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ダストの時代 誇りと埃

2026/08/03 11:23
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ダストの時代 誇りと埃

電炉ダストが、マイナスの価値を持つ忌むべき存在ではなく、宝の山だという意見は以前からあります。亜鉛を多く含むからです。しかし、実際のところ、これは亜鉛の地金価格の問題です。処理コストと得られる地金の価格のバランスで決まる訳です。全ての事業は経済合理性が無ければ・・つまり儲からなければ長続きしません。

筆者はその昔、鉄鋼スラグからのバナジウム回収を検討しましたが、その度にバナジウムの相場が下落して採算が合わなくなり断念した苦い経験があります。しかし、今回の金属価格高騰は本物でしょう。鉄を除くあらゆる金属の地金価格が上がっています。コバルト、タングステン、銅、アルミ、そして亜鉛です。

転炉ダストからの亜鉛回収が注目されるのは、ある意味当然です。

亜鉛メッキ鋼材は、多くのスクラップに含まれます。GIと言われるドブ付けメッキはトタン板など多くの建材に昔から使われてきました。自動車用鋼板については、40年ほど前から外装鋼板に亜鉛メッキが多用されるようになりました。それらの自動車が廃車になり、スクラップとなって電炉に帰ってくるには、20年から30年以上かかるでしょうから、ここ10年ほどで電炉スクラップに含まれる亜鉛の量が増えてきている可能性があります。

1.亜鉛価格の高騰

2.高炉から電炉への転換の流れ

3.循環型社会確立の社会の動き

4.スクラップ中の亜鉛量の増加

4つの事態が同時進行する今こそ、亜鉛ダストの回収のタイミングです。某タレント講師なら「いつ亜鉛リサイクルをやるの? 今でしょ!」と言うところです。

事情は日本も台湾も同じです。台湾でいち早く電炉ダストから亜鉛の回収を始め、着実に実績をあげているTSU(Taiwan Steel Union)を訪問し、同社の亜鉛リサイクルの実態を見学しました。

 

1.TSUの工場と操業実績

 TSUはその名前から分かるように、台湾の電気炉メーカー11社が、共同で電炉ダストリサイクルの会社を設立したものです。日本で言えば姫路鐵鋼リファインや曹鉄メタルに相当する会社です。1999年の操業開始以来、累計で290万トンの電炉ダストを回収し、106万トンの粗酸化亜鉛を生産しています。

TSUの電炉ダスト処理能力は、世界第三位

 方式はロータリーキルンを利用したWaelz法であり、2本の大型ロータリーキルンが粗酸化亜鉛を還元揮発して回収しています。

 工場の場所は、台中市郊外の彰化県の臨海工業団地です。但し岸壁はなく、製品の出荷はトレーラーに積んで台中港に運んで船積みします。

 確かに台湾の国内各所から電炉ダストを収集するには好都合な立地です。

董事長の林才翔氏によれば、先代の董事長が日本の工場経営を非常に尊敬しており、同社の工場でも日本的な管理が行われているとのことです。具体的には整理整頓、掃除が徹底されています。日本では4Sや5Sといった行動規範が壁に書かれていますが、そういったスローガンはありません。しかし、現場の床には塵一つ落ちていません。軍手をした状態で工場を一通り見学したあと、その軍手を見ても全く汚れが付いていないのに驚きました。粉塵対策を徹底しており、フレコンに入った製品は全て屋内保管になっています。搬送システムは完全無人化で、ロータリーキルンに装入する原料は地下からベルトコンベアーで運ばれます。

同社の技術は、3つのHと2つのZで表されるそうです。即ち

H:High Temperature 1300℃の高温で処理し、高速で冷却することでダイオキシン 発生を防止する。

H:High Mixture     乱流下で高い混合比率を確保し製品品質を安定化する。

H:High Residence Time 5時間以上の長時間処理で、高い亜鉛収率を確保する。

Z:Zero Carbon   高い省エネ性でCO2排出量を極限まで減らす。

Z:Zero Landfill    埋め立て処理ゼロで、全てを有効にリサイクルする。

林氏は、限られた台湾の国土の中で廃棄物を完全に循環させる社会的意義を感じ  倫理観に基づいた事業として亜鉛ダストリサイクルをとらえているようです。換言すれば、製品の粗酸化亜鉛の販売による収益は本質ではない・・とも言えますが、現実には良質な粗酸化亜鉛を販売することが収益の柱であるのは事実です。

原料は国内電炉メーカーの90%から回収される電炉ダストが主ですが、電気メッキメーカーも年間4000トンを引き受けています(これはNiも含有します)。

製品は、58%以上の純度の粗酸化亜鉛で粗酸化亜鉛としては高純度と言えます。その90%以上が輸出されます。輸出先は、日本、ベルギー、韓国、タイの順番になります。残りの10%は国内の化学工場向けで、最終用途はゴムタイヤ等になります。

日本の顧客からは粗酸化亜鉛の品質について高い評価を得ているとのことです。

製品は1.1トンのフレコンに梱包されます。各フレコンには二次元バーコードが付与され、製品の来歴や組成をその場で管理できるようになっています。ISOで重要視されるトレーサビリティを確保できるようになっています。製品の組成はフレコン毎の表示となりますが、ロット単位で平準化するよう調整されます。原料の完全リサイクルの証明としてUL2809の認定が付与され、埋め立てゼロの証明としてUL2799の認定が付与されています。

同社の技術は、欧州最大の亜鉛リサイクラーであるポーランドの企業にも技術移転され、コークス消費量の30%削減、亜鉛回収量の3%アップ等を実現しています。

(TSUは代替燃料として低炭素の燃料を使用)。

背景には、操業開始以来蓄積した3億件ものデータがあり、そのビッグデータを活用することで、操業の安定と高収率、省エネを達成しているという説明です。

TSUが輸出する技術は、亜鉛回収だけでなく、温室効果ガスを25%減らす技術であり、この分野では台湾唯一の企業であるとのことです。

TSUではWaelz法を採用していますが、亜鉛の回収方法には、他に選択塩化法などがあります。しかし100年以上にわたり、大規模なプラントで実績があるのはWaelz法だけであり、同社がこの方法を採用しているのは合理的な判断と言えます。

以前、台中の電気炉メーカーが、ルクセンブルグからRHF炉を導入し、ダスト処理を試みるも、コストと操業の安定性から操業を断念し、TSUと契約した経緯があります。

Waelz法自体は古い技術なるも、ビッグデータを活用し、IoTの技術で常にリノベートされており、常に最新の技術を提供していると、林董事長は強調します。

相手は常に進化しており、昔のままと思ってはいけない・・という喩えに「呉下の阿蒙に非ず」という言葉がありますが、まさにTSUの誇りはそこにあります。

バーゼル条約以降である2006年時点での台湾の産業廃棄物管理の実態について、日本のJETROが調査したレポートがあります。

200609_04.pdf

筆者は、このレポートを事前に読んでいて、台湾の実情を予測していましたが、現在の実態は全く違い、ずっと進歩していました。

工場を後にしたバスの中で、筆者は「まさに呉下の阿蒙ではなかったなぁ」とおおいに反省した次第です。

 

以下、次号

久世寿(Que sais-je)

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