2025年10月28日、タイ・バンコクで開催されたBIR会議の紙部門において、世界の古紙および紙生産市場が直面する課題と動向について議論された。
紙部門の座長を務めたのは、スペインのDOLAF Servicios Verdes 社に所属するFrancisco Donoso氏。Donoso氏は、世界の古紙市場が依然として高い不安定性に直面していることを指摘し、「市場の変動性は生産、消費、輸送、通貨の全要素に波及している」と述べた。

紙部門の最初の登壇者は、イタリアのLCI社の営業・購買ディレクターのSimone Scaramuzzi氏で、欧州からアジアへの古紙輸出が直面する課題を報告した。Scaramuzzi氏によると、欧州では新たな製紙能力の増強が進む一方で、原料となる古紙の入手量が減少しており、結果としてアジアの製紙工場との競争が一段と厳しくなっているとのこと。EU廃棄物輸出の規制強化や書類手続きの煩雑化、海上輸送コストやサービスの変動も輸出抑制要因なっており、供給者はリスク回避のために国内市場を優先する傾向を強めている。
2025年の市場では、高品質な再生繊維の需要増を背景に価格が中程度に回復した。市場は依然として変動的であり、アジア向け輸出が増加する局面と、エネルギーおよび輸送コストの上昇によって欧州域内需要が強まる局面が交互に訪れている。

続いての登壇者は、英国のH & H Sales International社のCEOでありBIRの元会長のRanjit Baxi氏。Baxi氏は、インドの紙市場が世界で最も急速に成長していると述べた。インドの紙市場は年間の平均成長率が7.5%を超え、識字率の上昇、中間層の拡大、医療、ホスピタリティ、電子商取引といった産業の発展が需要を押し上げている。
ただし、インド国内の古紙回収システムは断片的であり、原料供給の大部分を輸入に依存している。Baxi氏は「紙製品に対する基本関税率は2.5%で、需要の約60%を輸入が占めている」と指摘したうえで、「業界は輸入関税を0%に引き下げ、収集インフラへの投資を促すよう政府に働きかけている」と述べた。インド市場には外国からの投資が増加しており、今後5〜7年の間に国内回収の効率化が進むと見込まれている。

続いて発表したスイスのVIPA Lausanne SA 社に所属する古紙トレーダーのJun Park 氏は、中国が2025年10月初旬に施行した「Dry Pulp(乾燥パルプ)」の新たな輸入要件が市場に大きな混乱をもたらしていると報告した。この規制は輸入再生パルプの汚染防止を目的としており、不純物が0.5%を超えるものは輸入拒否の対象となる。結果として中国では全量検査が実施され、港では3,000〜4,000本に及ぶコンテナが滞留しているという。
中国は年間約400万〜500万トンの乾燥パルプを輸入しており、タイはその主要供給国のひとつである。Dry Pulp 加工業者は、かつての「National Sword」政策による古紙輸入禁止を受けて登場した比較的新しい業態であり、タイやマレーシアを拠点に中国向け製品を供給してきた。Park氏は「今回の規制は、これまで曖昧だった乾燥パルプの基準を中国が実質的に定義しようとしている動きだ」と述べ、「短期的には特にタイの輸出業者に打撃が出る」と指摘した。
また、ベトナムでは非公式な小規模製紙工場の閉鎖が相次ぎ、一時的に地域の供給圧力を緩和している。一方、マレーシアやタイでは中国政策の不透明さを背景に取引の不確実性が高まっており、価格競争も激化している。

最後に登壇した米国の Canusa Hershman Recycling 社の営業マネージャーであるBrian Reese氏は、東南アジア向け米国OCC(段ボール古紙)輸出の減少について説明した。米国内ではリサイクル率の低下に加え、新設の製紙工場が再生繊維をより多く自社消費する傾向を強めており、国内需要が輸出余力を圧迫している。Reese 氏は「OCC の発生量そのものが減少し、国内生産分の多くが国内消費に回っている」と述べ、輸出が減少する中でアジアの製紙工場では過剰生産能力が続いており、マージンが圧縮されていると指摘した。
さらに、港湾混雑や輸送コストの変動、米中貿易摩擦および関税の不透明性が取引を困難にしている。Reese 氏は「現状は厳しいが、次のサイクルでは回復の兆しが見える」と楽観的な見通しを示した。
会議の締めくくりとして、座長のDonoso 氏は新しいデジタル取引プラットフォーム「Guard(Global Auction for Recovered Paper)」を紹介した。このプラットフォームは2025年12月の正式稼働を予定しており、週1回30分間のオンラインオークション形式で古紙や段ボールを取引する。リアルタイム入札、匿名性、標準化された品質説明、安全な取引システムを備えており、グローバルな古紙取引における透明性、公平性、スピードの向上を目指している。
Donoso 氏は「Guard は市場の断片化、非効率性、透明性の欠如に対処するものであり、企業規模を問わず世界中の供給者、顧客、仲介業者をつなぐ新しい基盤になる」と言及した。
今回の会議を通じて、参加者は規制、物流、為替変動といった外部要因が市場の動向を形成する主要要素であることを改めて確認した。紙市場は依然として不安定だが、技術革新と取引構造の再編を通じて、回復と安定化への道筋が見えつつある。会議は「市場が再び成長軌道に乗るためには、忍耐と規律が必要である」という認識のもとに締めくくられた。
会議終了後、弊社の棚町が元BIR会長であり、英国 H & H Sales International 社 CEO の Ranjit Baxi 氏に突撃取材を行い、世界の古紙市場の背景と今後の展望についてお聞きした。
Baxi氏によると、古紙をはじめとするリサイクル資源の国際取引は2024年以降、物流コストと政策要因の双方から大きな影響を受けているという。新型コロナウイルスの影響で港湾機能が一時的に停止し、世界的な物流混乱が生じたことで、コンテナフレート(船賃)は急上昇。その後、一部で価格調整が見られたものの、スエズ運河通行料の上昇やフリータイム(無料でコンテナを利用できる期間)の短縮など、付随コストが増加しており、「輸送費の総額は依然として下がっていない」と述べた。
Baxi 氏は「名目上は運賃が下がっているように見えるが、実際には構成要素が変化している。例えば、以前は15日間あったフリータイムが今では5日間に短縮され、延長には追加料金が必要になった。表面上は海上運賃が400ドルに見えても、総コストは900ドル前後でほとんど変わっていない」と説明した。
また、国際的な古紙の流れにも顕著な変化が起きているという。米国から中国への古紙輸送は関税の影響を受けて減少し、中国自身も輸入規制を強化したことで、従来のサプライチェーンは再構築を余儀なくされている。Baxi 氏は「日本はかつて年間300万〜400万トンの古紙を中国に輸出していたが、中国が買わなくなったことで市場が実質的に閉ざされた」と指摘。その結果、日本の業界は新たな販路を求め、東南アジア諸国、特にベトナムへの注目を高めていると述べた。
最後に Baxi 氏は、「国際的なリサイクル資源の流通構造は、今まさに再編の途上にある。日本を含む各国が中国依存から脱却し、品質・効率・透明性を重視した新しいサプライチェーンを築けるかが、次の成長段階を左右する」と展望を語った。
(IRuniverse Midori Fushimi)