国際ニッケル研究会(INSG)は、2026年4月に開催された春季定期会合において、今年の世界ニッケル需給予測を大幅に下方修正し、3万2,000トンの供給不足(デフィシット)に転じるとの見通しを示した。昨秋時点での26万1,000トンの供給過剰予測から一転、市場は5年ぶりの供給タイトな局面に直面している。
1. 供給構造の変容:インドネシアによる「クオータと価格」の二重支配
今回の需給バランス激変の主因は、世界最大の供給国であるインドネシアの強力な資源ナショナリズム的政策にある。
RKAB(採掘割当)の厳格化による物理的制約:
インドネシア政府による作業計画・予算(RKAB)の承認プロセス厳格化により、鉱石の供給量が劇的に絞り込まれている。これにより、国内の製錬事業者は原料確保に窮しており、実効生産能力が当初計画から10%以上毀損する事態を招いている。
HPM(国内指標価格)改定によるコストプッシュ:
2026年4月15日に施行された新価格体系が、ニッケル生産のコスト構造を根底から覆した。特にHPAL(高圧硫酸浸出)プロセスにおいて、従来価格に含まれていなかったコバルトや鉄等の随伴鉱物が価格算定に組み込まれたことで、中間原料(MHP等)の調達コストが急騰。NPI(ニッケル銑鉄)についても、LME価格の反映率が従来の17%から30%へと引き上げられ、採算ラインが大幅に押し上げられている。
2. 需要動向の二極化:ステンレスの堅調とバッテリー市場の変遷
需要面では、ニッケル消費の約7割を占めるステンレス鋼部門が、アジア圏のインフラ需要を背景に底堅く推移している。
一方で、EVバッテリー向け需要は過渡期にある。LFP(リン酸鉄リチウム)バッテリーの市場シェア拡大により、三元系(NMC)向けニッケル需要の伸びは、かつての予測を下回るペースで推移している。しかし、この需要成長の鈍化を相殺して余りある規模でインドネシア発の供給抑制とコストアップが進行しており、結果として需給ギャップを供給不足側へ押し下げた形だ。
3. 総括と今後の展望
2026年のニッケル市場は、これまでの「インドネシア増産による過剰供給」というシナリオから、「政策主導の供給管理と高コスト化」という新たなフェーズに突入した。
一次ニッケルの世界生産量は371万5,000トンに対し、消費量は374万7,000トンと見込まれる。今後はインドネシア政府のクオータ運用状況に加え、同国のコスト増がLME価格の下値をどこまで切り上げるか、そしてLFPシフトがどこまで進むかが、市場のボラティリティを左右する重要指標となるだろう。
(IRuniverse)