舶用燃料油の品質の問題は,歴史的にも古く、また新しい問題だ。成分の不安定な粗悪油は、船舶の安全性、運航性能、および環境性能を脅かす恐れがあり、最悪の場合は航海中の主機関損傷に至る場合がある。
性状分析と品質チェック
船用燃料油は舶用燃料油規格ISO 8217注1)の燃料油規格に対応した性状分析を国際的に認知された専門の民間第三者検査機関で実施している。其の訳は、本船エンジンの航海中での故障リスクを未然に防ぐため、その性状分析や品質チェック(バンカーテスト)を動粘度、硫黄分、引火点、密度、水分、CCA I(計算芳香族性指数)、触媒微粒子(Al+Si)等などの分析項目を精密機器(GC-MS、ICP発光分光分析器など)を用いて行っている。
主要な検査機関としては、Bureau Veritas (BV)、VPS(Veritas Petroleum Services)、Intertek Lintecなどがあり、船用燃料分析の主要ラボをシンガポール、ロッテルダム、ヒューストン、上海、日本をはじめ世界に構えている。
給油量の透明化と作業効率向上
世界最大の給油(補油)港のひとつであるシンガポールにおいては、同港内で給油を行う全てのバンカーバージ船に対する質量流量計(Mass Flow Meter)の設置義務が、2017年1月1日より発効しており、給油の正確な量に関する争いごとの件数は減っているのが現状だ。
この義務化は、シンガポール海事港湾庁(Maritime and Port Authority of Singapore)が2014年以来、積極的に推進してきた事項で。この質量流量計の数値に従って燃料油供給証明書(Bunker Delivery Note)に供給数量が記載されており、以前のような給油量をめぐる争いは姿を消しているようだ
日本の場合は信頼性が高いため、国内でバンカーする際にはそれほど気にする必要はないが、海外の場合は不正を行い規定量の油を送ったように見せかけている場合もありうる。外航船の補油量は凄まじく、一度の補油作業の燃料代は数億円に上ることもあり、わずか1%燃料の補油量が少なかったとしても大きな損失となりうる。
ロイズ・レジスター(LR)の警告
ロイズ・レジスター(LR)注2)は、一部の船舶燃料がISO 8217規格の試験に合格しながらも、安定性、適合性、性能に関する問題を隠蔽しているため、定期的な燃料品質検査だけでは新たなリスクを特定するには不十分になる可能性があると警告している。
LRは、2026年上半期を対象とした最新の燃料油バンカー分析・助言サービス(FOBAS)燃料品質レポートにおいて、規格外燃料が海運業界にとって依然として深刻な懸念事項であることを強調している。しかし、最も深刻な事故は、技術的には仕様を満たしているものの、使用中に運用上のリスクが明らかになる燃料に関連しているケースが増えている事実だ。
調査の結果、一部の適合燃料には、通常の検査では検出されない非従来型の混合成分が含まれていたり、安定性や適合性に問題があったりすることが判明しており、根本原因を特定するにはより詳細なフォレンジック分析が必要となると報じている。
今年の3月と4月には、主要なバンカリング拠点で燃料補給を行った複数の船舶が運用上の問題に見舞われた。その後の分析で、影響を受けた燃料の多くから高濃度のエストニア産シェールオイルが検出され、場合によっては10~15%の濃度に達していたと推定されている。
ISO 8217ではシェールオイルは許容される混合成分として認められているが、LRのFOBAS調査では、シェールオイルの高濃度使用は燃料の不安定性を高め、フィルター、分離器、燃料ポンプなどの重要な船上システムに障害を引き起こす可能性があることが判明した。
船用燃料油の価格動向
2020年1月1日の国際海事機関(IMO)によるSOx規制強化により硫黄分上限が3.5質量%から0.5質量%に制限され,新たな舶用燃料油である超低硫黄燃料油(VLSFO)の本格使用が開始された.しかし、その性状は従来の舶用燃料油でSOxスクラバーを搭載していない船舶では使用が禁止されている高硫黄燃料油(HSFO)とは大きく異なるものとなり、課題山積だが、適合油ということで世界的に普及している。
その価格だが、米国・イスラエル対イランとの戦闘開始以降は一時千ドルを超えたが、7月24日現在では869ドルとなっている。今後の戦況に応じて、また原油価格に応じては変動する可能性がある。
注1)ISO8217
ISOが定める船舶用燃料油の分類、分析方法、及び仕様を定めた国際規格で、2024年5月30日に発行されたISO 8217の最新版は、燃料油の分類、分析方法、パラメータに改訂を加えており、環境規制の強化による業界の再生可能な船舶燃料への移行を反映している。また再生可能燃料への移行を支援するため、本改訂には燃料油のテスト要件の追加に伴うバイオ燃料の配合に関する事項も含まれている。
注2)ロイズ・レジスター(Lloyd's Register)は、英国に本部を置く船級協会で、その歴史は、1760年までに遡ることができる。歴史的には主として海運業を重視し、認証等によってクライアントを支援してきたが、20世紀後半には、石油・ガス産業、装置産業、原子力産業、鉄道業などの産業へと多角化していった。