アジアの合成樹脂市況は塩化ビニル樹脂(以下、塩ビ樹脂)を除き弱含み基調となった。中東リスクに伴う期待先行で上昇したが、需要サイドの高値での消化不良の状態の様相も出始めている。また中国国内市況の直近高値からの下落の大きさも気になる。国内の決算発表からはナフサ不足の実態が見えてきており、製品によっては原料の充足率80%程度が現実の様だ。
アジア合成樹脂市況は中東情勢膠着状態で、需給バランスでの調整基調に
アジア合成樹脂市況は5月に入り中国の増値税還付廃止やインド、中国向けオファー価格の提示を中断の影響を受け中東情勢の緊迫化の影響を反映し難い状況にあった塩化ビニル樹脂を除き、軟調な展開となった。
米国とイランの戦闘終結の交渉が米中種の会談後も目立った進展がみられず長期化の様相を強めていることもあり原油市況がバレル100ドル台での小動きにある中で、石化原料市況が軟調な動きとなり、原料に対して期待先行で急騰してきた合成樹脂市況は、価格決定要因が原料から需給にシフトしてきている。
5月第2週(GWの関係で5月11日~15日を対象)の市況は、低密度ポリエチレンが前週比1.4%の下落、ポリプロピレンが同1%弱の下落、ポリスチレンが3%強の下落となった。塩ビ樹脂は前述の様に同横ばいで推移している。

(注) IRUではアジアの合成樹脂市況インデックスは、多様なグレード取引形態や地域で異なるため、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、塩化ビニル樹脂の価格を2020年の年初の平均価格を100として指数化している。2020年12月までを毎月末近辺の市況を対象に指数化し、2021年以降は週間ベースの市況を対象に指数化している。新型コロナウイルスの蔓延の前と後での樹脂市況の違いを示すために基準時を2020年1月としている。なお、直近値は2026年5月第2週(5月15日まで)の市況となっています。
中国市況も軟調な点が影響
アジアの合成樹脂価格はナフサの不足懸念から原料のエチレン、プロピレン、スチレンモノマーの市況高に対しそれを上回る水準まで上昇してきたが、合成樹脂の原料の市況も高止まり基調から軟化し始めてきている。イランからの原油調達比率が高い中国国内の合成樹脂市況も足元では軟調な展開にあり、4月10日前後の高値からポリプロピレンが50%弱の下落、ポリスチレンが同38%程度の下落、低密度ポリエチレンが同28%程度の下落となっている。これに対して中国を除くアジア市況はまだ2~3%の下落にとどまっている。
中国の石化産業は能力拡大基調にあり、自国需要の伸び悩みから輸出を拡大する方向にある。今後のアジア合成樹脂市況は中国の動向が少なからず影響を与え続けそうだ。
国内の石化関連企業の影響が徐々に明らかに、国内原料はまだ十分ではない
国内石油化学関連企業の業績発表が進み、ホルムズ海峡の閉鎖を伴う中東情勢の混乱の影響がサプライチェーンごと明らかになってきた。原料調達面では7月までは確保しているのが平均的な姿であるが、政府が公言する来27年1月まで必要な原油・ナフサの量は確保できたとの見解には懐疑的な企業が多い。三井化学は7割を切っている稼働率を7月以降は代替調達の目途が立ち引き上げの計画であるとコメントしている。国内ナフサクラッカーの稼働率は80%程度に上昇することで、川中、川下の企業は輸入原料の手当てを含め、必要原料の調達期間を月毎に確保期間を延長する状況が続くことになる。
国内のナフサプラントの実態を最も的確に表しているのがナフサからエチレンなどの化成品を精製過程でも残留分となるブタジエン、C4、C5留分を使用して合成ゴムや高機能樹脂のCOP(シクロオレフィンポリマー)を生産する日本ゼオンであろう。日本ゼオンは国内の全12基あるナフサクラッカーから原料調達をしているが、国内の同社プラントで必要とされる全量を確保できる状況ではないとのことだ。その対応としては稼働率維持のためもあるスポットの合成ゴムの輸出を削減し、ロイヤルカストマーに優先的に供給する態勢を取っている。
自社海外工場によるグローバル生産体制の活用
塩化ビニル樹脂の信越化学の米子会社のシンテックの強みをこれまで紹介したが、クラレの3極生産体制も強みを発揮し始めている。同社はエチレンを原料にガスバリア性樹脂・エバールやブタジエンを原料に高耐熱性樹脂・ジェネスタなどを国内だけではなく、北米、欧州、タイの3極体制を構築しており、エバールは米国拠点の活用、ジェネスタはタイの拠点の活用とグローバルでの原料調達、最適な生産・供給体制により中東危機下でも顧客対応が可能であり、シェア拡大の余地も高まっている。
また、東レの繊維事業は中国、タイを拠点に原料から縫製製品までのグローバル一貫生産・販売体制を確立し、ユニクロ向け製品開発・供給契約を結んでいるが、同社ではこの流れから中国産の原料、中でもエチレン誘導製品の調達は潤沢にできるので調達の量の問題はないとのことだ。中東向けの民族衣装用の生地や海水淡水化用のRO膜は一時の出荷困難な状況はあったがオーダーは旺盛とのことだ。また、炭素繊維では航空・防衛関連に加え風力発電や水素貯蔵タンクなど再生エネルギー関連需要への高まりも期待できる状況になってきている。炭素繊維の原料であるアクリロニトリルは米国の割高感が解消され、米工場での生産優位性を生かせる方向となる。