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元鉄鋼マンのつぶやき#131 電気を貯めて儲けよう

2025/10/02 11:51
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元鉄鋼マンのつぶやき#131 電気を貯めて儲けよう

当たり前ですが、電気は貯めることが難しく、常に生産と消費がバランスするようにコントロールする必要があります。しかし、最近存在感を増している再生可能エネルギーは、水力発電を除いて、気まぐれで発電量を予測したり制御することが難しいという特徴があります。そして電力発生と消費がうまくバランスしなければ、電力のロスが生じたり、周波数や電圧の変動、そして停電発生という具合に、電力の質が低下します。需要家側で対策をとってバランスを取るには、時間帯によって価格を変動させるインセンティブ、つまり一種のダイナミックプライシングを行うことになります。

 

これは昔からある考え方で、夜間電力や深夜電力が安価なことは皆様ご存知の通りです。でも、その後電力の自由化が進み、電気料金はさまざまに変化しています。

 

ここで言う電力の自由化とは、新規の発電事業者(PPS)の参入許可、一般消費者のPPSからの電力直接購入許可、送発電分離など何段階かに分かれますが、最終的に日本卸電力取引所(JEPX)、電力需給調整力取引所(EPRX)、容量市場(OCCTO)などで電力が取引されています。

 

第12回バッテリーサミット ダイヘン殿プレゼン資料より

 

もし、時間によって価格が変動する電力を貯めることができれば、安価な時に購入して高値の時に売却することができます。これは商売の常道で、当たり前の事ですが、電力の場合は、英語でアービトラージと言うそうです。

 

(ダイヘン殿プレゼン資料より)

 

これは卸電力を念頭にしたものですが、小口の取引でも売買電の自由化が進みました。その結果、一時期新電力会社が雨後の筍のように登場しました。しかしその後に淘汰され、多くは撤退しています。あまりうまい話はないのです。

しかし、ここに高性能で安価な電力貯蔵設備が存在すれば、話は変わってきます。

9月に東京国際フォーラムで開かれた12thバッテリーサミットでは、新技術の紹介と共に、新たなビジネスモデルの構築を目指す議論が交わされました。

関連記事:9月25日(木) 第12回 Battery Summit in TOKYO アーカイブ

 

ここで言う新技術とは、いわゆるESSであり、系統用の大容量二次電池と電力制御システムPCSで構成されます。大容量二次電池には、レドックスフロー電池やNaS電池もありますが、主流はやはりリチウムイオン電池です。

日本の送電システム(グリッド)では、周波数変動も電圧変動も僅少で、停電もほとんどありません。電力は極めて高品質です。でもだからといってそれが電気代が高いことの免罪符にはなりませんが・・。

この高品質電力を維持するには、新型電池の開発と同時にAIを用いた精密な需要予測が重要になります。

電力需要の変動予測と対応方法は、対象となる時間スパンで変わります。

1月単位の変動であれば、ベースロード電源や火力の焚き増しで対応できます。

1日単位、半日単位であれば、系統用定置型電池の出番です。今日本で注目されているのはこれです。ひところの勢いがなくなったEV用よりも系統用リチウムイオン電池こそが脚光を浴びているのです。

 

ここで話題を転じます。鉄鋼業界にいた筆者はどうしても素材産業と電力供給の関係を考えます。鉄鋼は高炉メーカーも電炉メーカーも超大型電力消費産業です。

 

特に電炉メーカーでは、安価な深夜電力や夜間電力を活用すべく電気炉の操業は専ら夜勤の時間帯に行われました。冶金は夜勤、鉄屋は徹夜さ・・と自嘲気味に語る従業員はフクロウ部隊と呼ばれました。経営者は経営者で、毎年1回繰り返される電力会社との価格交渉が重要な仕事です。交渉といっても無茶な値引きは期待できません。経営規模や力関係を考えると、電力会社>>電炉メーカーですから、対等な交渉は望めません。基礎となるデマンドの数値をどうするか・・がポイントとなります。

 

ところが、先日電気炉を操業するある企業(鉄鋼メーカーではありません)を見学したのですが、工場は普通に昼間に操業していました。「安価な夜間電力を使わないのですか?」と質問しても、電気代にはあまり拘っていない様子です。それよりも、夜勤だらけだと従業員を確保できないことや、騒音問題を考えて、昼間に操業しているとのことです。ひょっとしたら電力料金に何等かのからくりがあるのかも知れません。

 

もし、そうでないのなら、この業界(電気炉を操業する業界)こそ、アービトラージで収益を得られる業界かも知れません。そうはいっても大型の電気炉を運転する電力を供給するとなると必要な電池も巨大になりそうですが・・・。

 

そして筆者が考えるのはその先です。さらに短時間の消費電力の増減に対応する設備です。具体的には秒の単位でスパイク状に消費電力が変化する世界です。

 

例えば、製鉄所のリバース圧延では、鋼材が圧延機を往復しながら圧延されていきますが、厚板工場や分塊工場では、そのために巨大な慣性質量を持つ圧延ロールの回転方向を瞬時に逆転させて対応する必要があります。その為に急加速と急減速が必要になり、モーターの負担も大きく、消費電力も大きくなります(勿論、回生ブレーキは使用しますが限界があります)。これくらいの短時間での変化には、電池では対応できません。

 

繰り返される急加速と急減速で消費する電力をうまく回収できればいいのですが、そうもいかず、今は主に熱にして放出しています。筆者はそれについて「何かいいアイデアはありますかねぇ?」と某製鉄所の副所長から相談を受けたことがあります。大型のキャパシタ(コンデンサー)を活用する方法が現実的ですが、筆者は「超電導コイルにエネルギーを貯めるSMESはどうでしょうか?」とやや荒唐無稽な提案をしました。

用語解説 第11回テーマ: SMES | 電気学会 [B] 電力・エネルギー部門

 

SMESは瞬間停電を防ぐUPSなどには適しており、半導体メーカーが導入を検討したりしています。しかし嵩張るわりに容量が小さく、製鉄所の圧延設備には使えないみたいです。今なら、フライホイールを提案しますが、これとて、圧延機の速度に対応できるか・・微妙です。鉄道の回生ブレーキの電力貯蔵には使えるのですが・・・。

 

ちなみに脱線しますが、20世紀の製鉄3大発明の一つとされるストリップミルは、並んだ圧延スタンドのラインを、鋼材が一方向に通過する連続圧延で、ロールを逆回転させる必要が無くこの問題はありませんが、スタンド間の圧延速度と圧下力の調整・制御が難しくなります。

 

世の中のバッテリー技術者にお願いしたいのは、瞬時に充放電できる超大型バッテリーの開発です。これを実現することで製鉄所の消費電力をかなり節約できると(筆者は)考えます。

 

もっとも、日本での粗鋼生産量は今後減る見通しで、国内の製鉄所の事業規模は縮小していきます。日本製鉄も海外で製鉄所を買収する一方、国内の生産能力は削減しています。あまり将来性の無い業界(失礼!)のために、資源を割いて電力貯蔵技術を開発したくはないかも知れません。ああ!

 

ここで、日本の消費電力が大幅に増加するとの見通しが電気事業連合会から発表されました。

電力安定供給には40年代に「原発5基分の建て替え必要」…電事連が見解

 

人口も減り、製鉄業も縮小していく日本で電力需要が増大するとすれば、やはりAI用のデータセンターの新設が主な理由でしょう。もはや日本の産業は、製造業が主役ではなく、情報産業が主役ということでしょうか?

 

生成AIなどに用いるデータセンターも消費電力が常に一定という訳ではありません。データの読み込みが集中するタイミングに大電力を消費する形になります。ということは、データ読み込み作業をする時間帯を調整することで、国内の消費電力の平準化に寄与することができます。米国が昼間の時間帯に発生するデータを、同時に日本の夜間の時間帯に読むことができます。アービトラージも関係なく、ESSも不要な究極の対策と言えますが、それでも絶対的な不足はどうしようもなく、ベースロード電源の嵩上げが必要になるということでしょう。

 

(資源エネルギー庁ホームページから)

 

そして、データセンターの職員は、毎日夜勤を繰り返すことになり「俺たちはフクロウ部隊なのさ」とつぶやくことになります。

 

もっとも、そうつぶやくのが人間の職員なのか、AIロボットの職員なのかは分かりませんが・・・。

 

 

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久世寿(Que sais-je)

茨城県在住で60代後半。昭和を懐かしむ世代。大学と大学院では振動工学と人間工学、製鉄所時代は鉄鋼の凝固、引退後は再び大学院で和漢比較文学研究を学び、いまなお勉強中の未熟者です。約20年間を製鉄所で過ごしましたが、その間とその後、米国、英国、中国でも暮らしました。その頃の思い出や雑学を元に書いております。

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