ポーランド国際自動車リサイクル会議(FORS)、ワルシャワで開幕

国際自動車リサイクル会議(FORS)がポーランド・ワルシャワで22日・23日の2日間にわたって開催される。MIRUはFORSのメディアパートナーとして2回目の参加となる。
22日初日会場ホテルには、地元ポーランドを中心に、オランダ、フランス、ドイツ、アイルランド、ベルギー、日本を含め15カ国から、欧州委員会、自動車リサイクル関連企業、業界団体、政府組織、メディアが参加した。日本からは、MIRUでもお馴染みの熊本大学教授が登壇者として参加している。
現在欧州の自動車関連業界が最も注目する会議テーマの一つは、現在修正作業が進行中のELV規則案の方向性だ。FORSも例に漏れず、ポーランドは現在のEU理事会議長国ということもあり、会議初日はELV規則案の現状における議題が中心となった。今回は欧州自動車工業会や欧州自動車部品協会も加わっており、ELV規則案の議論に必要な顔ぶれが勢揃いした。
まず欧州委員会のELV担当者Jaco Huisman氏から、ELV規則案作業における協議の現状についての発表があった。同氏はプレゼンテーションのなかで、日本で4月にメディア報道により関連業界から懸念の声が上がった自動車への炭素繊維使用に対する規制について触れ、「炭素繊維の使用を禁止するのではなく、リサイクルを推進する」という欧州委の立場を明らかにした。今後のELV規則案のロードマップについては、Huisman氏によるとEU理事会および欧州議会総会による投票、その後のトリローグ(三者協議)協議(妥協案への到達)は今年末になる予定で、発行時期は2026年初頭となる見通しだ。
EU理事会におけるポーランド代表者の一人Maciej Biatek氏からは、EU理事会のWP(ワーキングパーティ)によるELV規則修正案の協議状況の報告があった。EU理事会では、再生材含有ターゲット数値、拡大生産者責任制度(EPR)、解体義務要項などにおける修正案内容を中心に協議が行われている。気になるEU理事会におけるプラスチック再生材含有ターゲットの具体数値についての言及はなく、現在もまだ協議中ということであった。一方で、おそらく25%を超えることはないだろうとEU理事会の関係者(ポーランド)は述べている。目標値については、欧州議会においても多数の異なる数値が提案されていることから、協議は長引くことが想定されている。またBiatek氏は、法案におけるプラスチック再生材の定義は「欧州域内における廃棄物由来」とされていることについて触れた。これは、例えば「日本のトヨタが欧州市場で日本産の自動車を販売する場合、プラスチック再生材の使用にあたり欧州からプラスチック廃棄物を日本へ輸入しリサイクルしなければならない」という不合理な状況となる。そのためこの定義は修正する必要があると述べた。
コーヒーブレイク後のセッションでは、欧州自動車協会(ACEA)、欧州自動部品協会(CLEPA)、欧州自動車リサイクル協会(EGARA)、ポーランド保健協会などの業界団体による登壇が続いた。自動車業界からは、ELV規則案要件におけるメーカーの立場が表明された。物議を醸しているプラスチック再生材含有ターゲットについては、ACEAは段階的にまず15%その後20%が「現実的」な数字であるとした。自動車リサイクル協会からは、ELV規則要件におけるOEMとは対照的なリサイクル業者の声が報告された。また、最近の欧州自動車OEMによる集団カルテル協定の発覚について触れ、現行のELV指令におけるリサイクル要件が尊重されていないことを批判、新ELV規則への期待を表明した。ポーランドの保険協会からは、生産者責任制度の遂行にかかる要件における同協会の立場を表明した。
FORS会長Adam Malyszko氏からは、ELV規則案におけるスコープの拡大に関わるポーランド国内の自動車解体認定業者(ATF)への影響について語った。プラスチック再生材ターゲット数値については、海外からの安価なプラスチック再生材の利用が起こる可能性など、要件の「濫用」の懸念について触れた。また、EPRスキームにおける個々の回収システムの役割(PROに対し)とその重要性についても触れた。さらに、国内における違法な市場の取り締まりや罰金強化の必要性を強調、規制が実際に適用になり機能するまでには時間を要することへの警告と規制の施行のスピード化を訴えた。
午後からは「ELV規則は市場の期待に応えるのか」を議題に午前中の登壇者によるパネルディカッションが行われた。Maciej Biatekは議題絵への率直な回答として、「半々だ」とのべた。Huisman氏は、「新規制により必ずしも安価ではない自動車の質や価値がその「代償」を得るはずだ」と述べた。ACEAは対照的に「自動車業界は厳しい現状に直面しており、厳しい規制要件はその競争力を必ずしも高めるものでなない」と主張した。CLEPAは「採択までにはまだ時間があり、業界にとってより機能する規制内容とするべきだ」とした。FORS会長は、「不法業者の蔓延、中国からの安価な製品が流入などにより、ATFの競争力を弱めている現実がある。リサイクル業界の競争力を高めるには規制の強化が必須だ。」と語った。
自動車産業関連のコンサルタントWilly TomboyからはELV規則案の修正案におけるEPRスキームに関連するコOEMのコスト負担制度に関する要件(第22条)について触れ、条項の文章が明確でないことを指摘、自動車業界の混乱を招いているとした。ACEAはこの第22条について、「行政上の負担を増加させるのみで環境負荷への削減に貢献するものではない」として消去するよう主張している。EPR制度下で、国境を跨いだ料金負担制度を導入には、料金の徴収法や責任の定義などの難しさがある。
22日最終セッションでは、「EU域外のELVリサイクル」をテーマに米国のAutomobile Recyclers Associationが同国の自動車リサイクルの現状についてトークを行なった。その後「ELVリサイクルの日本における優良事例」をテーマにFORS会議の常連である熊本大学・外川健一教授によるプレゼンテーションが続いた。FORS会議には初回から参加している教授が冒頭にポーランド語で挨拶、会場からは大きな拍手が起こった。プレゼンテーションでは、日本の出生率の低下に触れながら、一方で若者の自動車への興味は失われていないことを指摘した。傾向としては、多くの若者が近年のビジネスモデルであるカーシェアリングへ興味を示していると述べた。加えて、日本のELVの数が低下している現実について説明した。また、北九州が実施しているエコ・タウンプロジェクトについてビデオによる紹介が行われた。エコタウンは、多数のリサイクル施設が集まるクラスターで、一施設からの廃棄物がほかの施設のリサイクル材料になる仕組みとなっている。
夜はネットワークディナーが開催され、ポーランドの強いウォッカが注がれるころには生バンドの演奏が登場、ステージ前はダンスホールとなり、夜は賑やかに更けた。(写真参照)
FORS会議は、ポーランドをはじめとする東欧諸国の現状を知る貴重な機会を提供する、日本国内ではまだ馴染みの薄い国際会議である。規模は比較的コンパクトでありながら、ネットワーキングが容易で、ポーランド政府、欧州委員会、さらに欧州の主要業界団体も参加する、国際的に重要な場となっている。何よりも印象的なのは、ポーランドの人々による温かく心のこもった歓迎である。次回の開催は2年後となるが、MIRUの読者においても、ぜひ参加を検討されたいところである。
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SCHANZ, Yukari
オーストリア、ウィーン在住フリーライター。現在、ウィーンとパリを拠点に、欧州におけるフランス語、英語圏の文化、経済、産業、政治、環境リサイクル分野での執筆活動および政策調査に携わっている。専門は国際政治、軍事、語学。
趣味は、書道、絵画、旅行、フランスワインの飲酒、カラオケ、犬の飼育。
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