者、当局に対し、厳しい警告を発した。
この包括分析レポートによると、貨物盗難は、世界のサプライチェーンにとって依然として重大なリスクとなっており、セキュリティ対策への継続的な投資にも関わらず、犯罪行為は適応性を保ち、輸送モードや地域を問わず、業務の複雑性、市場の変動性、監視の行き届かない箇所を巧みに狙っているようだ。
2025年も、世界の貨物盗難はサプライチェーンにとって大きな課題であり続け、地域別、製品別、輸送関連の明確な傾向が、その解決の難しさを物語っている。
貨物盗難の多発国
報告書によると、ブラジル、メキシコ、インド、米国、インドネシア、チリ、中国、ドイツ、南アフリカは、貨物窃盗事件の発生件数が最も多い国々として知られている。一方、エクアドルでは窃盗事件が急増し、グアヤス州などの沿岸部でギャング関連の暴力が激化するにつれ、窃盗件数はほぼ倍増した。
盗難被害の多い商品と新たな脅威
地域安定化のために軍事展開が行われたものの、麻薬密輸ルートの支配権をめぐる犯罪組織間の競争激化により、治安リスクは今後も高い水準で推移するものと予想される。世界で最も盗難被害が多い商品は、食品・飲料製品で、次いで農産物、電子機器、自動車部品、建築資材、金属類となっている。
報告書はまた、アジアで注目すべき新たな傾向として、中国におけるレアアースの窃盗を挙げている。中国の施設からのレアアース鉱物の窃盗は、その戦略的重要性の高まりが背景にあると考えられる。インドにおける医薬品窃盗の増加も挙げている。インドではこれまでこうした事件は稀であったが、取り締まりの強化や企業によるセキュリティ対策の強化が行われなければ、2026年に向けてリスクが高まることが予想される。
海上リスクの高まり
アジア海域における海賊行為の再燃に伴い、海上リスクも高まっている。2025年上半期の事件発生件数は85%増加し、過去10年近くで最高水準に達した。特にマラッカ海峡とシンガポール海峡では、前年比281%増という驚異的な増加を記録した。
船舶のセキュリティ対策が強化されたことで、大規模な貨物盗難は依然として稀だが、窃盗犯はエンジン部品、船舶用品、その他のセキュリティ対策が不十分な物品を頻繁に狙っているようだ。経済不況と取り締まりの不徹底が事件増加の一因となっているが、インドネシアでの集中的な逮捕により、年後半には活動の抑制に成功した。
東南アジア以外では、インド、バングラデシュ、ベトナム近海で散発的な海賊事件が報告されており、特にバングラデシュでは港湾セキュリティが強化され、事件発生件数が減少しつつある。
偽造品の増加
関税構造の変化に伴い偽造品が著しく拡大したことで、違法貿易の圧力も強まった。特にベトナムは、積み替え拠点から衣料品、医薬品、化粧品、パーソナルケア製品などの偽造品生産の中心地へと変貌を遂げた。
ベトナムでは取り締まりが強化されたものの、当局は複数の倉庫システムと国境を越えるルートを駆使する、ますます巧妙化する組織的な密輸ネットワークへの対応に苦慮している。
麻薬密輸ネットワーク
麻薬密輸ネットワークも2025年に適応し、検査が比較的緩やかな農産物や食料品の輸送をますます利用するようになった。米国と南米をパナマ経由でオーストラリアとニュージーランドに繋ぐ新たな密輸ルートが出現し、特にニュージーランドのタウランガ(Tauranga)港ではコカインの押収量が急増した。
密輸業者は、複雑な海上輸送ルートと税関の脆弱性を悪用し、輸送コンテナの中に隠したダッフルバッグに麻薬を詰め込むことが多かった。
今後について
2026年を見据えると、貿易詐欺、汚職、進化する犯罪手口、そして複合輸送におけるセキュリティ上の脆弱性が複合的に作用しあい、アジア全域および関連する貿易回廊におけるサプライチェーンを脅かし続けるものと予想される。リスク軽減には、検査の強化、特に高度なスキャン技術への投資、関係機関間の情報共有の強化、そして輸送モード全体におけるより一貫したセキュリティ基準の確立が不可欠と思われる。