沈むインドネシア、浮かぶフィリピン ニッケルで明暗、中国銑鉄価格は半年ぶり高値
ニッケルを巡り、生産世界首位のインドネシアと2位のフィリピンで明暗が分かれている。インドネシアは国内生産が滞り、2位のフィリピンからのニッケル鉱石輸入に頼る。一方のフィリピンは日米などとも協調してニッケル生産に注力し始めており、強気姿勢が目立つ。
■インドネシア、生産トップなのに第2位から輸入?
国別ニッケル鉱石生産の推移
(出所:JOGMEC)
ネットメディアのビジネス・ワールドが5月29日にトレーダーらの話として伝えたところによると、インドネシアのフィリピン産ニッケル鉱石の輸入量は4月に約50万トンに達した。2023年通年で37万トン程度だったことを考えると、急増だ。増加は5月も続いたとみられる。
理由は鉱石採掘が延滞していること。インドネシアは2020年にニッケル鉱石の輸出を禁止した。国内では生産をコントロールし、鉱石採掘業者には計画の概要をまとめた文書を添えて定期的に採掘割当を申請するよう義務付けた。この割り当て業務が滞っているという。背景には採掘業者側のロイヤルティ未払いなどの問題があるようだ。
さらに、5月には大雨が同国を襲った。5月3日に南スラウェシ州で洪水や地滑りが起き14人が死亡。5月13日にはスマトラ島西部で大雨によって鉄砲水や洪水が発生し、37人が死亡した。こうした災害により、鉱山から製錬所へのトラック配送が中断されたとも伝わった。
一方で、需要は伸びている。インドネシアではスラウェシ州で中国の青山集団がニッケル加工事業を手掛ける。電気自動車(EV)バッテリーやステンレス鋼向けの中国需要はなお旺盛だ。需要に応えるために、ニッケルの埋蔵量が多いにもかかわらずフィリピンからの輸入に頼ることになった。
■フィリピン、日本ともサプライチェーン構築へ
一方、フィリピンはニッケルに注力し始めている。フィリピン英字紙のManila Bulletinの5月28日報道によれば、同国のフレデリック・ゴー大統領投資経済担当特別補佐官は5月27日のパネルディスカッションで、「フィリピンの豊富な銅とニッケル資源を考えると、鉱業合理化は政府の優先事項だ」と話した。
同氏は「鉱石採掘からニッケル加工、そしてEVバッテリーへと関連産業を移行し、フィリピンでEVを生産することを最終目的としたい」とも述べ、具体的には、採掘許可手続きを現在の5〜6年から2〜3年に、最終的には1〜2年に短縮し、地域ごとに遍在する鉱物の埋蔵状況を整理するなどの政策を挙げたという。
フィリピンの鉱業を巡っては、日本も4月11日、齋藤経済産業大臣が米国で日米比商務・産業大臣会合に参加し、重要鉱物サプライチェーンの確立に向け共同声明を発表した。特にニッケルについて、脱中国依存を念頭に置いた日米フィリピンのサプライチェーン(供給網)構築で合意している。
プレスリリース: 齋藤経済産業大臣が初の日米比商務・産業大臣会合に参加しました (METI/経済産業省)
関連記事:日米比3カ国が協力してニッケル鉱物のサプライチェーンを強化、対中依存の削減を目指す | MIRU (iru-miru.com)
■中国銑鉄、半年ぶり高値
フィリピン産ニッケルの強含みは、フィリピンからの輸入が多い中国のニッケル銑鉄(NPI)価格にも影響し始めている。中国のニッケル銑鉄価格は5月26日に高値RMB1000/MTUと、2023年11月末以来、半年ぶりに節目のRMB1000台に乗せた。
過去3ヶ月間のニッケル銑鉄価格の推移(NPI content 10-15% China)(RMB/Nickel/MTU)
(IR Universe Kure)
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