2025年10月27日、タイ・バンコクで開催されたBIRの電気・電子・EVバッテリーセッションにおいて、リサイクル業界がいかにして世界的な変化に対応し、データと政策を通じて持続可能な電子リサイクルを推進していくかについて議論された。本セッションの座長を務めるのは、アメリカにあるPan American Zinc LLC社のJosephita Harry氏である。
本セッション最初の発表者は、UNITAR(国連訓練調査研究所)の上級科学専門官であるKees Baldé博士。Baldé博士は「良いデータがなければ良い情報は生まれず、良い政策も作れない」と語り、信頼性の高いデータの収集と分析が持続可能なリサイクル政策の基盤であると強調した。
発表の途中でBaldé博士は「BIG NEWS」として、BIRとUNITARが正式に協力関係を結び、世界的に権威ある報告書「Global E-Waste Monitor(世界電子廃棄物モニター)」の次回版(2027年版)を共同で作成することを発表した。これまで欧州を中心に進めてきた研究を、BIRのネットワークと協力によって世界規模へ拡大できると述べたBaldé博士は、2024年版モニターの主要データを次の通り紹介した。
• 2022年に発生した電子廃棄物は620億kg(1人あたり7.8kg)
• 環境的に適正にリサイクルされたのは22.3%にとどまる
• 2030年には820億kgに達する見込み
Baldé博士はリサイクルの拡大が廃棄量の増加に追いついていない現状を「決して良い話ではない」と指摘したうえで、電子廃棄物に含まれる金、鉄、銅などの貴金属の総価値が900億ドルを超えるにもかかわらず、多くが依然として回収されていないことを懸念した。非公式部門による回収活動も一部で行われているが、制度的な整備と国際的な協力によって、より高い回収率を実現できる可能性があると述べた。また、希少資源の多くが特定地域に偏在していることを踏まえ、供給リスクの分散と再資源化の推進が今後の課題であると強調した。
UNITARは今後、BIRメンバーを対象にアンケートを実施し、得られたデータをグローバル平均値と照らし合わせることで業界全体のベンチマーク構築を目指す方針である。BIRとUNITARの新たな連携については、BIR会長のSusie Burrage氏とBIR事務局長のArnaud Brunet氏も壇上で祝辞を述べ、両者の協働によって業界の信頼性向上と国際的な発信力が強化されることへの期待を示した。座長のHarry氏は「私たちの活動の影響を世界に可視化できることを誇りに思う」と語り、最後に「電子機器リサイクルは“終わり”ではなく、“価値の始まり”である」と力強く締めくくった。
続いて、BIRの貿易・環境政策担当官であるFederico Zanotti氏が2025年1月に発効したバーゼル条約の電子廃棄物修正について説明し、この改正が国際的なリサイクル取引に大きな影響を及ぼしている現状を報告した。
今回の改正では、危険物か否かを問わずすべての電子廃棄物が「事前同意手続き(PIC)」の対象に含まれ、これまで自由に取引が可能だった非有害物質(旧B1110コード)も、新たにY49コードとして規制対象に追加された。この変更により、電子機器の破砕片や金属スクラップといったリサイクル済み資材までが「廃棄物」として扱われるケースが発生している。
Zanotti氏は「この新しいコードは素材の実態ではなく、その起源によって分類されるため、再資源化済みの金属まで不当に規制されている」と指摘した。実際、世界各地の港では税関当局による厳格な解釈により、BIRメンバー企業の出荷コンテナが“誤分類”として差し止められる事例が増加している。数百本単位のコンテナが港で停滞し、取引遅延やコスト上昇を引き起こしているという。
こうした混乱を受け、BIRは国連やOECD、各国の環境当局と協議を重ね、定義の明確化と解釈の統一を求めている。現在、国連ではY49コードの運用指針を策定するための特別ワーキンググループが設置されており、BIRもこの作業に積極的に参画している。
Zanotti氏は「本来、この修正は非鉄金属スクラップの国際取引を制限する意図で導入されたものではない。条約の解釈と実務運用のずれを早急に正すことが、今の業界にとって最も重要な課題だ」と強調した。
続いて、メキシコのNiu Niu Resources社CEOであるDylan Roman氏がPIC手続きを単なる制約ではなく「信頼を可視化する枠組み」と捉える前向きな見解について発表した。Roman氏は電子機器のリサイクルを「都市採掘」の一形態と位置づけ、既存の都市インフラや製品群が新たな資源供給源になると語った。「私たちの都市には、地上の鉱山すべてを合わせた以上の鉱物ストックが眠っている。未来の資源は地中ではなく都市の中にある」と述べたRoman氏は、循環経済への転換を促した。また、PICは法的・倫理的にトレーサブルなサプライチェーンを構築するツールであり、「信頼を証明できる者が明日の市場を定義する」と強調した。
最後に登壇したのは、アラブ首長国連邦にあるSharif Metals GroupのYousef Al Sharif氏。同社は1963年創業の家族経営企業で、鉄および非鉄金属のリサイクルを幅広く手がけている。Sharif氏は中東・南アジア市場の動向と政策変化の影響を分析した結果、紅海航路の閉鎖や保険料の高騰によって輸送コストは1トンあたり約110ドル上昇しており、さらにUAEでは鉄・銅で109ドル、電子材料で82ドルの輸出税が課されているという。
マレーシアやベトナムでは新しい検査プロトコルによりコストが増加し、輸出に最大1週間の遅延が発生している。Al Sharif氏は「政策が市場よりも速く動く時代になった。価格よりもコンプライアンス、透明性、品質を備えたリサイクラーが次の10年をリードする」と述べた。また、ブロックチェーンやQRコードによるトレーサビリティの導入が、国境での遅延防止と信頼構築に有効であると報告した。
セッションの終盤には参加者との質疑応答が行われ、バーゼル条約改正に伴う「閾値」の設定をめぐる議論が交わされた。数値の妥当性やサンプリングの難しさなど、実務上の課題が共有され、規制の明確化に向けた今後の協議が示唆された。
この日のBIR電子機器・バッテリー部門のセッションは、単なる技術論にとどまらず、データ、政策、信頼、透明性というキーワードで貫かれた議論となった。リサイクル産業はもはや「廃棄物の終わり」ではなく、「価値の始まり」であることを改めて世界に示す場となった。
(IRuniverse Midori Fushimi)