米ペンシルベニア州立大学の研究チームが、廃棄されたPET(ポリエチレンテレフタレート)プラスチックを高度に規則配列した人造黒鉛へと変換する手法を開発し、6月26日付で大学公式サイトに研究成果を公表した。論文は学術誌「Diamond and Related Materials」に掲載されている。研究の筆頭著者は同大学John and Willie Leone Family Department of Energy and Mineral Engineeringの博士課程学生Shakshi Sekar氏である。
黒鉛は米エネルギー省が定める重要鉱物のひとつで、リチウムイオン電池の負極材料として電荷の蓄積・放出を担う中核部材だ。EV、スマートフォン、系統用蓄電システムの需要拡大にともない、電池グレードの黒鉛需要も伸び続けている。
一方でPETは世界で最も使用量の多いプラスチックの一つ(米PET容器リサイクル協会=NAPCOR調べ)だが、回収された容器の多くは低価値な用途にダウンサイクルされるか、埋立処分されているのが実情だ。研究チームは、この2つの課題を同時に解決できる可能性に着目したという。
粉砕したPETに少量の酸化グラフェンを混ぜ、条件を制御しながら加熱することで、プラスチック内の炭素原子を規則配列した黒鉛構造へと再構成する。実験では酸化グラフェンの添加量を重量比2.5%とした条件で最も品質の高い黒鉛が得られた。酸化グラフェンのシート端に存在する含酸素官能基が黒鉛結晶の横方向の成長を促し、露出したグラフェン表面が炭素原子を整然と積層させる"鋳型"のような役割を果たすという。
得られた黒鉛は結晶粒(crystallite)のサイズが大きく、配列も規則的で、比較対象とした商用天然黒鉛サンプルを上回る秩序性を示した。この構造的な秩序性は、負極材料としての適性を測る重要な指標とされる。
さらに、この手法は鉄・ニッケル・コバルトといった金属触媒を使わない点も特徴だ。従来の人造黒鉛製造では金属触媒を使う手法が一般的だが、金属由来の不純物を除去するための追加の化学精製工程が必要になる。今回の手法はこの工程を省けるため、化学薬品の使用量や廃棄物の削減につながるとみられる。
Sekar氏は大学発表の中でこう述べている。「多くの人はペットボトルを使い終われば廃棄物だと考えている。しかし私たちの研究は、同じ素材が現代の電池技術に欠かせない黒鉛を生み出す貴重な資源になり得ることを示した」。また、「金属触媒を使わないことで、化学薬品の使用と廃棄物の発生を抑えながら、より清浄な黒鉛を作ることができる」とも語り、「廃プラスチックが先端エネルギー材料の原料になり得るなら、リサイクルに対する考え方そのものが変わる」と付け加えている。
研究チーム自身も、大規模生産の実現可能性や実際の電池での性能評価については、今後さらなる検証が必要だとしている。現時点ではあくまで研究室レベルの成果であり、商業化の道筋が確立されたわけではない点には留意が必要だ。研究資金は米国立科学財団(NSF)の支援を受けている。
足元の負極材料市場では、人造黒鉛の需給が引き締まる一方、天然黒鉛は需要が伸び悩むという構図が続いている。今回の手法がもし量産段階まで進めば、人造黒鉛の原料調達に廃プラスチックという新たな選択肢が加わることになり、供給制約の緩和や環境負荷低減の両面で電池材料サプライチェーンに影響を与える可能性がある。ただし現段階ではあくまで基礎研究の段階であり、実用化の時期を見通すには時期尚早である。
参考資料:
Plastic bottles could find new life in batteries as graphite