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フロー型亜鉛空気電池で挑む「安価な大容量蓄電」―シャープの吉田室長に聞く

2025/11/27 12:56
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フロー型亜鉛空気電池で挑む「安価な大容量蓄電」―シャープの吉田室長に聞く

再生可能エネルギーの導入が世界規模で急速に進む中、その「不安定さ」を補うための蓄電技術が求められている。シャープ(大阪府堺市、沖津雅浩社長)はこの課題に対し、「フロー型亜鉛空気電池」という新しい蓄電技術で挑戦し続けている。フロー型亜鉛空気電池はカナダのベンチャー企業であるAbound Energy社など複数の企業が研究開発を行っているが、どの企業も本格的な社会実装に至っていないのが現状だ。そのような状況の中で、シャープは2022年から環境省事業としてプロジェクトを開始。着実な成果を残してきた。同プロジェクトの責任者である研究開発本部グリーンイノベーション&デバイス研究所第二研究室の吉田章人室長に技術の特徴や社会実装への課題、そしてカーボンニュートラル社会に向けた展望を聞いた。

 

 

――そもそもフロー型亜鉛空気電池とは何か

 

フロー型亜鉛空気電池は、リチウムよりも安価な亜鉛を蓄エネルギー源とした二次電池で、一般的なリチウムイオン電池と異なり、「貯蔵部」と「充放電を担うセル」が分離された構造を持つ。充電時は酸化亜鉛(ZnO)が亜鉛に化学変化する際に電子を蓄え、放電時は空気中に含まれる酸素との作用によって、亜鉛が酸化亜鉛に戻る際に、蓄えていた電子を放出することで、電気を取り出す仕組みだ。

 

フロー型電池の最大の特徴は、貯蔵タンクの容量を拡大するだけで蓄電容量を増やせる点。つまり、大容量化が容易であり、容量が大きければ大きいほど単価が安くなることになる。さらには、水系電解液を使用するため、発火や爆発のリスクがなく、安全性にも優れる。リチウム電池が抱える安全上の課題を解消できる点も大きなメリットといえる。

 

シャープのリリースより引用

 

 

――リチウムイオン電池との違いは

 

リチウムイオン電池とフロー型亜鉛空気電池は、どちらが優れているというわけでなく、それぞれの長所、短所がある。リチウムイオン電池はエネルギー密度が高く、モバイル機器やEVなど高出力用途に適している。一方、フロー型電池は電力を「長く、安く」貯めることができるという強みを持っていることから、リチウムイオン電池とは異なる方向性の技術といえる。

 

フロー型亜鉛空気電池はリチウムイオン電池のように瞬発力を必要とする用途、たとえばEVのように瞬間的に大電流を取り出す用途には適さない。一方で、再生可能エネルギーの余剰電力を蓄える設備や、非常用電源向けとしては大きな力を発揮する。我々の目指す方向は「リチウムを置き換えること」ではなく、リチウム電池と共存し、補完し合うエネルギー貯蔵システムを構築することである。

 

また、資源リスクが少ないことも亜鉛を原料とする同電池の大きな強みといえる。リチウムやバナジウムは特定地域に偏在しており、資源価格や供給リスクが大きいが、亜鉛は世界各地で産出し、製錬・供給体制も整っている。

したがって、調達の安定性とコスト面の優位性はリチウムイオン電池よりも高い。

 

 

 

――そもそもフロー型亜鉛空気電池の研究開発に踏み切った経緯は

 

当社は長年にわたり太陽電池事業を展開しており、再生可能エネルギーの将来を見据えた技術開発を続けてきた。太陽光や風力は「自然任せ」の発電であり、発電量が時間帯や天候に左右される。再エネ比率が高まるほど、「電気を長くためる技術」が不可欠になる。そこで、長期的な視点から「長時間蓄電に最適な新構造電池」を開発しようと考えたのが、フロー型亜鉛空気電池開発の出発点である。

 

研究開始当初は、そもそも「液体中に分散した亜鉛微粒子で電池が成り立つのか」という原理検証の段階だった。そこから、環境省「令和4年度地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」の「ボトムアップ型分野別技術開発・実証」枠での採択を受け、基礎研究を重ね、現在では小規模ながらも実際に作動する実証モデルを構築できるようになった。また、フロー型亜鉛空気電池の研究開発における特許も複数出願しており、他の企業と比べた際の優位性も保てていると認識している。

 

現在は、環境省の支援の下、小規模な試作・実証を行いながら性能と安全性を評価しているが、2025年度いっぱいで同省プロジェクトとしての区切りを迎える。その後は、開発した技術を事業部門へと移管し、商用化・事業化のフェーズへ進む予定だ。必要に応じて他の国や自治体等の支援制度を活用しながら、当研究室としての開発を継続していく可能性もある。

 

フロー型亜鉛空気電池の社会実装に向けた最も大きい課題はやはり長期間使用時の信頼性と寿命。我々のフロー電池の充放電効率は現状リチウムイオン電池に対して劣っているため、効率面での改善と、長期運用に耐える安定性の実証が欠かせないだろう。

 

 

――オーストラリアのESI社との協業を発表した

【参考記事】

シャープ、豪・ESI社と覚書締結―フロー型亜鉛空気電池の研究開発を強化

 

ESI社は鉄系のフロー電池を開発しているベンチャー企業である。両社とも「フロー型」という共通のアーキテクチャを採用しており、構造的な親和性が高い。鉄と亜鉛という違いあるが、貯蔵部とは別に、エネルギーを貯めている物質を反応させるセルがあるというくくりでは同じ構成となる。もちろん、細かくみると異なる要素もあるが、やはりフロー型という部分では共通する要素も多く協業するメリットは大きい。

 

当然、一方的な技術供与ではなく、我々の技術も開示する。相互のノウハウや技術要素を共有し、開発スピードを上げることを目的としている。双方が利益を得る「Win-Win」の関係を構築し、次世代エネルギー技術の実用化を加速させたい。

 

シャープのリリースより引用

 

 

――最後に

研究開発を開始した当初から、様々な企業様から「安く電気を貯められる蓄電池が必要だ」というお声をたくさんいただいてきた。繰り返しにはなるが、我々が開発しているフロー型亜鉛空気電池は原料が安価であるうえに、大容量化の際の製造コストが抑えられるという利点がある。そういった社会のニーズにマッチした電池の社会実装を実現することで、循環型社会の確立に貢献していきたいと考えている。

 

 

 

【プロフィール】

シャープ株式会社 研究開発本部 グリーンイノベーション&デバイス研究所 第二研究室 室長

吉田章人(よしだ・あきひと)

2000年シャープに入社。バイオ水素生成技術や蓄エネルギー技術の研究開発などを経て、2015年から亜鉛空気電池の研究開発に従事、現職に至る。

 

 

(IRuniverse K.Kuribara)

 

 

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