国内のステンレススクラップ市場は、主要指標であるLME(ロンドン金属取引所)ニッケル相場の下落にもかかわらず、高止まりしたまま横ばい推移となっている。相場下落を試みるメーカー側と、集荷難を背景に価格維持を求めるサプライヤー側との間で激しい攻防が繰り広げられたが、需給のタイト感が勝り、現状維持に着地している。

LMEニッケル相場下落の背景:供給過剰懸念と需要の冷え込み
足元のLMEニッケル相場は軟調な展開を余儀なくされており、心理的節目のトン当たり17,000ドルを割り込み、一時16,000ドル近辺まで下落した。この相場下落の裏には、主に以下の構造的・マクロ的な要因が存在している。
インドネシアの供給増観測:
世界最大の生産国であるインドネシアにおいて、政府によるRKAB(採掘割当・作業計画)の承認枠が拡大されるとの観測が広がった。これにより、一時期の供給不安が後退し、過剰供給への懸念が再び市場を覆っている。
需要の低迷と高水準のLME在庫:
中国における景気回復の遅れから、ステンレス鋼やEVバッテリー向けを中心とした実需が想定以上に伸び悩んでいる。加えて、高金利環境の長期化によるマクロ経済への下押し圧力もあり、LMEの指定倉庫におけるニッケル在庫は高止まりしている。
国内スクラップ市場が「横ばい」を維持する2つの防波堤
指標であるニッケル相場が下落基調にある中、通常であれば国内のスクラップ購入価格もそれに連動して引き下げられる。しかし、現在の国内市場においては以下の2点が強力な下支え(防波堤)として機能している。

為替(円安)による価格底上げ効果:
ドル建てのLME相場が下落しても、為替市場における歴史的な円安水準が継続しているため、円換算での輸入原料価格は依然として高い。これが国内のスクラップ価格を下支えする直接的な要因となっている。
国内における深刻なスクラップ発生不足:
国内の製造業の稼働率低下や市中回収の停滞により、スクラップの発生量が慢性的に不足している。ベンダー(指定問屋)各社は集荷に苦戦しており、手持ちの在庫水準も極めて低い状態にある。
日本製鉄(日鉄)の値下げ打診と業者の反発
こうした市況の中、国内最大手である日本製鉄(日鉄)は、LME相場の下落を根拠としてスクラップ購入価格の値下げ(買値引き下げ)をサプライヤー各社に打診した。
しかし、この動きに対してサプライヤー(流通業者)側から強い反発が起きた。「現在の発生不足と集荷難の状況下で価格を引き下げれば、荷はさらに集まらなくなる」という現場の危機感が噴出した形だ。結果として、メーカー側が折れる形で値下げは見送られ、一応は「横ばい」を通すことで決着がついている。
海外勢・輸出市場の動向:中国勢の再浮上と韓国向けの足踏み
足元の国内需給のタイト感に加え、海外勢の動向も国内価格の維持に一役買っている。
中国勢の購買再開:
最近になり、中国系のバイヤーが国内市場へ再び買いに出始めている。提示している価格水準そのものは突出して高くはないものの、ヤード(置き場)持ち込み価格でキロ当たり220円前後を提示。これが国内価格の下限を支える要因(下値支持線)として機能している。
弱含みの韓国向け輸出:
一方で、韓国向けの輸出市場は依然として盛り上がりに欠ける。韓国ポスコ(POSCO)社は自国内の買値を引き上げたものの、日本国内市場の現行水準(メーカー買値230〜240円)と比較すると、輸出シッパー(輸出業者)にとって採算面でのメリットは薄い。そのため、韓国向け輸出シッパーの動きは鈍く、積極的な集荷・輸出ドライブには至っていない。
最新の主要鋼種別 メーカー買値(特殊鋼メーカー)
現状の需給バランスおよび海外勢の動向を反映し、特殊鋼メーカー各社の提示するスクラップ購入価格(キロ当たり)は以下の水準で推移している。
鋼種 | メーカー買値(円/kg) | 動向 |
|---|---|---|
304系 | 230 ~ 240 | 横ばい(※中国勢置き場:220円前後) |
316系 | 360 ~ 400 | モリブデン高で上昇中 |
400系 | 67 ~ 75 | 横ばい |
指標相場と国内実需のデカップリング(切り離し)が顕著になっており、当面の国内ステンレススクラップ市場は、LME相場の動向以上に「為替レート」「国内の発生状況(需給バランス)」そして「中国勢をはじめとする海外バイヤーの出値」に左右される展開が続くものと予想される。