自動車リサイクル制度の施行状況の評価・検討に関する報告書の草案が先日公表された。ASRチームの統合については検討に向けた方向性が示された一方、中古車輸出前検査については、今後の議論に委ねられる形となった。自動車再資源化協力機構(JARP)の樋口勝敏業務執行理事に、中古車輸出前検査の必要性や、国内の自動車リサイクルにおける課題について話を聞いた。
――中古車輸出前検査が自動車リサイクル制度見直しの草案から漏れた
先日公表された「自動車リサイクル制度の施行状況の評価・検討に関する報告書(案)」において、JAERA石井代表をはじめ関係者が提案してきた中古車輸出前検査の導入方針が明記されなかったことについては、今後も引き続き議論を深めていただきたいと考えている。私たちが課題意識を持っているのは、国内の使用済自動車(ELV)の処理台数が減少傾向にあり、制度運営や資源循環に与える影響を丁寧に見ていく必要があるという点だ。
これまでは、新車の販売台数と使用済自動車の発生台数は、統計的におおむね近い動きを示してきた。新車が販売されれば、それに対応する形で古い車が廃車として発生するという流れが見られていたが、近年は両者の関係に変化が生じている。その背景の一つとして、海外への中古車輸出の拡大があると考えられる。
もちろん、海外で再利用可能な車両を中古車として輸出すること自体を否定するものではない。リユースは資源の有効活用という観点からも重要である。一方で、関係者へのヒアリングなどを通じて、本来であれば国内で資源循環に回すことが望ましい状態の車両が、中古車として輸出されている可能性も指摘されている。リユースされるべき車両と、資源循環に回すことが望ましい車両について、客観的に確認できる仕組みがあってもよいのではないかと考えている。
輸出の現場では、ハーフカットやルーフカットされた車体がコンテナに積み込まれるといった事例があるとも聞いている。こうした事例については、法令との関係を十分に確認する必要がある。適正なリユースと資源循環を両立させるためには、輸出時の確認は有効な選択肢の一つではないかと考えているが、関係省庁や業界団体、輸出に関わる事業者の皆さまも含め、幅広い観点から検討を進めていくことが重要だろう。
――ASRチーム統合については検討開始する旨が盛り込まれた
今回の報告書案において、ASR(自動車破砕残さ)処理を担うチームの統合に向けた検討が盛り込まれたことは、制度運営の効率化に向けた一つの前進と受け止めている。現在、国内のASR処理は、JARPが関与する日産自動車を中心とした「ARTチーム」と、トヨタ・ホンダを中心とした「THチーム」の2チーム体制で行われている。
この2チーム制は、制度開始当初、目標リサイクル率の達成及び市場での価格競争を促すことなどを目的に導入されたものだと理解している。一方で、制度開始から約20年が経過し、直近10年においては両チームともにリサイクル率95%以上という高水準で推移しており、価格競争によるコスト削減効果にも一定の限界が見えてきている。制度をより持続的なものにしていくためには、現在の体制を前提としつつも、さらに効率化できる余地がないか検討することが重要ではないか。
現場の解体業者や破砕業者からは、引き取った車のメーカーによってART、TH双方のチームとやり取りが必要となるため、一定の事務負担が発生しているとの声も聞かれる。事務手数料の請求や支払い、実地監査などの手続きがそれぞれ存在することから、現場にとっては複数の対応が必要になる場合がある。
仮にチーム統合が実現すれば、こうした手続きの大部分が整理され、相当程度の効率化につながる可能性がある。そこで生まれた余力を、新しいリサイクル技術の研究開発や設備投資に振り向けることができれば、メーカーと事業者双方にとってメリットのある仕組みとなる可能性がある。
もちろん、システム統合や運用変更には関係者間の調整が不可欠であり、慎重な検討が必要だ。一方で、検討時期についても、可能な範囲で前倒しできないか議論する必要があると思う。制度全体の効率化に向け、関係者が同じ方向を向いて検討を進めていくことが大切だと考えている。
――国内の自動車リサイクルの根本的な問題は
より根源的な課題として、日本においても、都市鉱山を戦略的資源としてどのように活用していくかについて、さらに議論を深める余地があるのではないかと感じている。リチウムイオンバッテリー(LiB)やモーターに使われる磁石などは、日本にとって重要な都市鉱山と位置付け得る資源である。
天然資源を持つ国々では、自国の資源を適切に管理するため、採掘期間、採掘方法、環境保全義務など、多くの条件を含む資源開発契約が結ばれている。日本においても、都市鉱山を単なる廃棄物としてではなく、循環型社会と産業競争力を支える重要な資源として捉え、政策面からどう活用していくかを考える必要がある。
資源の国際的な流通が進む中で、国内資源循環とのバランスをどのように取るかは重要な課題の一つと考えている。海外資本や海外市場の動きを一概に否定するものではないが、日本国内で発生する高品質な資源を、国内の循環システムの中でどのように活かしていくかという視点は、今後ますます重要になるだろう。
例えば、LiBのリサイクル過程で発生する「ブラックマス」についても、海外への流出が大きく進んだ場合、日本国内での資源循環に影響を与える可能性がある。都市鉱山を単なる「ゴミの山」と捉えるのではなく、国家の競争力を左右し得る貴重な資源として再認識することが必要ではないか。
また、JARPという法人の運営面から見ても、制度を安定的に維持していくための課題がある。中古車輸出の増加などにより国内の使用済自動車が減少し続ければ、資源循環やリサイクルの基盤、制度運営全体にどのような影響が生じるのかについて、将来的に検討していく必要があると考えている。JARPの運営資金は、自動車メーカーから受け取るフロン、エアバッグ、ASRの一部に関する処理手数料で成り立っており、これは処理台数に応じて決まる。そうした意味でも、使用済自動車の発生動向は制度関係者の一員として注視していく必要があると考えている。
――資源回収インセンティブ制度が4月から開始となった
資源回収インセンティブ制度については、鉄やアルミといった、すでに市場価値がある素材を対象にすべきだという考え方もある。一方で別の視点として、リサイクルが難しく、現時点では経済性を確保しにくい樹脂・ガラスへの支援も重要ではないかと考えている。制度の当初の検討段階でも、これらの素材が大きな論点であったと理解している。
特にガラスは、合わせガラスの中にフィルムが入っていたり、メーカーごとに成分が微妙に異なっていたりするため、リサイクルのハードルが高い。現状では「車から車へ」のリサイクル(Car to Car)は容易ではなく、回収されたガラスはビルの建材などに転用されるケースが中心となっている。
一部のメーカーでも研究が進められているが、官民が連携しながら研究開発をさらに推進していくことが望ましい。バージン材と同等に近いレベルで再生できる技術を確立していくとともに、ガラスについてもインセンティブ制度の枠組みの中でどのように位置付けるか、検討の対象として考える価値があるのではないか。
また、この制度については、より分かりやすい目標設定があれば、現場にとっても取り組みやすくなるのではないかと感じている。自動車業界全体として、2035年に向けた再生材活用のロードマップはあるが、それを個々の制度や現場の取り組みにどのように落とし込んでいくかは、今後の重要な論点だ。
これからのカーボンニュートラル時代において、リサイクルは単なる環境対策にとどまらず、経済性にも直結する。例えば、再生アルミを活用することで、バージン材を製造する場合と比べて必要な電力を大きく抑えられる。再生材をいかに賢く活用するかが、今後の価格競争力にも影響していくと考えている。
今回の報告書案には前進した部分もある一方で、中古車輸出前検査を含め、今後さらに議論を深める余地が残されている課題もあると感じている。現場の実情も踏まえながら制度設計を進めることが重要だ。日本の自動車リサイクル制度がより持続的で実効性の高いものとなるよう、関係者の皆さまと建設的な議論を続けていきたい。