コークス比という言葉があります。高炉に装入する石炭と鉄鉱石の重量比率です。例えば、鉄鉱石1トンを溶銑にするのに石炭が2トン必要なら、コークス比は2で、はなはだ効率が悪いということになります。
実は高炉の技術改善の歴史とはコークス比を下げて来た歴史です。19世紀の時代、最初2ぐらいだったコークス比は1.0(鉄鉱石と石炭が半々)になり、やがてコークス比は0.5に達しました。CO2排出の元凶のように言われ、眼の敵にされる製鉄業なのですが、随分改善されてきたのです。
コークス比が2だった頃、石炭輸送がネックですから、製鉄所は炭田の近くに建設されました。米国の場合、ピッツバーグやモンバレーなど、ペンシルバニアの山間に製鉄社があるのは、近くにアパラチア山脈の大炭田があるからです。やがてコークス比が下がり、1.0くらいになると、製鉄所は鉄鉱石の鉱山と炭田の間に移動します。米国ではメサビ鉄山からの鉄鉱石がエリー湖岸に到着するクリーブランドに製鉄所が建てられました。さらにコークス比が下がると消費者立地型になり、一大消費地のシカゴに近い、イーストシカゴやインディアナハーバーに移動しました。
英国の場合も最初はミッドランド諸炭田に近い地域に製鉄所ができ、ドイツの場合はルール炭田に近いデュイスブルグやドルトムント、ザールブリュッケンに製鉄所ができました。
さらにコークス比を下げたい・・・と思った時、そもそもなぜ高炉に石炭(コークス)を入れるのか?という疑問にぶつかります。主な目的は、燃焼熱で鉄鉱石を高温にして溶かすことと、炭素で鉄鉱石を還元することの2つです。後者は必ず必要な反応ですが、前者は必ずしも必要とは限りません。
燃焼させるのは石炭である必要はありませんし、必ず溶解する必要だってありません。そういうことで、燃焼させるのは天然ガス、水素、COなどの気体とし、温度も鉄の融点である1538℃まで上げる必要がありません。(もっとも、銑鉄は不純物が多いので実際の融点は1200℃以下になります)。
実際の直接製鉄では炉内温度は1000℃以下(800℃程度)に保たれます。
こうしてコークス比を劇的に下げる、あるいはコークスを使用しない製鉄法が開発されました。製造されるのは直接還元鉄DRI(Direct Reduced Iron)です。
天然ガスを利用し、直接還元する方法です。直接製鉄とは鉱石を溶解せず固体のまま還元して鉄にする方法です。それに対して高炉法や反射炉法は溶解して還元するので間接製鉄と言えます。
直接製鉄で、還元する場合、天然ガスや水素などの気体で還元する方法と、従来通り石炭で還元する方法の2種類に分かれます。
前者には
- MIDREX法(ミドレックス: 世界シェア最大(約54〜58%)シャフト炉使用)
- HYL / Energiron法(Tenova–Danieli)
- 加圧シャフト炉(水素還元対応が進む)
FIOR / FINMET / CIRCORED法( 微粉鉱石対応の流動層プロセス)
があります。特徴は、高品質で、低S・低P、電炉向けの高級鋼に最適ということです。
後者はにはロータリーキルン法(RHF)があり、具体的には
- SL/RN法(ロータリーキルン) インドで多数稼働。スポンジ鉄として流通
- FASTMET法(神戸製鋼) RHF(回転炉床炉)で微粉鉱石+石炭を還元
- FASTMELT法 FASTMET+溶解炉で銑鉄を製造
- ITmk3法 還元・溶融して「鉄ナゲット」を製造
特徴は、微粉鉱石が使えること、設備が比較的簡易なこと、インドでのDRI生産の中心であることですが、 金属化率はガス系より低め(80〜90%)になります。
ここでは脱炭素の観点から天然ガスを還元剤とする方式について考察します。
石炭時代と同様に、天然ガス時代も、エネルギー産地の近くに製鉄所を設けるのが合理的ですから、天然ガス産出国や産油国の近くに製造プラントを設けます。しかし、そこに問題があります。直接還元の特徴とも言えますが、DRIの表面にはガスの抜けた孔が多数存在し、スポンジ状を呈します、表面積が大きく、かつ還元された状態であれば、空気中で容易に発火することになります。長距離輸送や海上輸送には耐えません。
DRI(スポンジ鉄)の使い方としては、製造プラントの横に電炉や転炉を設置して、そこですぐに製鋼することになります。鉄分含有量は86~94%です。特に、DRI製造後の高温状態(650℃前後)で、電炉に装入するものをHDRI(Hot DRI)=高温還元鉄と言います。電力消費を大幅に削減(EAFの効率向上)します。一方、常温まで冷めてから、電炉や転炉に装入するものをCDRI(Cold DRI)と言います。これも自然発火や粉化の問題があります。自然発火の危険や嵩張ること、粉化の問題からDRIは長距離輸送には適せず、遠隔地では使えません。
そこで製造後のDRIを熱間(650~700℃)で圧縮してブリケット状にする方法が考えられました。HBI(Hot Briquetted Iron)=熱間成形還元鉄です。減容化されて運搬が容易になりますし、発火の危険性は減少します。国際商品として輸出可能です。
種類 | 温度 | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
HDRI(Hot DRI) | 約600〜700℃ | 高温のまま電炉へ装入できるため省エネ | 電炉の効率向上 |
CDRI(Cold DRI) | 常温 | 再酸化しやすい、粉化しやすい | 工場内での短距離供給 |
HBI(Hot Briquetted Iron) | 常温(高密度成形) | 再酸化しにくく国際輸送可能 | 海上輸送・国際取引 |
西側世界の産業界は1960年代にエネルギー革命を経験しています。つまりエネルギー源を石炭から石油に転換したのです。液体ゆえ輸送が容易で燃え殻が発生せず。内燃機関で使用できる液体燃料に転換しました。それから半世紀以上経過して、やっと製鉄業も石炭から流体燃料への転換が実現しました。
高炉から電炉への切り替え、脱炭素化・・というトレンドに着目すると、HBIは注目の的になります。しかし課題もあります。現在の大型高炉は1日1万トンの出銑の可能です。ミドレックス法の設備規模は遥かに小さく、そのまま代替はできません。直接製鉄(固体還元)ゆえ、大規模化が難しいのです。設備自体は安価ですが、大規模化をどうするかが課題です。当面は中小規模の電炉メーカーにとって好都合な設備です。
個人的な興味ですが、HYL / Energiron法(Tenova–Danieli)に着目したいです。ダニエリがこの設備の大規模化を進めると同時に、世界の電炉メーカーにどのように売り込んでいくのか、おおいに気になります。
ところで直接製鉄は、古くて新しい技術です。日本に近代製鉄法が導入されるまで用いられてきた“タタラ製鉄”も直接製鉄であり、そこで生産された玉鋼(たまはがね)が強靭な日本刀の材料になっています。時代は昔に戻ったとも言えます。
タタラ製鉄で作られるスポンジ鉄は鉧(ケラ)と呼ばれます。まさに鋼の母であり、鉧のかけらは安産や子宝のお守りになります。筆者がタタラ研究会のメンバーだった頃、採取された鉧のかけらが、若い女性のメンバーに配られました。筆者も記念に欲しいと思って、財布を広げて受け取ろうとしたら「クセジュ君の財布は既にオケラだろう」と言われて、もらえませんでした。
電炉化、脱炭素化が進む一方で、スクラップ供給には限界があります。だから近い将来、HBIの争奪戦が始まりそうです。しかし財布がオケラでは買い付けできません。財務体質の強化が重要だと筆者は思います。