25/12期4.6%増収5.5%営利増予想もデータセンタ向け増で上振れ期待、最高益更新続く
株価1714円(9/16) 時価総額1500億円 発行済株87565千株
PER(DO予:12.4X)PBR(1.36X) 配当(25/12期予)48円 配当利回り:2.8%
要約
・25/12H1は31.%増収21.9%営利増と上振れ着地
・25/12期4.6%増収5.5%営利増予想に変更なくバルブ好調でH1進捗率高く上振れ期待
・中期経営計画で27/12期に売上高2000億円、営業利益200億円目指す
・グリーン水素事業拡大目指し様々な取組を実行
25/12H1は31.%増収21.9%営利増と上振れ着地
25/12H1売上高は前年同期比3.1%増の863億80百万円となり、会社予想の861億円を0.3%上回る結果であった。営業利益は前年同期比21.9%増の79億33百万円を計上し、会社予想の66億円を20.2%と大幅に上回った。経常利益も前年同期比14.0%増の83億73百万円、親会社株主に帰属する中間純利益は前年同期比10.1%増の59億68百万円となり、いずれも会社予想を大きく上回る着地となった。

セグメント別でバルブ事業は、売上高が前年同期比0.9%増の690億93百万円と微増ながら増収を確保した。半導体製造装置向けの売上は減少したものの、国内市場および海外市場での販売量増加、ならびに前年第3四半期に実施した価格改定の効果が寄与した。営業利益は販売量増加による増収効果などにより、前年同期比22.8%増の98億15百万円と大幅な増益となった。市場別では、コア市場の売上高は前年同期比1.5%増となった。特に北米のデータセンタ向けが好調に推移し、建築設備が堅調であった。一方、石油化学は大型案件の減少により減収、水処理も前年同期比減収となった。グロース市場の売上高は前年同期比6.3%減となり、半導体装置向けが回復基調にあるものの減収であった。水素/脱炭素は売上が来期計上となるため減収となったが、半導体材料(フィルター)と機能性化学は増収となった。エリア別では、国内が前年同期比4.0%増と堅調であったが、海外は中国の不動産不況や全体的な冷え込みにより減収となった。


伸銅品事業は、売上高が前年同期比13.9%増の161億40百万円となった。販売量増加が主要因であるが、営業利益は前年同期比49.9%減の3億8百万円と低迷。これは、第1四半期における計画的な炉の補修による修繕費増加に加え、前年のような材料相場の上昇に伴う利益寄与がなかったことが影響している。その他の事業セグメントの売上高は前年同期比3.7%増の11億47百万円であったが、営業利益は前年同期比75.1%減の8百万円と大幅減益となった。

この中間期の為替レートは、ドル/円が147.48円(前年同期154.08円)、ユーロ/円が162.21円(前年同期166.13円)であった。電気銅建値は1,422円/kg(前年同期1,435円/kg)と、前年同期と比べてやや低い水準で推移した。
25/12期4.6%増収5.5%営利増予想に変更なくバルブ好調でH1進捗率高く上振れ期待
25/12期予想は売上高が前期比4.6%増の1,800億円、連結営業利益は前期比5.5%増の150億円、経常利益は前期比2.1%増の156億円予想を据え置いた。


セグメント別の通期計画では、バルブ事業の売上高は前期比5.5%増の1,473億円、営業利益は前期比7.9%増の188億円を見込む。バルブ事業は増収増益を予想しており、グロース市場(半導体装置、半導体材料(フィルター)、機能性化学、水素/脱炭素)がいずれも伸長し、9.2%の増収を見込む。コア市場(建築設備、石油化学、水処理、機械装置)も各カテゴリーで増収を計画し、3.1%の増収を見込んでいる。


伸銅品事業は、売上高が前期比0.5%増の300億円、営業利益が前期比1.5%増の9億円と、増収増益を計画している。その他の事業セグメントは売上高27億円(前期比2.0%増)、営業利益1億円(前期比31.6%減)を計画している。
通期予想の為替レートはドル/円が155.00円、ユーロ/円が167.00円を前提としている。電気銅建値は1,470円/kgを前提としており、これは上半期の実績(1,422円/kg)よりも高い水準である。
業績予想は上半期の営業利益が会社予想を大幅に上回ったものの、下期の不透明なリスクとして、材料相場の変動、半導体市場の回復の遅れ、人手不足による建築設備工事の遅れなどを勘案して変更しなかった。なお米国追加関税の影響については、同社は生産地分散化によりリスクヘッジを実現、その影響は軽微にとどまる見込み。上半期の堅調なスタートとデータセンタ市場の成長が具現化しつつあること、半導体部門も回復基調にあることを踏まえ、収益の上振れが期待される。
中期経営計画で27/12期に売上高2000億円、営業利益200億円目指す
同社は22年2月に長期経営ビジョン『Beyond New Heights 2030「流れ」を変える』を策定し、持続可能な社会の実現と企業価値向上に取り組んでいる。このビジョンでは、「テクノロジー/ソリューション」「コアビジネス/成長ビジネス」「事業を通じた環境保全」「多様な人財の活躍」の4つのありたい姿を掲げている。2030年度の目標として、連結売上高2,000億円規模、ROE13%以上、連結当期純利益100億円規模を目指している。
今回、2025年度から2027年度までの第2期中期経営計画「SHIN Global 2027」がスタート。この計画は、「信頼、新規、進化」の3つの「SHIN」を軸に、真のグローバル企業を目指す。SHINには、Strong Will(強い意思)、Harmony(調和)、Innovation(イノベーション)、Network(ネットワーク)というキッツグループが大切にする要素も込められている。 第2期中計の売上高2000億円、営業利益200億円を定量目標としている。

増収の中心はバルブ事業で、半導体、米国データセンタへの設備機器としてのソリューション拡大を目指す。半導体については半導体製造の高精度化に伴い、需要の拡大が見込める。半導体製造は数百の工程を繰り返すが、これらの工程では多種多様な特殊ガスや薬液が多数使用され、その流量、圧力、純度をナノレベルで精密に制御する必要がある。バルブは、これらの流体を「流す・止める」という基本的な機能。加えて、極めて高い超清浄性(バルブ内部からの金属イオンやパーティクルの発生を極限まで抑える)、高精度な流量制御(ガスや薬液の流量を正確にコントロールする)、耐食性、気密性・耐久性(外部からの不純物の侵入を防ぎ、長期間にわたって安定した性能を維持する)が要求される。バルブの不具合で製造ライン全体が停止し、巨額の損失につながるリスクがある。そのため、半導体メーカーや製造装置メーカーは、信頼性の高いバルブメーカーを重要なパートナーとして位置づけている。同分野は未公開のフジキンがトップシエア(売上規模25/3期2142億円、セグメントは非公開であるが31/3期売上高3000億円を目標としている)であるが、同社はキッツエスイーティーで主に事業展開している。半導体製造装置として24/12期235億円を27/12期350億円まで拡大する計画である。


データセンタ向けでは米国向けに市場拡大を急ぐ。現在、倉庫拡張移転し、従来比倍増の新倉庫が稼働、25/12H1での受注26%増などに対し、即納体制を整えさらなる受注増を見込む。米国向けには建設設備に加え、半導体製造装置向けも含め、大幅拡大を計画している。

同社は第2期中計の開始に合わせ、組織体制も機能別組織から市場別ビジネスユニット(BU)制へと再編した。8つの市場区分(建築設備・機械装置BU、インダストリアルBU、半導体BU、環境ソリューションBU、水素BU、伸銅品BU)を軸としたBU制とし、BU長への権限委譲を行い、市場における顧客ニーズに迅速に対応できる体制を目指している。これにより、グループ会社間の連携強化とグループシナジーの最大化を図り、グループ全体で利益の最大化を狙う。また財務戦略・資本政策では、「ROE向上」と「PER改善」の両輪で継続的な株主価値向上を目指す。2027年にはROE11%以上、ROIC7.5%以上、2030年にはROE13%以上、ROIC9.0%以上を目標としている。また3年間で580億円の投資を計画しており、そのうち約200億円をM&A枠、237億円を半導体、機能性化学、水素等のグロース分野への戦略投資に充てる。現状、売上については半導体関連の伸び、データセンタ設備投資によるバルブ需要の拡大などで売上高の上振れ達成は可能と見られるが、収益性の向上には高付加価値製品の拡大が不可欠と言えよう。
グリーン水素事業拡大目指し様々な取組を実行
同社は、脱炭素社会の実現に向けた取り組みの一環として、水素エネルギー関連市場をグロース市場の一つと位置づけ、その事業拡大に注力している。水素ビジネスユニットは、高圧水素ガスおよび液化水素用バルブで培った技術を基盤とし、顧客の脱炭素化に貢献するため、最適な水素サプライチェーンやエネルギー地産地消の提案、機器選定、レイアウト設計、配管設計、ユニット設計・製作を含めたエンジニアリングサービスを提供している。
水素市場に参入するきっかけとなったのは、2008年から2012年にかけて行われた水素ステーション用超高圧ガスバルブの研究開発に関する国家プロジェクト(NEDO事業)への参画である。水素は最も軽い分子であるため、その輸送や貯蔵には超高圧または極低温の技術が不可欠であり、これらを制御するバルブ技術は極めて重要となる。同社は2012年に水素ステーション用超高圧ボールバルブを開発・販売開始し、2013年以降、商用水素ステーションでの採用実績を積み重ねてきた。さらに、長坂工場に自社用水素ステーションを建設し、自ら水素を利用する立場から、バルブを核とした機器ユニットの開発や、配管・レイアウト設計も社内で手掛けるようになった。
現在の市場環境としては、脱炭素社会へ向けたエネルギートランジション関連投資が活発であり、大規模なグリーン水素製造・供給プロジェクトが各国で進行している。同社は、特に大手企業が参入しにくい事業所単位や小規模な自治体における脱炭素のための水素利活用に焦点を当てている。中期経営計画「SHIN Global 2027」における水素ビジネスユニットの主要戦略は以下の通り。
・工事、エンジニアリング機能の構築、強化:水素ステーション等の水素エネルギー充填設備、水素製造、輸送、貯蔵、利活用に関するエンジニアリング事業を強化。
・メンテナンス需要の取り込み:水素関連設備のメンテナンス市場への対応の強化。
・海外グループ会社との連携強化:海外の市場にマッチした商品開発を進める。
・次世代市場を見据えた研究開発:液化水素大型実証プラント(出荷・受入基地、運搬船)や水素航空機市場参入に向けた研究開発(NEDO事業、JAXA)を進める。
・水素ステーション市場の攻略:パッケージユニットにより水素ステーション市場を開拓する。また、小規模な地産地消型グリーン水素エネルギーチェーン事業に参入する。
同社はこれまでに培ったバルブの技術開発と実績を活かし、水素の利活用を検討する顧客に対し、製造から充填までトータルに提案できる体制を築くことを事業拡大の鍵と考えている。この事業を2030年には100億円規模に拡大することを目指し、脱炭素社会の実現に貢献しつつ、新たなビジネスモデルの構築と未来に向けた挑戦を続けていく方針。
最近の動向でも、25年2月に水素サプライチェーンの構築を進めるために北九州市の有限会社AID(ガス制御に特化したエンジニアリング会社)と業務提携を締結した。また8月には環境省の公募事業である「令和7年度コスト競争力強化を図る再エネ等由来水素サプライチェーンモデル構築・FS事業」に採択され、山梨県内のグリーン水素の普及に向け、FS調査を行う。さらに9月11日には同社初のPEM形水素電解水素発生ユニットを発表、発売を始めた。このように矢継ぎ早な対応で、同事業の拡大が加速しよう。

同社株価は業績好調を受け、順調に上昇してきた。25/12Q2決算も上振れ着地となり、25/12期も増額修正期待があることから9/9現在、高値更新中にある。現在、25/12期会社予想EPS108.15円に対しPER13.1倍はプライム機械平均PER18.4倍に対し割安感があり、ピラー(6490)の13.4倍、バルカー(7995)の14.4倍、イーグル工業(6486)の14.4倍とほぼ同じ水準にある。地味な業界ではあるものの、今後、半導体、データセンタ、水素関連事業の拡大が見込まれ、全体相場が高値更新中でもあり、新規にややポジティブにとどめる。
(図表は会社説明会資料、中期経営計画資料、HPなどから添付もしくはIRユニバースで加工)




(H.Mirai)