7月7日、日本電線工業会は住友電工本社(東京・赤坂)にて井上治新会長(住友電工 代表取締役)の就任会見および合同インタビューを行った。協会会員の約8割を占める中堅・中小企業の経営基盤強化支援を最重要責務とし、人材確保、取引適正化、環境変化への対応など、今後の業界の持続的成長に向けた方針と課題について見解が示された。
1. 就任にあたっての重点方針と課題認識
電線産業のプレゼンス向上と持続可能な発展に向け、以下の施策を推進すると発表。
- 経営基盤強化と取引適正化: 適切な利益を確保できる環境づくりが不可欠です。関係省庁と連携し、価格転嫁の推進や手形サイト短縮などの取引適正化(商慣習の改善)を継続して進めます。
- 人材確保と育成支援: 深刻な人手不足への対応として、電線総合技術センターとの協業による教育支援を実施します。また、外国人材の受け入れに向けた環境整備や、業界共通テキストの作成を進めます。
- 国際動向への対応: 経済安全保障や貿易管理の方針に迅速に対応するとともに、欧州の電線工業会との技術交流を通じ、国際規格の制定・改定に参画します。
- 広報活動の強化: 11月18日の「電線の日」の社会への浸透を図るほか、第3期電線アンバサダー(石山蓮氏)との連携やSNS(Instagram等)を活用し、業界全体の魅力発信に努めます。
2. 足元の市場動向と次期(2026年度)需要見通し
国内向けの銅電線需要見通しは、全体としてプラス0.8%(約58.8万トン)と、ほぼ横ばいから微増を予測しています。
| 部門 | 需要見通し | 動向・要因 |
| 通信 | 減少 | 光ファイバー化の進展により、メタルケーブルの需要は減少傾向。 |
| 電力 | 増加 | 人手不足による工事制約はあるものの、設備更新やデータセンター(DC)需要により増加見込み。AIデータセンター向けの光ファイバー需要はきわめて旺盛。フルフル生産でも需要に追い付いていない状態。 |
| 電気機械 | 横ばい〜微増 | 生成AIの普及に伴う電力需要増や、設備投資・更新需要により底堅く推移。家庭用は伸び悩み。 |
| 自動車 | 増加 | 自動車生産自体は横ばいも、EV化や高級化に伴う1台あたりの電線使用量増が牽引。 |
| 建設 | 減少 | 再開発案件はあるものの、資材高騰や人手不足による工期の長期化・後ろ倒しが影響。 |
| その他内需 | 堅調 | 前年比では減少傾向。鉄道関連など一部向け先で伸びているが、内需の中では低調に推移 |
3. 業界を取り巻く主要課題と対策
原材料・物流費の高騰とサプライチェーン・リスク
銅価をはじめとする原材料費やエネルギーコスト、物流費の高騰が経営に大きな影響を与えています。価格転嫁の交渉を継続するとともに、工業会としてコスト変動を可視化し、共同配送の検討など物流の効率化(ホワイト物流)を模索します。また、中東情勢の緊迫化による海上運賃の上昇や輸送遅延リスクを注視し、関係省庁と連携して不測の事態に備えます。
絶縁材料(ナフサ・ワニス)の高騰
被覆材料の原料であるナフサ価格の急騰やワニスの調達難は、サプライチェーン上の大きな懸念事項です。現時点では生産が停止するような事態には至っていませんが、会員各社と情報共有を図り、関係省庁と連携して対応します。
銅線盗難被害への対応
太陽光発電所などでの銅線盗難は極めて深刻な社会問題です。工業会として、盗難されにくい仕様や識別しやすい電線の開発・普及に努めています。また、関係省庁と連携し、特定金属類取扱業の規制に関する法令(2026年施行)などを通じた対策強化を働きかけています。
4. 技術革新と環境への取り組み
生成AI・データセンター(DC)需要への対応
生成AIの普及に伴うデータセンターの新設・増設により、関連需要は急拡大しています。会員各社は設備投資や人員配置を強化し、生産体制の構築に尽力しています。DC需要は一過性のものではなく、社会インフラとしての持続的な成長が見込まれますが、過剰投資にならないよう市場動向を注視します。
自動車向け需要(EV化・アルミ化への移行)
EV化の進展に伴い、自動車用電線には「高電圧・大電流への対応」や「柔軟性」が求められています。また、車体の軽量化を目的として、電力線を中心に銅からアルミへの代替(アルミハーネス化)が進んでいます。一方で、センサーや通信線などには細径の銅線が引き続き使用される見通しです。
カーボンニュートラルとSDGs
工業会として「カーボンニュートラル行動計画」を策定し、CO2排出量削減を推進しています。製品のライフサイクル全体でのCO2削減や、リサイクル素材の採用、環境配慮型製品の開発など、SDGsの達成に向けた取り組みを強化します。

5. 質疑応答(Q&A)ハイライト
Q. データセンター(DC)関連需要の具体的な動向は?
A. 米国への電線輸出という形での需要は限定的ですが、国内では北海道から九州までDCの建設計画が進行しています。特にビル内の配線や機器間をつなぐ光ファイバー配線の需要が強く、日本のケーブルメーカーへの引き合いが増加しています。
Q. 海底直流送電網など、国内インフラ向けの大規模投資への判断は?
A. (住友電工の場合だが)日本海側などの直流海底ケーブルプロジェクトに向けた設備投資は検討を進めていますが、「10年で終わるのか、その後も継続するのか」など、中長期的な事業見通しが立たないと巨額の投資判断は困難です。政府には、投資回収の計算が可能となるような明確なロードマップの提示を求めています。
Q. 銅のリサイクルに関する課題は?
A. 自動車の廃車などから銅を効率的に回収する技術の確立が課題です。また、中古車として海外(東南アジア等)へ輸出されることで、国内の銅スクラップ資源が流出してしまう問題もあり、関係各所と対策を検討しています。
Q. 経済産業省など、行政に期待することは?
A. 電線業界の健全な発展のため、国内インフラ更新への積極的な予算措置、新技術の標準化や規制緩和などに力強い後押しを期待しています。
Q. 光ファイバーに使われる原料のゲルマニウムの不足感というのは業界にないのでしょうか?
A. 輸入懸念はあるが納入は続いており、ゲルマニウム不足で生産に影響が出ているということには至っていない。