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EU産業加速法:欧州の自動車業界はどう見る?

2026/07/15 19:08
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2026年3月に発表されたEU産業加速法(Industrial Accelerator Act, IAA)は、「Made in EU」の低炭素製品・技術の製造を増やし、域内製造のGDP比を2024年の約14.3%から2035年に20%へ引き上げることを狙う新しい産業規則案だ。 ネットゼロ産業法(NZIA)や重要原材料法(CRMA)が主に供給側(クリーンテック製造能力や原材料供給)を扱うのに対し、IAAは公共調達・需要側優遇(EU製・低炭素製品の優先)、産業加速エリア、FDI(外国直接投資)管理等を通じて、EU製造業全般の競争力を底上げする横断的な枠組みとして構想されている。

IAAは、全産業一般を対象としつつ、とりわけ次の分野に重点を置いている。

  • エネルギー多消費産業(鉄鋼、化学、セメントなど)
  • ネットゼロ技術(NZIAで定義されるクリーンテック製造)
  • 自動車産業を含む製造業全般

現在同法案は審議が行われているが、ACEA(欧州自動車工業会)が1日、同法案内容に対する欧州自動車業界の立場を明らかにした。

産業加速法に対する自動車業界の基本姿勢

ACEAはまず、産業加速法の主目的である「EU製造業の空洞化リスクを抑え、クリーン技術について他地域への依存を減らす」ことに関しては賛同するとしている。 EU産業基盤の空洞化リスクは現実問題であり、「スマートでターゲットを絞った」域内製造業への支援策は歓迎するというのが出発点である。

同時に、ACEAは「既存課題のスケールを過小評価してはならない」と警告する。IAAが現在欧州委員会に提案されている内容のまま採択されれば、既存のバリューチェーンを切断し、現在進行中の投資が広い範囲で損ないかねないことを業界側は大きく懸念している。 自動車業界が求めるのは、「EU産業を強化し、既存投資と雇用を守る現実的な実施計画」であり、その条件が満たされて初めてIAAは有効な産業政策ツールになり得ると主張する。

背景には、欧州自動車産業がすでにゼロ・エミッションモビリティへの転換期に置かれており、同時に激しい国際競争、製造コスト上昇、欧州内需要の低迷に直面しているという状況がある。 その中で、「EU27優先」へのシフト自体は正当だが、これは段階的に行うべきであり、限定的な免除を組み込む必要があるとACEAは強調する。

ACEAは、IAAを「実務的に機能する枠組み」にするため、理事会および欧州議会に対し、以下の8つの事項を修正・補強するよう求めている。

1. ローカリゼーション義務にはインセンティブが必要

IAAは、組立やコンポーネントのローカリゼーション要求(EU域内生産比率)によって車両製造コストを引き上げることになる。 ACEAは、これを単に義務だけで課せば「欧州で作るコストだけ上昇し、ビジネスケースは改善しない」リスクが高いと指摘する。

2. 「部品」ではなく「完成車」ベースで内容を測定すべき

現案では、「Made in EU」基準の算定がコンポーネント単位の内容に基づいて行われる設計になっている。ACEAは、これでは欧州内での車両製造そのものが生み出す付加価値であるR&D、先進エンジニアリング、高技能労働を過小評価すると批判する。

3. 「Made in EU」枠組みのもとで英国を同等パートナーとして扱う

ACEAは、EUと英国との間には、EU離脱後も維持されている自動車バリューチェーンが存在している点を強調する。 EU–UK貿易協力協定(TCA)には、競争・労働・環境保護の「同一ルール(Level Playing Field)」条項が含まれており、基準面での等価性が確保されている。そのため、英国で生産される車両・コンポーネント・バッテリーは、EU27で製造されたものと同等の扱いとし、すべてのIAA政策へのアクセスを認めるべきだと主張する。

4. トルコ・モロッコの既存投資を「祖父条項(grand father clause)」で保護

さらにACEAは、EU自動車メーカーがトルコやモロッコなど「EUと緊密する近隣地域」で展開している製造拠点について、「既存投資を保護する」必要性を訴える。

5. 「フリート単位」のシンプルなコンプライアンス・メカニズム

ACEAは、OEMフリート全体を対象とした単純なコンプライアンス規定を提案する。例えば、ある年にOEMフリートの70%が「Made in Europe」(バッテリー・コンポーネント・車両組立)要件を満たした場合、翌年はフリート全体(100%)に関連メリットを付与するなど。

6. バッテリー・低炭素素材ローカリゼーションのタイムラインは現実的なものに

ACEAは、法案の中の電池ローカリゼーションに関するタイムラインが現実的とはいえない点を問題視している。 特に、重量車セグメントでは、2030年までにHDV向け電池需要がEU電池生産能力全体を上回ると見込まれており、その状況で「Made in EU」電池コンポーネントを義務化すれば、電池組立コストが大きく跳ね上がると警告する。

7. 報告負担の大幅な簡素化

ACEAは、IAAの「Made in EU」基準に関する報告・検証義務が、実務的にはメーカーに大きな負担を課すと指摘する。 自動車メーカーは、数千に及ぶサプライヤーから証拠を収集し、彼らを教育しつつ、最終的な法的責任を負うことになるため、監査の容易な報告スキームが不可欠だと主張する。

8. 車両セグメント間の違いを反映すべき

最後にACEAは、IAA提案が乗用車、バン、トラック、バスを実質的に同じテンプレートで扱っていることを問題視する。 これらのセグメントは、開発期間、バリューチェーン構造、サプライの状況が大きく異なっており、とりわけトラック・バスのような重量車セグメントに対しては、別建ての考慮が必要だと訴える。

結論として、ACEAは「IAA単独では、欧州が製造拠点として弱体化している構造要因を逆転させることはできない」と明言する。 必要なのは、エネルギーコスト、許認可に要する時間、人材不足といった構造問題への取り組みを続けることであり、電池生産に関するCAPEX・OPEX投資を安定的に維持することだとする。さらに、規制の簡素化は重要なレバーであり、翌年予定されるEU車両型式認証枠組みの見直しは、「不要なレッドテープを削減し、プロセスを合理化する」絶好の機会であると締めくくっている。

 

Yukari SCHANZ

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