「欧州における電池のセカンドライフ議論」 国際バッテリーリサイクル会議ICBR21−No.5
来たるEV時代に伴うEV用電池の増加に伴い、電池の再利用(セカンドライフ)は、電池産業の下流部門においてリサイクル処理技術と共に最も議論が重ねられている項目である。電池のセカンドライフ利用は、新しい概念であり、まだ市場も確立されておらず、取扱い基準や定義などの規制整備もこれからという現状がある。加えて、技術および経済的な課題も多数あげられており、それゆえに、先が見えず、議論では常に賛否両論が繰り返されている。最終的に、欧州のスタークホルダーがよく口にするのは、「蓋を開けてみないとわからない」という言葉だ。
国際バッテリーリサイクル会議でも、セカンドライフは、毎回主要議題の一つとなっているが、今回は、会議中に行われたノルウェーの大学研究者によるセカンドライフ議論と欧州における研究プロジェクトについて報告する。
まず、なぜセカンドライフが奨励されるのか。通常EV用電池は、キャパシティが20から30%に落ちた時点で、取り替えが必要となる。しかし、その時点での電池は、自動車ほどの性能を要求しないアプリケーションにはまだ十分利用が可能だ。また、セカンドライフへの利用は、現存電池の寿命を伸ばし、使用済電池のフローも削減するため、まだ多くの課題を残すリチウムイオン電池のリサイクル処理改善への時間を与えることもできる。加えて、電力貯蔵システムに必要な新しい電池の生産量を削減するため、環境負荷の削減にもつながる。これは、EUが掲げる欧州グリーンディールの中核を成す、循環型経済行動計画に沿うものであり、規制で(新電池規則)でセカンドライフが取り扱われる所以だ。
現在、セカンドライフによるアプリケーションで最も注目されているのは、電力貯蔵システムで、電池の回収義務を負う自動車メーカーが中心となって、エネルギー会社などと提携を行い、システムの開発やパイロットプロジェクトに着手している。これまでの結果では、セカンドライフによる電力貯蔵システムは十分機能することが証明されているという。
欧州では、実際に貯蔵システムの建設を行い進められているプロジェクトが23件あり、それぞれが数件のアプリケーションを試みている。その中で、22%が系統側、75%が需要家側に関するプロジェクトである。このことから、欧州では、家庭用などの小型の貯蔵システムへのニーズが高いことが伺える。
一方で、セカンドライフ利用への経済的な障壁として、今後、新しい電池の価格は下がっていくことが予想されており、これは、セカンドライフ製品にとって価格競争で不利となる。ただ、この点について、欧州電池リサイクル協会の代表者は、次のような意見を述べている。
「貯蔵システムに使われているリチウムイオン電池の主流は、リン酸鉄リチウムイオン電池で、このタイプはリサイクル価値が非常に低いことで知られる。そのため、リサイクラーの収入で賄えないリサイクルコストを電池メーカーが負担する必要がある。電池メーカーにとって延々続くリサイクルコストの負担は、製造継続へのインセンティブを妨げる可能性もある。そうなった場合、NMCなどリサイクル価値の高いEV用電池のセカンドライフ製品の需要は伸びることも考えられる」
技術的な面では、再構築作業において、電池の解体や取扱いのオートメーション化がまだなされていないことは、安全性における大きな壁となっている。また、電池は、多目的用に設計されていないため、異なる電池のセルやモジュールの組み替えは困難だ。さらに、電池の診断には、時間やコストがかかるため、より経済性の高い診断技術の必要性などが挙げられている。
目下のところ、確実なことは、欧州におけるセカンドライフ市場構築は、まずは規制によって牽引されるということだ。
(Y.SCHANZ)
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SCHANZ, Yukari
オーストリア、ウィーン在住フリーライター。現在、ウィーンとパリを拠点に、欧州におけるフランス語、英語圏の文化、経済、産業、政治、環境リサイクル分野での執筆活動および政策調査に携わっている。専門は国際政治、軍事、語学。
趣味は、書道、絵画、旅行、フランスワインの飲酒、カラオケ、犬の飼育。
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