世界鉄鋼協会(World Steel Association)のデータによると、2026年4月の中東の粗鋼生産量は前年同月比27.6%減の370万トンとなった。同協会が追跡する地域の中で最大の落ち込みであり、ロシア・CIS諸国の13.4%減を大きく上回った。同月の世界全体の粗鋼生産量は前年同月比1.9%減にとどまっており、中東一地域だけで世界全体の落ち込みの大部分を占める結果となった。
生産は落ち込むも、地域の拡張路線は続く
今回の生産減は、中東の長期的な成長路線とはそぐわない結果だ。中東はこの10年間、インフラ投資と、コークス炉用石炭ではなく天然ガスを用いる低炭素な製鉄プロセスであるDRI(直接還元鉄)への大規模な投資を背景に、世界で最も急速に拡大する鉄鋼セクターの一つを築いてきた。中東は現在、世界最大のDRI市場となっており、世界全体の生産量の3分の1以上を占めている。天然ガス価格が欧州の水準のごく一部にとどまることが経済性を高めており、インドなど遠方の買い手への輸出もこの2年間で大きく伸びている。
今回の紛争が損なっているのは、まさにこの構造的な優位性だ。DRI生産は安定した天然ガス供給と、原料輸入と製品輸出の双方における信頼できる海上輸送の確保に依存しており、いずれかが途絶すればモデル全体が圧迫される。
物流の問題から生産の問題へ
ホルムズ海峡での海上輸送の混乱により、複数のDRI施設が最低限の生産水準まで落ち込んでおり、原料の搬入と製品の搬出の双方で遅延が発生している。リスクは物流だけにとどまらない。イラン自体が同地域最大級の統合型鉄鋼メーカーの一つであり、今年初めに紛争が激化した際には、イランの施設への攻撃が続けば複数の湾岸諸国の製鉄所を攻撃する可能性があるとの報道もあった。同地域のアルミニウム製錬所2カ所は3月末にすでに攻撃を受けている。鉄鋼セクターはこれに匹敵する規模の直接攻撃は今のところ免れているが、この一件は、湾岸地域の統合型金属生産が、貿易ルートの混乱だけでなく、施設そのものへの物理的なリスクにもさらされていることを浮き彫りにした。
供給は打撃を受けても、価格は下落圧力にさらされる
海峡の再開は地域の生産者にとって明らかに好材料となるが、物流と生産活動が完全に正常化するまでにはかなりの時間がかかるとみられている。その間、地域の需要の低迷と、停止していた生産能力が徐々に再稼働することへの期待が重なり、価格にはさらなる下落圧力がかかっている。供給側の回復が弱い需要環境と重なるこの組み合わせは、中東の鉄鋼価格を当面圧迫し続ける可能性が高い。一方で、同地域の長期的な生産能力拡大の野心はおおむね維持されている。
出典:世界鉄鋼協会;S&P Global Commodity Insights;