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ステンレスの時代 唐榮不銹鋼の場合

2026/08/03 11:03
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ステンレスの時代 唐榮不銹鋼の場合

今、世界中に吹き荒れている嵐があります。それはインドネシアなどで精錬される極端に安価なステンレス鋼の登場と、それを圧延する青山などの中国製品による市場の席捲です。世界のステンレスメーカーはその対応に苦慮していますが、対応策は概ね4通りです。

1. 高付加価値・高級品のニッチな市場に特化して利益率を確保し、生き残る。

2. インドネシア製の半製品(スラブ、ブルーム、ビレット)を輸入するか、自社の精錬所をインドネシアに設立し、自国内の工場を圧延と酸洗、焼鈍の下工程に特化して生き残る。

3. アンチダンピングで提訴し、海外の安価品を排除する。低価格化の理由はともかく、市場価格が破壊されるのなら、激変緩和策としてアンチダンピングに訴える手はありますが、所詮時間稼ぎに過ぎない場合が多いのです。今、日本は台湾をステンレス鋼にダンピング課税をかけています。

4. 普通鋼を製造する会社と経営統合し、ステンレス専業メーカー固有のリスクを回避する。或いは国有化などで、政府の補助を受ける。

筆者が、台湾で一番の老舗ステンレスメーカーである唐榮鋼鉄を訪問した際、周総経理(社長)に、最初にこの質問をしました。

「日本では、二相ステンレスや特殊な表面品質のステンレス鋼などの高付加価値品に特化するなどの戦略を立てている。御社はどうお考えか?」

周総経理は、

「二相ステンレスの製造とか、そんなこたぁ、とっくに考えている。でもこのステンレス不況はそんなレベルじゃないんだよ。なにせ、生産量は十分の一に減り、作れば作るほど赤字なんだからね」と、英語と中国語のチャンポンで答えます。(実際にはもっと丁寧な言葉遣いでしたが)。

他社との提携については、2016年に同社が国有化されてから政府や業界の応援を受けています。同社の役員の過半も他社からの出向者が占めています。

 

1.唐榮などの台湾のステンレス業界の現状

そもそも唐榮鋼鉄とはどんな会社か・・です。

1940年、日本の統治下にあった台湾の高雄市で同社は創業しています。1984年から台湾で初めてステンレス鋼の生産を始めました。現在、台湾でステンレスを製造する会社は4~5社あり、その最大手はYUSCOです。

 現在、唐榮が保有する主な設備は、40トンEAF、45トンAODなどで、スラブを連続鋳造で製造しています。各種ステンレスを製造可能ですが、青山からの低価格品の影響で競争力は乏しく、特にNi系ステンレス(300番台)は、どの会社も採算が合わない状態です。

 製品は二相ステンレスや、高Ni系、400番台の低炭素系などに集中していますが、熱延ラインが無いため、高付加価値化に苦慮している状況です。

 生産能力は月3万トンですが、現状は月2千~3千トンと十分の一しか生産していません。その結果、毎月2500万~3000万台湾ドルの損失を計上しています。

生産すればするほど赤字になるというのは、全部原価で赤字というだけでなく、限界利益も出ていない状況です。それなら生産は中止すべきと言えますが、生産ラインの維持、社員の雇用維持の観点から生産を中止できないとのことです。

 製造現場で赤字が続くのに会社が倒産しないのは、36ヘクタールに及ぶ不動産の賃料収入が経営を支えているからです。同社の所有地は台北、新竹、高雄などに分散し、半導体企業等に貸し出し、同社に年間15億円の収益をもたらしています。

 日本は台湾に対してダンピング認定をして、台湾からのステンレス鋼輸入に3.6%の反ダンピング課税を課していますが、実質的な影響はありません。日本の標的は大陸中国のステンレス鋼であり、バランスを取るために、原価割れで販売する台湾も対象に加えただけです。

 一方、台湾政府は、大陸中国に対してもベトナムに対してもアンチダンピングの裁定を下していません。これはWTOに提訴されることを懸念してなのか、他の理由によるものなのかは不明ですが、いずれにしても動きません。それ以外の政府による救済策も特に用意されておらず、台湾のステンレス業界救済について甚だ消極的と言わざるを得ません。

 足元の収益改善策を考えた場合、廃棄物や副産物の処理コストを低減する対策が緊急で必要です。サンクトの中村氏からは鋭い質問がありました。副産物や廃棄物をどう処理しているのか?という質問です。

溶解工程で発生するスラグは有価の副産物として利用するのが最適ですが、CaOが80%を超えるとアスファルトに混ぜる使い方はできません。逆有償で処理を依頼する形で処分しています。ダストも有価で売りたいところですが、現時点では逆有償で処理を依頼しています。NiのスラッジのNiの有害性を考えて処理を委託しますが、これも工夫すれば、有価物としての販売も可能になりえます。

厳しい環境下ですが取り組むべき課題は多くあります。

 

2.唐榮不銹鋼が生き残るには、どうすればいいのか?

繰り返しになりますが、インドネシアでNPIを生産して、安価なNiステンレスが製造されるようになり、もはや他の諸国ではステンレスの溶製は現実的ではなくなりました。では台湾や日本のメーカーはどう対処すればいいのか?

ひとつの解決策は、中間製品(スラブやブルーム)をインドネシアから購入し、日本や台湾は下工程(熱延、酸洗、冷延、焼鈍)だけを受け持つという分業体制です。

この対策には既視感があります。かつて日本がアルミ精錬を断念した時と似ています。昭和の時代、ホール・エルー法を用いたアルミ精錬の技術で日本は先頭を走っていました。しかし電気の缶詰とも言われるアルミの精錬には電気代がかかり、電気代の高騰と共に、日本からアルミ精錬は消滅しました。

 しかし、圧延と押出成形の分野では依然日本の存在は大きく、日本のアルミニウム産業は存続しています。

 アルミに比べると、ステンレスの下工程は複雑で多様です。熱延もホットストリップミルよりはステッケルミルの方がふさわしい場合もありますし、酸洗も複雑です。冷延もゼンジマーミルなどのクラスターミルが必要です。焼鈍、酸洗、冷延の繰り返しパターンも様々で、会社ごとに独自性を発揮しやすいプロセスです。インドネシア以外のステンレスメーカーは事業を下工程に集中することで高付加価値化を実現し、生き残ることが可能です。

 これは上工程の溶解と凝固を行う唐榮にとっては、新しい分野に事業を転換することになり、ハードルは高いのですが、生き残るためには必須の対策と言えます。

ステンレスに限らず、全ての金属産業、いや全ての製造業は、変革を恐れては生き残れません。

台湾の場合、台湾が世界の半導体業界やPCの業界でリーダーシップを取るとは40年前、誰も予想しませんでした。しかし変革を望んだリーダー達がそれを実現しました。台湾南部に集中している金属産業が今後生き残るためにも変革が必要です。インドネシアにNi精錬とステンレススラブの生産を委託し、製品のステンレス鋼板は自国で生産・販売する分業制が生き残る道であると、筆者は考えます。

以下 次号

久世寿(Que sais-je)

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