コンテナ運賃動向(2024年7月) ピーク終えて下降へ
世界の主要航路で年初来の高値を7月に更新したコンテナ運賃だが、ここに来てアジア発北欧州行きでは横ばい、アジア発北米西岸では下落傾向にある。世界コンテナ運賃指数を提供するコンサル業者の予想は、スポット運賃はピークに達したようだが、海上輸送の混乱が続くため、しばらくは底堅く推移するとのことだ。高収益を上げている船社にしても先の見通しは困難なようで、神のみぞ知る状況のようだ。
現下のスポット運賃
コンテナ運賃動向をノルウェーのゼネタ(Xeneta)社のコンテナ運賃情報「Xeneta Shipping Index by Compass」(XSI―C)https://xsi.xeneta.com/ (40フィート・コンテナのスポット運賃で各種サーチャージを含む)で見てきているが、北米西岸向けでは6月からの1ヶ月間では8ドル上昇しているが、7月5日に年初来のピーク値7,897ドルをつけてから横ばいから下落に転じている。アジア発北欧州向けも同様で、7月半ばから8,400―500ドルのレンジでの横ばい状態が続いており、下げ幅は北米向けに比べて限定的のようだ。
(単位:米ドル)
Xenetaとほぼ同時期の他のコンテナ運賃指標で東アジア発米国西岸向け運賃(40フィート)を見てみると、Drewryでは6,934ドル(7月25日付)で7月11日につけたピーク値7,512ドルからは大幅下落。Freightos Baltic Index (FBX)では7,628ドル(7月26日付)で、7月12日のピーク 値8,101ドルから大幅下落。
日本発の運賃はどうか?
(公財)日本海事センターが公表している日本発の運賃(40フィート)、太平洋横断航路では昨年は上下の変動を繰り返していたが今年の1月、2月は上昇傾向、3月、4月にかけて下落傾向にあったが、5月に入ってからは世界の基幹航路と軌を一にするかのように急上昇し、6月も上昇した。下降傾向がみられるのかは、7月のデータが待たれるところだ。
(単位:米ドル/40ft)
東アジア/北米航路の運賃下落要因
東アジア/北米西岸向けスポット運賃が7月に入って高値をつけた後下落傾向にあるのは、幾つか原因が考えられる。第一は、米国内で衰えを見せていない購買・消費意欲に対応した在庫積み増し、特に中国からの一部製品への輸入関税上昇前の駆け込み輸入が一段落した結果と思われる。米国の輸入業者は、8月1日からEVは現在の4倍の100%、太陽電池と半導体は2倍の50%、鉄鋼・アルミニウム、バッテリー、重要鉱物、港湾クレーン、医療製品は25%に引き上げられる輸入関税を払わねばならない。但し、EVに関しては、昨日、米通商代表部(USTR)が延期する旨の発表があった。
東アジア/北米東岸向けスポット運賃も7月11日に年初来の高値、9,603ドルをつけてから下落傾向にあり、7月26日時点では8,820ドルと約2週間足らずで783ドル下げている。
北米でのストの可能性
米国の輸入業者をして在庫積み増しに走らせたのは、北米東岸港湾の労働協約が2024年9月末に期限切れを迎えることへの懸念だ。ストの可能性はまだ明らかになっていないが、最近の報道によるとカナダの西岸港湾にもストの可能性がくすぶっており、こちらは8月に入らないと状況は流動的だが、いずれにしてもストが実行された場合、北米向け海上輸送の混乱は荷主と物流業者にとっては深刻な問題を提起しそうだ。
労使交渉の争点は、米国とカナダの双方においてコンテナターミナルの自動化になっている。
北米東岸・ガルフ港湾の労働組合で構成される国際港湾労働者協会(ILA)は、6月11日に予定していた米国海洋連合(USMX)との労使交渉を中止。その理由は、海運王手のマースク(デンマーク)傘下のターミナル運営会社APM ターミナルズ(APMT)が運営するアラバマ州モービル港(Mobile)において、ILA組合員の労働力を排除しかねないオートゲートシステム、所謂ターミナルでの海上コンテナ搬出入の一連の作業の自動化が導入されたことが判明したこととされている。
日本を含む世界の主要な港湾の一部ではITを駆使した港湾での荷役作業等の自動化・無人化が導入されているが、実施例はほんの僅かで、未だ大きな広がりを見せていない。今年に入ってからもドイツとフランスでやはり自動化をめぐりストが発生した経緯がある。
港湾の混雑
香港の海運調査会社、LinerLytica(ライナーリティカ)の7月30日付け発表によると、先週、世界の港湾混雑はやや緩和され、特にシンガポールとクラン港では平均待ち時間が1日未満に短縮されるなど、東南アジアの港湾では大幅な改善がみられたが、北アジアでは台風や悪天候のため、多くの船舶が回避行動を余儀なくされ、最大4~5日の遅延が発生したとの報告。
ONE(オーシャンネットワークエクスプレス)は、タイ―インドネシア航路の「TID1」改編を7月に入って発表、混雑が続くシンガポールを抜港した新たな寄港ローテーションは、レムチャバンーポートクランージャカルターポートクランーレムチャバン。
台湾でのコンテナ積み替え
7月には、東南アジアの主要港の混雑を避けるべく、定期コンテナ船運航会社は積み替えコンテナを台湾の高雄等の主要コンテナ港に迂回させており、その結果、ターミナル間でコンテナを輸送するためにより多くのトラックが必要となり、高雄の道路インフラに負担がかかっている。
台湾の港湾を統括する台湾国際港湾公社(TIPC)によると、紅海危機に起因するスケジュールの乱れによる混雑が原因で、定期コンテナ船運航会社はシンガポール港、マレーシアのポートクラン港、ベトナムのカイメップ港への寄港を避け、一部のコンテナを高雄に迂回させ積み替えているとのことだ。その結果、高雄は6月に81万5千個のコンテナを処理し、前年比13%増となり、このうち、積み替えは 37万5千 個のコンテナで、前年比 12% の増加だったのことだ。
高雄は台湾の南西部に位置する同国最大のコンテナ港であり、年間取扱高が20フィート換算で1千万個の世界有数なコンテナ港である。
マースクのアジア太平洋市場最新状況
海運大手のマースク(デンマーク)は7月17日、顧客向けにアジア・太平洋地域の最新市場状況を発表し、第三四半期中もアジア発のほぼ全域で需給がひっ迫していると報告。
同社は、追加コンテナの確保や輸送能力増強への対応をとるとしているが、紅海情勢の悪化により、欧州、北米向けの輸出が多いアジアは一番大きな影響を受け、今後影響はシンガポール等のアジアのハブ港を通じてオセアニアや豪州の主要港の混雑を招く可能性があるとも警告している。
更に、現在アジアの港湾ではシンガポール、豪州、上海などをはじめ全域で、サービスルート変更、スケジュールの混乱が発生しており、台風シーズンの到来もあり、中国東部、華南ではその影響により混雑が悪化する可能性があるとも警告している。
極東発北欧州・地中海向けは、喜望峰経由での運航により需給がひっ迫した状況が続いており、キャパシティ不足は第三四半期まで継続するとの観測を示しており、極東発米国両岸向けは、需要は依然堅調で、特に西岸向けには大型船を投入しているものの、需給がひっ迫した状況が続いているとの見方。
中東、インド向けも需要は高い水準にあり、船腹利用に制限のある状況が続いており、極東発アフリカ向けは、6月に追加のスペースを確保したにも関わらず需給のひっ迫が継続しているとの報告。
アジア域内航路では、中国発のコンテナ不足が続いており、各船社は、各仕向け地から空コンテナを中国まで回送してくる必要があり、船腹不足の中で回送用スペースを割り当てなければならず、サプライチェーンの非効率化が発生しているとの報告。
日本・アジア/米国間コンテナ貨物の荷動き(TEU: 20フィート換算)が好調維持
日本海事センターが7月30日に発表した、2024 年 6 月のアジア(18 ヶ国・地域)から米国へのコンテナ荷動き量は、前年比 14.8% 増の 181.1万 TEU。1-6 月の累計では、前年同期比 15.8% 増の 995.7 万 TEUと好調。
国別では、日本は 6.8%増となる5.6万TEU、中国は14.9%増となる101.1万TEU、韓国は28.2% 増となる12.3万TEU、台湾は0.7%減となる5.8万TEU、ベトナムは14.8%増となる22.4万TEU、インドは27.9%増となる10.7万TEU。
地域別では、ASEANが12.3%増となる42.4万TEU、南アジアは25.1%増となる13.3万TEU。
喜望峰経由ルートでの悪天候でコンテナ流出
7月には、南アフリカ周辺海域での悪天候により、10メートル以上の高波が発生するなど、航海条件が悪化、7月8日から11日まで、喜望峰を通過するコンテナ船はほぼ皆無の中、喜望峰に近いケープタウン近くを航行していたフランスのコンテナ船社CMA―CGM運航のコンテナ船が高波に襲われ、コンテナ44本が流出、船上のコンテナ30本がダメージを受けたとの報道もあった。
天候改善により航行が再開、幸いにも影響は限定されたものであったようだが、周辺を航行する船舶約600隻が影響を受けたとの報道もあった。
喜望峰周辺は、コンテナ船のみならず、ブラジル積み―極東揚げ鉄鉱石、西アフリカ積み―中国揚げボーキサイトなどの基幹輸送ルートとなっており、今後もサイクロン等の海洋気象の悪化による停船などの影響は軽視できないことを物語っている。
最後に
本文では触れなかったが、アジア域内のコンテナ荷動きは依然として好調で、日本海事センターの最新情報によると、アジア域内航路 (2024年5月)のコンテナ荷動きは4,280,143 個(20フィート換算)で5 か月連続のプラスで前年比では3.8%増。これは太平洋航路、欧州航路、日中航路のどれをも荷動き量と伸び率で上回っている。
アジア域内での船腹不足は、一部の外電報道によると、好調で利潤率の良い北米と南米向けへの船腹投入によるものとの情報もある。
またコンテナ船社の一部は、コロナ禍の時のように、船腹不足を補うべく多目的船(MPV)、 コンテナや一般貨物だけでなくブレーク・バルク貨物(コンテナ化できないもの)をも積載可能な船、を傭船しているところがあるとの一部報道だ。
(IRuniverse H.Nagai)
世界の港湾管理者(ポートオーソリティ)の団体で38年間勤務し、世界の海運、港湾を含む物流の事例を長年研究する。仕事で訪れた世界の港湾都市は数知れず、ほぼ主だった大陸と国々をカバー。現在はフリーな立場で世界の海運・港湾を新たな視点から学び直している。
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