要旨
- 2025年の輸出総額は53.81億ドル。四半期ごとの金額は13.3〜14.6億ドルとほぼ横ばいで、年間を通じて増加・減少どちらの傾向も見られなかった。
- 2026年1〜5月は前年同期比+19.0%。3月に前月比+21.7%と明確な転換点を迎えたが、4月+6.0%、5月+3.1%と、その後は増加ペースが目に見えて鈍化している。
- 2026年の成長を国別に分解すると、金額増加分の30.2%はインド一国が牽引しており、中国を上回る最大の成長ドライバーとなっている。一方で中国の構成比自体は縮小しており、「量は伸びるが集中度は緩和する」という構造変化が同時に進行している。
- 市場集中度は2025年通年の約2,101から2026年1〜5月の約1,947へ低下。上位数カ国依存という構造は変わらないが、緩やかな分散が統計的に確認できる。
一、2025年
1. 数量分析
年間輸出総額53.81億ドル。月次推移は次の通り。
| 月 | 輸出重量(トン) | 輸出額(億ドル) |
| 1月 | 262,023.0 | 4.55 |
| 2月 | 284,221.0 | 4.76 |
| 3月 | 252,319.2 | 4.20 |
| 4月 | 264,948.7 | 4.51 |
| 5月 | 287,025.6 | 4.89 |
| 6月 | 233,265.3 | 4.03 |
| 7月 | 259,839.6 | 4.41 |
| 8月 | 250,947.3 | 4.17 |
| 9月 | 298,230.8 | 4.98 |
| 10月 | 229,364.3 | 3.83 |
| 11月 | 285,520.3 | 4.82 |
| 12月 | 277,248.2 | 4.67 |
2025年は金額・数量とも、単月では大きく上下しながら四半期でならすとほぼ横ばいという共通の特徴を示した。輸出額は単月で3.83億〜4.98億ドル(差30%近く)、輸出重量は22万9364トン(10月)〜29万8231トン(9月)とそれぞれ振れ幅が大きいが、四半期集計では輸出額が13.3億〜14.6億ドル(差8.6%)、輸出重量が79万2133〜80万9018トン(差2.9%)と、いずれも差が大きく縮まる。四半期・年間という長いスパンで見れば、2025年は増加も減少もしていない横ばいの年だったと言える。
唯一この「フラット」から明確に逸脱するのがQ4で、金額・数量とも同じ形のV字を描いた。輸出額は9月4.98億→10月3.83億(前月比▲23.1%)→11月4.82億(同+25.9%)、輸出重量も9月29万8231トン→10月22万9364トン(同▲23.1%)→11月28万5520トン(同+24.5%)と推移し、10月の下落率は金額・数量でほぼ完全に一致した。これは10月の落ち込みが単価変動によるものではなく、実際の出荷量そのものが減ったことを裏付けている。
この時期は、2025年9月12日にインドネシア政府の特別作業部会が違法な森林許可を理由に世界最大級のニッケル鉱山の一つであるWeda Bay Nickelの土地約148ヘクタールを接収し、同時に多雨による鉱区の洪水頻発で鉱石生産が前年比5%減少、政府の採掘割当発給の遅れも重なって製錬所の原料不足が常態化していた時期と重なる。9月の供給側の混乱が1カ月の時差を伴って10月の輸出に表れ、在庫取り崩しや代替調達が進んだ11月に急回復するという構図は、金額・数量双方のデータと時系列上整合的である。
2. 国別分析
| 国・地域 | 輸出重量(トン) | |
| 1 | 中国 | 1,039,543.9 |
| 2 | 台湾 | 736,075.7 |
| 3 | ベトナム | 685,181.4 |
| 4 | マレーシア | 281,761.4 |
| 5 | トルコ | 155,188.6 |
| 6 | タイ | 102,901.9 |
| 7 | 韓国 | 96,243.2 |
| 8 | インド | 39,475.2 |
| 9 | イタリア | 33,621.6 |
| 10 | 日本 | 4,810.2 |
| 11 | シンガポール | 2,730.2 |
| 12 | オーストラリア | 2,340.9 |
| 13 | 米国 | 1,475.1 |
| 14 | カナダ | 994.5 |
| 15 | モロッコ | 673.5 |
| 16 | アルゼンチン | 560.3 |
| 17 | アラブ首長国連邦 | 351.0 |
| 18 | 南アフリカ | 295.0 |
| 19 | バングラデシュ | 189.0 |
| 20 | ベルギー | 178.6 |
| 21 | ポーランド | 166.4 |
| 22 | ブラジル | 103.2 |
| 23 | エジプト | 70.7 |
| 24 | メキシコ | 20.9 |
| 国・地域 | 輸出額(米ドル) | 構成比 | |
| 1 | 中国 | 1,660,998,648 | 30.9% |
| 2 | 台湾 | 1,250,079,229 | 23.2% |
| 3 | ベトナム | 1,163,386,147 | 21.6% |
| 4 | マレーシア | 502,848,833 | 9.3% |
| 5 | トルコ | 279,704,811 | 5.2% |
| 6 | 韓国 | 196,592,738 | 3.7% |
| 7 | タイ | 170,025,538 | 3.2% |
| 8 | インド | 73,498,283 | 1.4% |
| 9 | イタリア | 56,044,558 | 1.0% |
| 10 | 日本 | 8,150,812 | 0.2% |
| 11 | その他 | 19,575,816 | 0.4% |
| 総計 | 5,380,905,414 |
上位3カ国合計75.7%、上位5カ国で90%超と、少数国への依存度が高い構造になっている。
この集中構造の背景には、インドネシアのステンレス産業自体が中国系資本(青山集団=Tsingshan系)主導で構築されてきたという事情がある。Tsingshanはモロワリ(Morowali)とウェダ・ベイ(Weda Bay)の両工業団地を通じてインドネシアのニッケル鉱山生産能力の約30%を管理し、2025年には高冰ニッケルの年産量を100万トンまで引き上げ世界供給量の40%以上を占める計画を掲げていた。中国・台湾はインドネシアにとって単純な最終消費市場ではなく、同一資本系列の産業チェーン内で原料・半製品が還流する相手という側面が強く、これが上位3カ国だけで75%を超えるという高い集中度の構造的な要因と考えられる。
月次の安定性では中国が突出しており、構成比は年間を通じて28〜36%のレンジに収まる。台湾・ベトナムはこれよりやや振れ幅が大きく、上位3カ国の中でも基幹取引先としての安定度には差がある。
二、2026年(1〜5月、速報値)
1. 数量分析
| 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | |
| 輸出重量(トン) | 297,934.9 | 263,832.3 | 312,868.2 | 316,591.2 | 310,898.1 |
| 出口額(億ドル) | 4.99 | 4.60 | 5.60 | 5.94 | 6.12 |
2025年は月次の増減がはっきりしたトレンドを持たなかったのに対し、2026年は2月の下落を挟みつつも3月以降4カ月連続で増加しており、上昇基調に転じたと言える。月ごとの増減率で見ると、2026年(1〜5月)の変動幅はむしろ2025年より小さく、上昇局面に入ってからは相対的に安定した動きとなっている。
2. 国別分析
| 国・地域 | 輸出重量(トン) | 構成比 | 順位 | |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 中国 | 460,707.7 | 30.7% | 1 |
| 2 | 台湾 | 337,452.4 | 22.5% | 2 |
| 3 | ベトナム | 306,614.0 | 20.4% | 3 |
| 4 | マレーシア | 115,364.2 | 7.7% | 4 |
| 5 | トルコ | 97,201.6 | 6.5% | 5 |
| 6 | インド | 86,089.4 | 5.7% | 6 |
| 7 | タイ | 39,041.5 | 2.6% | 7 |
| 8 | 韓国 | 34,007.2 | 2.3% | 8 |
| 9 | 米国 | 7,198.5 | 0.5% | 9 |
| 10 | 日本 | 6,413.8 | 0.4% | 10 |
| 国・地域 | 輸出額(米ドル) | 構成比 | |
| 1 | 中国 | 813,586,608 | 29.9% |
| 2 | 台湾 | 612,148,630 | 22.5% |
| 3 | ベトナム | 535,925,212 | 19.7% |
| 4 | マレーシア | 219,852,266 | 8.1% |
| 5 | トルコ | 185,003,664 | 6.8% |
| 6 | インド | 169,286,900 | 6.2% |
| 7 | 韓国 | 70,919,087 | 2.6% |
| 8 | タイ | 70,879,418 | 2.6% |
| 9 | 米国 | 12,890,060 | 0.5% |
| 10 | 日本 | 11,430,401 | 0.4% |
| 11 | その他 | 22,940,909 | 0.8% |
| 総計 | 2,724,863,154 |
インドは総額に占める比率こそ6.2%にとどまるが、増加分だけを見れば中国を上回る最大の牽引役だ。数量ベースの構成比も5.7%と金額(6.2%)からそう離れておらず、単価が上がってかさ増しされた数字ではなく、実際に運ぶ量そのものが増えている。
中国は逆に構成比を落としながらも、金額自体は+13.6%とむしろ伸びている。数量の構成比も30.7%で金額(29.9%)とほぼ重なるので、シェアの縮小と取引の減少はイコールではない。ただし月を追うごとに構成比は下がっており、1月の33.3%が5月には24.8%まで落ちている点は気に留めておきたい。
タイだけは金額・構成比とも前年から減っており、全体の伸びを押し下げる側に回っている。
もう一つ、数量データがあって初めて見えてきたのが仕向け先ごとの単価差だ。韓国向けは1トンあたり2,085ドルとほかより高く、中国・ベトナム向けは1,750ドル前後にとどまる。同じステンレス鋼材でも、行き先によってグレードや加工度が違う可能性がありそうだ。
上位3カ国の合計シェアは、金額ベースで2025年の75.7%から2026年は74.2%へ。数量ベースでも中国・台湾・ベトナムの3カ国で73.6%と近い水準になっており、少数国依存の構造は金額・数量どちらで見てもわずかに薄まりつつある。
3. 個別国の急変動
インドの4月急増:1〜3月は数百万ドル台で推移していたが、4月に単月1.07億ドルへ急増、5月は5,353万ドルへ反落した。背景として、インド企業が2024年8月にインドネシア・ハルマヘラ諸島で年産20万トン規模のニッケル銑鉄(NPI)合弁製錬所を稼働させ、インドのニッケル系原料輸入が前年比143.47%増と急拡大していた経緯がある。単発の貿易オーダーというより、インド企業自身がインドネシアに構えた製錬・加工能力の稼働タイミングに連動した動きと解釈するのが妥当であり、6月以降のデータでこの水準が定着するかどうかが焦点になる。
台湾の5月急伸:5月に1.75億ドルを記録し、2025〜2026年通期の台湾の最高値を19%上回った。4月0.87億ドルから5月1.75億ドルへの前月比+101%。
4. 増加の背景要因
アンタラ通信の2026年2月4日付報道では、インドネシアのブディ・サントソ貿易相が、下流産業の発展と国内工業生産能力の向上により、インドネシアの鉄鋼製品輸出の世界ランキングが2019年の第17位から現在は第5位(中国・ドイツ・日本・韓国に次ぐ)まで上昇したと述べている。
本データもこの傾向を裏付けている。2026年1〜5月のHS7219輸出額は前年同期比+19.0%であり、特に3月以降は前年同月比+30%超まで伸びが加速している。国全体の鉄鋼輸出ランキング上昇という政府の発言と、細分品目レベルでの本データの動きは、方向性として一致していると言える。
この増加の背景としては、以下のような要因が考えられる。
第一に、新規プラントの稼働時期が、データの動きと重なっている点が挙げられる。2026年4月10日には、桂鑫鋼鉄のインドネシア工場が正式に稼働を開始している。新設備の量産立ち上がりは稼働開始から数カ月かけて出荷量が積み上がっていくのが一般的であり、本データで見られた2026年3月以降の輸出加速の時期とちょうど重なる。
第二に、価格面の要因も考えられる。ニッケル関連原料の価格は2025年から2026年にかけて上昇基調にあり、これが不锈鋼の輸出単価を押し上げている可能性がある。本レポートのデータは金額ベースであるため、仮に出荷量自体がそれほど変わらなくても、原料コスト上昇分が価格に転嫁されれば、ドル建ての輸出額は増加して見える。
一方で、供給側には先行きに逆風となりうる動きも見え始めている。2026年のニッケル鉱石生産計画は、政府が採掘割当量を前年より大きく引き下げる方向で調整しており、フィリピンからの輸入で不足分を補う必要性も指摘されている。これは足元の増加要因ではなく、むしろ今後の供給制約リスクであり、2025〜2026年の増加がこのまま単純に延長線上で続くとは限らないことを示唆している。
データ出所:インドネシア中央統計庁(BPS)貿易統計、HSコード7219(ステンレス鋼、幅600mm以上)