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上海ニッケル国際化が映す金属市場の新秩序 LME一極体制から「三極時代」へ

2026/07/09 08:02
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世界の金属市場で価格形成の構造変化が鮮明になっている。これまで約150年にわたり世界の指標価格を担ってきたLME(ロンドン金属取引所)に対し、中国・上海先物取引所(SHFE)が国際市場への影響力を急速に拡大。4月に海外投資家へニッケル先物を開放したことで、アジア独自の価格指標としての地位確立を目指す動きが本格化した。

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背景には、中国とインドネシアを軸とするニッケル供給網の完成がある。さらに米国ではCMEが関税リスクを背景に独自価格を形成しており、金属市場はLME・SHFE・CMEの「三極体制」へ移行しつつある。

LME vs SHFEニッケル相場推移 1か月


中国・インドネシア経済圏が価格決定権を握る

SHFEが国際化の第一弾としてニッケルを選択した理由は明確だ。
過去10年余りで、中国資本はインドネシアのニッケル鉱山・製錬所へ巨額投資を進め、世界最大の供給網を構築した。インドネシア産ニッケルは、中国本土のステンレス鋼やEV電池産業へ大量に供給されており、生産・製錬・消費までが事実上一つの経済圏として機能している。
従来は、この巨大な現物市場で取引される価格もLME価格を基準としていた。しかし、中国は人民元建て価格をアジア市場の新たなベンチマークへ育成しようとしている。
ロイターのアンディ・ホーム氏は、「中国・インドネシアのニッケル経済圏は、地域価格を中国へ移すための理想的な舞台」と指摘している。


 

SMM価格が現物市場で存在感
実際、中国国内では既にSHFE価格だけでなく、上海有色網(SMM)が公表する現物価格が取引の中心になっている。
SMMが公表する電解ニッケル価格やNPI(ニッケル銑鉄)、高氷ニッケル、硫酸ニッケルなどの価格は、中国メーカー間の現物契約の基準として広く利用されている。
一方でLME価格は、中国国内でも国際輸出入契約や金融ヘッジの指標として残っているものの、国内実需との結び付きは以前ほど強くない。
SHFEの国際化は、こうした現物価格体系をアジア全体へ拡張する試みとも位置付けられる。

LME在庫からSHFE在庫へ
興味深いのは在庫の変化だ。
2026年前半、LMEニッケル在庫は10万トン台で頭打ちとなる一方、SHFE指定倉庫の在庫は2017年以来の高水準でLMEと並ぶ10万トン台まで積み上がっている(1年前はわずか2.5万トン)。
これは、中国余剰金属がLME倉庫ではなくSHFE倉庫へ流入していることを意味する。
すなわち、
•    欧州・世界向け価格=LME
•    中国・アジア向け価格=SHFE
という二つの現物価格センターが形成され始めている。
   
ニッケル価格は供給緩和でも底堅い
もっとも、ニッケル市場そのものは決して逼迫しているわけではない。
SMMによれば、中国では
•    ステンレス需要が弱い
•    EV向け需要も伸びが鈍化
•    NPI在庫は依然高水準
という状況が続いている。
一方で価格が崩れない最大の理由はインドネシア政府によるRKAB(採掘計画)規制である。
2026年前半は年間約2億6千万トンまで採掘枠が抑えられたことで鉱石不足が発生し、LMEニッケルは1万7,000~1万8,000ドル台へ上昇した。
その後、インドネシア政府は年間約3億6千万トンへの枠拡大を検討していると報じられており、市場では供給逼迫が徐々に緩和されるとの見方も出始めている。
もっとも、中国国内では依然としてニッケルマットや高氷ニッケルなど中間原料価格は高止まりしており、価格急落には至っていない。

銅も「三つの価格」の時代へ
ニッケルだけではない。
ロイターは、銅市場でも同様の変化が起きていると指摘する。
米国ではトランプ政権による輸入関税政策を背景に、CME銅価格がLME価格から大きく乖離した。
そこへ将来的にSHFE銅先物が海外開放されれば、
•    CME(米国)
•    LME(欧州・世界)
•    SHFE(中国・アジア)
という三つの価格が並立する可能性がある。
市場参加者は地域ごとの価格差を利用した裁定取引を行い、それぞれの市場が独自の需給を反映するようになるだろう。

競争ではなく市場拡大
もっとも、この変化は「勝者総取り」の競争ではない。
LMEは2025年に過去最高の取引量を記録し、2026年前半も前年比18%増加した。SHFEでも亜鉛を除く主要非鉄金属の取引が大幅に拡大。CMEでもマイクロ銅先物や週次オプションの取引が急増している。
さらにLMEは2026年10月から、SHFE熱延鋼板(HRC)価格に連動したドル建て先物の上場を予定しており、両取引所は競争だけでなく協調も模索し始めている。

世界の金属市場は地域化の時代へ
グローバル化の象徴だった金属市場は、地政学リスクやサプライチェーン再編によって地域ごとの市場へと再編されつつある。
ニッケルはその先陣を切った存在と言える。
今後、銅やアルミニウムなど他の非鉄金属でもSHFEの国際化が進めば、価格形成は一極集中から複数市場が併存する時代へ移行する可能性が高い。
LME中心の時代が終わるわけではない。しかし、世界の金属価格は「ロンドンだけで決まる時代」から、「ロンドン・上海・シカゴがそれぞれの地域需給を映す時代」へ入りつつある。ニッケル市場は、その歴史的転換を最も象徴する金属となっている。
 

(IRuniverse/MIRU S. Aoyama)

 

本記事は執筆者個人の分析および見解であり、IRuniverseの公式見解を示すものではありません。内容は情報提供を目的としたもので、投資判断の根拠として用いることを意
図したものではありません。

青山 雫

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