EUは、中国製バッテリー式電気自動車(BEV)の市場シェアが拡大し、中国政府の補助金により市場が歪められているとの懸念が高まったことから、欧州委員会は2023年10月に「反補助金調査」を開始した。調査の結果、中国のBEVバリューチェーンが国家補助により不公正な競争を生み、EUメーカーに損害を与えるおそれがあると判断されたため、相殺関税の発動に踏み切った。EUは従来から輸入乗用車に一律10%の関税を課しており、その上に中国製EV向けの追加関税を積み上げている。2024年10月末に導入された最終的な追加関税は最大35.3%となっており、基本関税10%と合わせると中国製EVには最大45.3〜46.3%程度の関税負担が発生する構造となっている。一方で、その効果については疑問視する声もある。Transport & Environment(T&E)が行った最新分析によれば、その結果は一様ではない。関税は西側自動車メーカーの生産戦略を変化させた一方で、中国ブランドの欧州市場での拡大は続いている。
関税は生産移転を促進
中国で生産されたバッテリー電気自動車(BEV)のEU市場シェアは、2024年の22%から2026年第1四半期には17%へと低下した。この減少は主に西側メーカーによる生産移転によるものである。テスラ、BMW、ボルボなどは関税回避のため、中国から欧州へ生産を移した結果、中国製EV輸入に占める欧州メーカーの割合は、2024年の38%から2026年初頭には23%に低下した。テスラも26%から19%へと減少した。ただし、輸入全体の縮小につながっているわけではなく、輸入構造が変化したに過ぎない。
中国メーカーの市場は拡大
欧州メーカーが現地生産へ移行する一方で、中国メーカーの輸入シェアは拡大している。現在、中国からEUに輸入されるBEVの過半を中国ブランドが占めている。関税水準が企業ごとに異なるため、その影響も異なっている。例えば、35%の関税が課されたSAICの輸入は2023年から2025年にかけてほぼ半減した。一方、17%の関税にとどまるBYDはEU向け輸出を倍増させた。なお、中国製BEVは依然として欧州製より平均21%安価となっており、この価格競争力が市場拡大を支えている。
生産の現地化とPHEVへのシフト
中国メーカーは輸出拡大だけでなく、戦略的な対応も進めている。2023年のEUによる反補助金調査開始以降、欧州での生産拠点計画が少なくとも10件発表されている。加えて、関税の影響を受けにくいプラグインハイブリッド車(PHEV)へのシフトも進む。中国ブランドのEUにおけるPHEV市場シェアは、2024年の3%から13%へと拡大した。T&Eは、関税は産業配置に影響を与えているが、競争圧力そのものを抑制しているわけではないと分析する。
バッテリー分野の空白
EUの貿易防御措置においては、EV上流部門であるバッテリー分野の「空白」が指摘される。中国製バッテリーの輸入は2020年から2025年にかけて7倍に増加したが、関税はほぼ課されていない。一方、EU域内のバッテリー生産における欧州企業のシェアは4分の1未満にとどまり、競争力の持続性が懸念されている。T&Eは、中国製バッテリーへの関税導入が欧州の電池産業を支援すると指摘する。試算では、20%の関税を課してもEU製BEVの価格上昇は平均2.8%にとどまる。
規制により市場構造は変化
T&Eによるレポートは、貿易政策と気候政策の相互作用にも言及する。現在EUの自動車CO2基準の緩和が提案されているが、これが実現した場合、市場構造は大きく変わるとの見方が強い。規制が弱まれば、2035年時点で中国ブランドのシェアは30%に達する可能性もある。一方、CO2基準における現在の欧州委員会案を維持すれば15%程度に抑えられると見られている。欧州メーカーの電動化が遅れれば、その分だけ輸入車の余地が拡大する。
限定的な成果
T&Eは、全体的には、EV関税は一定の効果を示しており、欧州メーカーの生産移転や中国メーカーの欧州投資を促した点は評価できるとしている。しかし、中国ブランドの競争力の拡大を抑えるには至っておらず、特にバッテリー供給におけるEUの構造的な依存は依然として残っている。レポートは、問題の解決には、貿易措置のみでは不十分であり、産業政策、供給網強化、CO2規制といった需要創出政策との整合が不可欠であると締めくくっている。