
MIRUは、このたびEuropean Recyclingとメディアパートナーシップを締結し、10月1日にドイツ・ハンブルクで開催された同団体主催のヨーロピアン・リサイクリング会議(ERC)に参加した。このパートナーシップを通じて、MIRUは欧州のリサイクルの現状および関連規制を日本の業界リーダーに広く発信するとともに、欧州と日本のリサイクル業界をつなぐ架け橋としての役割を果たしていく。
第7回目を迎える今回のERCの会場となったのは、ドイツ北のハンブルグだ。古くから港町として栄え、賑わったハンブルグは、レーパーバーン(飾り窓地区)で有名でもある。一方でオペラをはじめ音楽や芸術も盛んで、近代的な素晴らしい劇場や美術館が揃う。

1日の会場となったブティック・ホテルEASTには、リサイクル業界関連の事業者150名が集まった。企業には、ヴェオリア、ガルー、スエズ、Derichebourg Scholz Austria, StoneX、地元ドイツをはじめとするEU加盟国政府関係者、欧州委員会環境総局などの顔ぶれを見られた。
会議冒頭の挨拶で代表者から組織名称の変更の発表があり、EuRICは組織の内容がよりわかりやすいようにとの
理由から「Recycling Europe」と改名されたことが告げられた。
今回の会議では、戦争などの地政学的問題に起因する社会不安や経済の先行き不透明感が高まる中、再生材市場における欧州企業の競争力をいかに維持していくかが主要テーマとして議論された。

Jena応用科学大学のPothen教授はプレゼンテーションの中で、欧州鉄鋼産業の競争力維持には加盟国政府による支援が不可欠であること、鉄鋼貿易における規制や輸出入禁止といった干渉措置は「適切」ではないこと、政策・規制はエネルギーコストの高騰、行政負担、第三国政府による貿易補助金といった根本的な問題にまず取り組むべきだと述べた。
パネルディスカッションでは、グローバル規模で厳しい状況に直面する欧州鉄鋼産業について、「自由貿易」の重要性が強調された。一方、ドイツVDMのBayram氏は、鉄鋼業界の厳しい状況は経済情勢に左右されると指摘した。また、EU政策・規制の厳格さが産業界に大きな負担となっているとの意見も参加者から上がった。産業界がEUの政策立案者にどう対応すべきかについて、協調と対話の必要性が唱えられる一方、その実現が容易ではないことも再認識された。
午後のプログラムでは、電池・再生材市場の構築・自動車に焦点を当て、事業者、政府機関、業界団体など各セクターのステークホルダーが参加するパネルディスカッションが行われた。
電池セクター:
電池については、廃棄物管理施設における「リチウムイオン電池の火災問題」という、常に業界の「ホットトピック」となっているテーマが取り上げられた。リチウムイオン電池の使用は急速に拡大しており、今後も成長が見込まれる。一方、廃リチウムイオン電池の安全性は10年前にはほとんど問題視されていなかったが、その数の増加に伴い、現在では火災事故が深刻な問題となっており、管理が重大な課題となっている。
Electronics and Tech IndustryのMagalini氏は、30施設以上を調査した結果、過去に事故を起こした施設が必ずしもその教訓を活かしているわけではないと指摘した。また、消火装置などの単一の安全設備に頼るのではなく、複数の安全対策が必要であると述べた。
Behrendt RecyclingのBehrendt氏は、リチウム電池とWEEE(電気電子機器廃棄物)の混合廃棄物の取り扱いの難しさについて触れ、混合廃棄物にリチウム電池が混入している場合、機械的ストレス(指で押さえる程度でも)が生じると、電池の熱暴走が起こり発火することを動画で示した。同氏の施設では複数の安全システムを装備しているが、コスト面では非常に高額であることにも言及した。
GRS Batterienの登壇者は、リスクレベルに関する実証プログラムの中で、WEEE処理施設におけるリスクがより高いという結果が得られたと述べた。一方、多数の電池火災対策に関する試験プロジェクトが実施されているものの、その結果がリスク削減には必ずしもつながっておらず、現状ではモニタリング強化と対処法が主流となっている。また、火災事故発生時の保険金支払額の少なさや保険料の高さについても言及された。
再生材市場の構築を担うCEA:
再生材については、「EU単一市場の構築と再生材需要の促進」をテーマにパネルディスカッションが行われ、特に、2026年に法案発表が予定されているサーキュラーエコノミー法(CEA)に焦点が当てられた。同法の導入目的の一つは、EU域内における再生材需要と強固な市場の構築である。ディスカッションでは、テキスタイル、プラスチックなど異なる廃棄物ストリームの事業者がそれぞれの現状について触れ、CEAへの期待を述べた。
欧州委員会環境総局のFlanchenecker氏は、現在のCEAの方向性に触れ、幅広い視点からのEPR(拡大生産者責任)制度の強化や、「廃棄物枠組み指令」下で現在作業が進行中のプラスチックを含む廃棄物終了基準の調和化の緊急性と重要性を強調した。
一方、Plastics EuropeのSchlegel氏は、ケミカルリサイクルを含むプラスチックリサイクルにおける投資状況の低迷を見ると、欧州産業の先行きは非常に不透明だと述べた。これに対しFlanchenecker氏は、規制によるプラスチックリサイクルの2030年までのEU目標値は非常に野心的なものではあるが、政策・規制や支援制度により、リサイクル推進を牽引し投資を誘致することは可能であると応じた。
自動車セクター:
会議最後のパネルディスカッションは、新ELV(使用済自動車)規則を見据え、「自動車の循環性の促進」に焦点が当てられた。使用済自動車規則案が2023年7月に発表されて以来すでに2年以上が経過しているが、現在は採択までの最終段階に入っており、まもなく三者協議が始まる予定である。
規則案では、自動車の循環性促進の一環として、プラスチック再生材含有率の目標値が設定されているが、当初の欧州委員会提案の25%は、EU理事会・欧州議会による修正案で引き下げられた。EU理事会は、規則発効から6年後に15%、8年後に20%、10年後に25%と段階的な引き上げを提案している。パネリストの一人であるドイツ環境庁のKohlmeyer氏は、ドイツ政府は市場形成には時間を要することから、段階的な目標値の導入を支持していると述べた。
仏リサイクル企業DerichebourgのPozzi氏は、プラスチック再生材使用におけるOEMの取り組みについて、メーカーによって大きな差があることを指摘した。再生材の使用全般からカーボン排出削減まで野心的な戦略を打ち出すメーカーがある一方で、最近の自動車業界が直面する厳しい経済状況を理由に、環境政策を緩和するメーカーもある。また、フランス国内のEPR制度改定により制度の施行が行政面で特に複雑化したことを挙げ、EUレベルのEPR制度では同様の負担を事業者に課すことがないよう訴えた。
GenanのRasmussen氏は、EPR制度について、生産者は財政負担をするだけでなく、製品設計段階から使用済み後のリサイクルを考慮することの重要性を指摘し、リサイクラーと生産者の密接な協力体制の必要性を強調した。

非常に白熱した議論が繰り広げられた今回の会議は、19時から始まったネットワークディナーで締めくくられた。
ディナー会場となったのは、ハンブルグのハーバーを20階から見下ろすスカイレストランで、360度ハンブルグの街が見渡せる。参加者は絶景を楽しみながら食事を堪能した。
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SCHANZ, Yukari
オーストリア、ウィーン在住フリーライター。現在、ウィーンとパリを拠点に、欧州におけるフランス語、英語
圏の文化、経済、産業、政治、環境リサイクル分野での執筆活動および政策調査に携わっている。専門は国際政治、軍事、語学。
趣味は、書道、絵画、旅行、フランスワインの飲酒、カラオケ、犬の飼育。
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