この4月、政府は「循環経済行動計画」を取りまとめました。循環経済、いわゆるサーキュラーエコノミーについては、これまでも環境省や経済産業省を中心にさまざまな議論が進められてきましたが、今回の計画では特に「経済安全保障」という観点が強く打ち出されている点が特徴的です。
背景にあるのは、世界的な資源価格の高騰や地政学リスクの拡大です。半導体や蓄電池、再生可能エネルギー設備などに必要とされる重要鉱物について、特定国への依存度が高い状況が続く中、資源確保をめぐる国際競争は激しさを増しています。
日本のように資源輸入への依存度が高い国にとって、必要な資源を安定的に確保できるかどうかは、単なる経済問題ではなく、国家としての持続性に関わるテーマになりつつあります。今回の計画では、使用済み製品や廃棄物から有用資源を回収し、国内で循環利用してゆく仕組みづくりを強化することで、資源制約への耐性を高めようという方向性が明確に示されました。
これまで循環経済というと、どちらかと言えばサステナビリティやカーボンニュートラルの文脈で語られることが多かったように思います。環境負荷を下げる、CO2排出を減らす、持続可能な社会を実現する、といった議論ですね。
もちろん今回の計画にも、その考え方は色濃く残っています。ただ計画をよく読むと、「環境のためにやる」という説明だけではなく、「資源調達リスクに備える」「国内産業基盤を維持する」「サプライチェーンを強靭化する」といった、経済安全保障上の目的が非常に強く意識されていることが分かります。
サステナビリティと経済安全保障。この二つは似ているようで、実は少し立ち位置が違います。
サステナビリティは、本来的には地球環境や社会の持続可能性を重視する考え方です。長期的視点に立ち、「将来世代に負荷を残さない」という価値観がその中心にあります。
一方で経済安全保障は、より現実的かつ即時性を持った課題への対応という側面が強いものです。必要な資源や製品が入ってこなくなったらどうするのか。供給網が寸断された時に国内産業を維持できるのか。そういった「今そこにあるリスク」への備えとして語られることが多くなります。
ただ、両者が目指している方向には重なる部分も少なくありません。たとえば、使用済み製品からレアメタルを回収し再利用する取り組みは、資源採掘に伴う環境負荷を下げることにつながりますし、同時に海外依存度を下げることで経済安全保障にも資することになります。再生材の活用を進めることは、CO2排出削減だけでなく、供給リスクの低減にもつながるわけです。
このように考えると、確かに切り口は違っていても、結果としては同じ方向を向いている部分がかなり多いのではないでしょうか。
むしろ、「環境のために」という説明だけでは動きづらかった取り組みが、「経済安全保障」という観点を得たことで、一気に現実味を帯びてきたという変化のほうが重要なのかもしれません。
企業経営の現場では、どうしても喫緊性の高い課題から優先順位がつきます。数十年後の理想像だけを掲げるよりも、「今後の事業継続に関わるリスク対応」という説明のほうが、設備投資や技術開発の意思決定につながりやすいという側面はあると思います。
そういう意味では、今回の行動計画は、循環経済への取り組みを単なる理念論から一歩進め、「産業政策」として本格化させる意味合いを持っているように感じます。
循環経済の推進は、結果としてサステナビリティやカーボンニュートラルを前に進めることにもなります。そうだとすると、今回の計画は全体として「取り組みをさらに加速する」方向へ舵を切ったものとして評価できるのではないでしょうか。
もちろん、取り組みが深化する中では、経済安全保障とサステナビリティが完全には一致しない場面も将来的には出てくるかもしれません。たとえば国内供給を優先するあまり、短期的には環境負荷が増えるようなケースが絶対にないとは言い切れません。
ただ現時点では、両者はむしろ相互補完的な関係にあるように見えます。だからこそ、今後もし両立が難しくなるような局面が見えてきた場合には、ぜひ早い段階で制度的な調整や技術的な対策を講じ、不安や懸念を払しょくしてゆくことが重要になるのでしょう。
循環経済は、単なる環境政策ではなく、これからの産業競争力そのものに関わるテーマへと変わりつつあります。資源を持たない日本だからこそ、循環を強みに変える発想が、これまで以上に重要になってくるのではないかと思います。