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精密乾留法が切り拓くCFRP水平リサイクルの新天地―富士加飾が進める「アップサイクル」への挑戦

2026/07/17 09:20
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炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、その卓越した比強度と比剛性により、航空宇宙、自動車、スポーツ用品など、現代の最先端産業を支える不可欠な材料となっている。しかし、その普及の裏側で、難リサイクル性が常に大きな課題として立ちはだかってきた。こうした中、兵庫県小野市を拠点とする富士加飾(杉野守彦社長)は、独自の「精密乾留法」を核としたリサイクル技術を確立し、リサイクル炭素繊維を単なる代用品ではなく、新たな価値を持つ素材へと進化させる「アップサイクル」の事業化を加速させている。同社は、リサイクル炭素繊維から最終製品までの水平リサイクルを一貫して量産できる、世界でも稀有な技術集団として、CFRPの未来をデザインしようとしている。

 

杉野社長

 

CFRPのリサイクルにおける最大の障壁は、マトリックス樹脂をいかに効率的に除去し、高品質な炭素繊維を回収するかという点にある。従来の主流であった外熱式による熱分解法では、処理過程で繊維が乱れ、最終的に毛玉状に絡まった状態で回収されることが一般的であった。これでは繊維の整列性が失われ、粉砕して不連続繊維として利用する「ダウンサイクル」に留まらざるを得ない。これに対し、富士加飾が開発した精密乾留法は、熱分解プロセスを精密に制御することで、成形前の繊維配列を維持したまま、あるいは連続繊維のトウとして炭素繊維を回収することを可能にした。

この精密乾留法のプロセスは、温度帯ごとに三つの段階に分かれている。まず、室温から300度の段階でマトリックス樹脂の分解が開始され、繊維層間の剥離であるディラミネーションが進行する。次に、300度から380度の温度域では、このディラミネーションがさらに進み、内部の層状物が均一に分解される。最終的に400度から480度の段階で、層状剥離物の炭化が進み、穏やかな酸化が起こる。この精密な制御により、従来法のように繊維が絡まることなく、室温に取り出した際には成形前の整然とした繊維配列へと戻るのである。この技術的特異性こそが、富士加飾のリサイクル技術の核心であり、高品質な再生素材を生み出す源泉となっている。

富士加飾の目指すリサイクルは、単に元の素材に戻すことではない。同社は、リサイクル炭素繊維が辿るべき方向として「アップサイクル」を提唱している。精密乾留法によって処理された繊維の表面には、アモルファスカーボン層が析出する。この新しい表面層を活用することで、新品の炭素繊維を超える新たなコンポジットとしての可能性が期待できるのである。従来法のようにマトリックス樹脂を完全に除去しようとすると、繊維の整列性が失われるだけでなく、繊維自体のポテンシャルも低下しかねない。しかし、精密乾留法では元の繊維長を維持しつつ、特殊な表面状態を付与することで、リサイクル品でありながら新品に匹敵、あるいはそれを凌駕する機械的性能を実現している。安定期の限られた市場の取り合いではなく、アップサイクルの目指すところは新しい市場、用途の創生であり、市場の活性化を狙う。

 

確かな環境性能

環境性能の観点からも、富士加飾の技術は際立った数値を叩き出している。炭素繊維協会の発表によれば、新品の炭素繊維を製造する際のライフサイクルアセスメント(LCA)値は、炭素繊維1トンあたり22.4トンのCO2排出とされる。これに対し、富士加飾の精密乾留法によるリサイクル炭素繊維は、2020年時点で2.5トン、2023年には2.3トンまで低減させてきた。さらに、2025年には1.5トンという驚異的な目標値を達成している。これは、鉄鋼材料の一般的なLCA値である2.4トンをも下回る数値であり、リサイクル炭素繊維が真に環境負荷の低い「グリーンな素材」として、鉄鋼材料などの既存素材と十分に競合できることを示唆している。

事業化に向けた歩みも着実である。2019年に環境省の実証事業として精密乾留法によるリサイクル技術の開発をスタートさせた後、2021年にはCFRPの処理能力が1日あたり3トンに達するプラントを設置し、本格的な事業化を開始した。リサイクル源としては、航空機製造時の端材や成形前のプリプレグ、スポーツ用品の端材といった「ポスト・インダストリー」の資源だけでなく、使用済みの水素ボンベやCNGボンベ、さらには用廃航空機といった「ポスト・コンシューマー」の資源まで幅広く確保している。特に水素ボンベなどは、精密乾留処理を施すことで、連続繊維のトウとして再生することが可能であり、その加工性の高さが証明されている。

再生された炭素繊維は、その優れた品質を活かし、多様な形態へと加工されている。抄紙法による湿式不織布、ニードルパンチを施した乾式不織布、さらには再生炭素繊維によるクロス(織物)など、用途に応じた柔軟な展開が可能だという。

これらの加工品は、新品の炭素繊維と同等の機械的性能を持ちながら、加工性に優れ、かつ圧倒的な低炭素化を実現していることが大きな強みである。リサイクル炭素繊維が直面してきた「性能の劣化」と「加工の難しさ」という二大課題を、富士加飾は技術革新によって克服したと言えるだろう。

富士加飾が描き出すCFRPの循環型社会は、単なる理想論ではなく、具体的な数値と量産実績に裏打ちされた現実のものとなりつつある。精密乾留法という独自の技術を軸に、原料の回収から高度な再生処理、そして高付加価値な製品化までを垂直統合で進める同社のモデルは、CFRP産業全体のサステナビリティを底上げする強力なエンジンとなるはずだ。リサイクル素材が「安価な代替品」という地位を脱し、環境性能と高性能を両立した「選ばれる素材」へと進化したとき、CFRPの真の黄金時代が到来すると期待される。

 

次世代フォーミュラEマシンに採用

近年でも、富士加飾の技術力に惹かれた企業は絶えない。2025年11月には、フォーミュラEを主宰する国際自動車連盟(FIA)が、モータースポーツの再定義と電動レースの新たな章の幕開けを象徴する、次世代フォーミュラEマシン「GEN4」を発表。その車体に、ヨーロッパの数多くの炭素繊維リサイクルベンチャー企業を押さえて、富士加飾のリサイクル炭素繊維が使用されているという。

同件については、同社の杉野社長が登壇する「自動車リサイクルサミット」(8月21日、東京・新橋開催)で語られる予定だ。「IRuniverseのために他では語らなかった」(杉野社長)という重要情報を入手する貴重な機会となるため、奮ってのご参加いただきたい。

 

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Kota Kuribara

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