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鋼の都、ステンレスの都 その1 海光鋼鉄

2026/08/03 10:59
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鋼の都、ステンレスの都 その1 海光鋼鉄

2000年の頃だったと思います。「21世紀の金属産業は、北回帰線の南側の地域で発展する」と、奇妙な予測をした同僚がいました。偶然でしょうが、その予想はあたっています。北回帰線は台湾の中央部を通っています。それなら、台湾南部の高雄市に鉄鋼産業が集中するかも・・・と考えます。

高雄には台湾を代表する高炉メーカーであるチャイナスチール(中国鋼鉄)がありますが、それだけではありません。大手ステンレスメーカーのYUSCOや唐榮鋼鉄、電炉メーカーの海光鋼鉄などがあります。

鉄鋼産業は、高炉一貫の製鉄所だけで成り立つ訳ではありません。森林が大木だけでなく、灌木や下草などが共存する一つの生態系として存在するように、鉄鋼の都も多くの多様な企業が集まって成り立っています。

そして言うまでもないことですが、素材産業は動脈産業だけでなく静脈産業も含めた“システム”として機能しています。

半導体やパソコンなど、どちらかというとハイテク産業ばかりが注目される台湾ですが、重厚長大の基礎産業はどうなのか、日本との違いはどうなのか?興味深いところです。

筆者は高雄で海光鋼鉄と唐榮鋼鉄を訪問し、その実態を取材する機会を得ました。

海光鋼鉄は、中国鋼鉄の製鉄所が続く鉄鋼コンビナートの隣に工場を持つ独立系の電炉メーカーです。建築廃材を中心に多様なスクラップを集め、電炉で溶解しビレットを鋳造後、鉄筋やJISバー等の異形棒鋼を製造する、日本にも普通にある電炉メーカーです。

そして日本の電炉メーカーと同じ課題を抱えています。

1.海光の設備と操業の概要

1969年創業の同社は、製鋼設備を持つ小港工場と圧延設備を持つ嘉興工場の2カ所を持ち、50トン電気炉2基とLFを1基、6ストランドのビレット(15cm角)連続鋳造機を有し、月間の生産能力は5万トンです。

(年間生産能力 小港60万トン、嘉興55万トン)。

従業員数は両工場合わせて約450人、面積は、小港は約6万m2、嘉興は5万m2です。設備の詳細は別稿に譲りますが、電気炉は交流3本電極方式、容量22~23トンのスクラップ容器2杯で電気炉1杯分となります。社内には酸素発生プラントを設置し、電気炉への吹き込みに使用します。電気炉の排気は集塵機で粉塵を回収した後、高温状態から急速冷却しダイオキシンの発生を抑止する装置になっています。

連続鋳造機はもともと三菱重工が製作しましたが、その後の改造を経て、現在は国産と言えます。台湾で設計し大陸中国が製作するパターンです。

・原料のスクラップは、主にH1とH2が半々の混合で、大半を国内調達しますが、ビレットの輸入もあります。(オーストラリアや南ア共和国からも輸入します)。台湾は人口密度が高いこともあり、建築はスクラップ&ビルドが多く、建築廃材が多く発生します。しかし現在は景気の低迷もあり、原料ヤードを見ると、他のスクラップも多く含まれます。アルミや銅、廃棄された電子機器も散見されます。

H1とH2半々のスクラップ価格はトン310米ドル程度でこれは日本と大きな差はありません(スクラップは国際商品であり、日台間で価格差が無いのは、ある意味自然です)。

スクラップ受け入れ時には、トラックの秤量機の横にある放射線計測装置で放射性同位元素の混入を厳格に調べます。

読者諸兄ご承知の通り、台湾では1980年代に鉄筋にコバルト60が混入し台北のアパートの鉄筋に使用されるという事件がありました。そのアパートの住人から多くの白血病患者が発生し大問題となったのですが(患者の数については諸説あります)、それ以降、スクラップ受け入れ検査は厳格化されています。

原料の成分分析は、スクラップの厚み別に管理しています。

日本と違うのは電力事情で、かつての日本と同様、夜間電力や深夜電力が割安になっており、電気炉は専ら夜間に操業されます。つまり“フクロウ部隊”です。筆者が現場を見学した時は定修中とのことでしたが、もともと電炉の操業時間ではありませんでした。

日本では太陽光発電を主体とした再生可能エネルギーの発電量が増え、昼間に余剰電力が発生するなど、夜間電力の割安感が無くなっています。しかし台湾では太陽光発電は日本ほど普及していないのです。ベースロード電源である原発は台湾に3基あります。

・電気炉で溶解した溶鋼は、LFで成分調整後に連鋳機でビレットに、嘉興で圧延され線材・条鋼となりますが、ステルモアなどの強制空冷設備はありません。

・製品は70~80%が国内消費、20~30%が輸出で、製品寸法は最大16.5m。0.1m単位で長さを指定できます。客先の要望に対するこのキメの細かい対応は日本の鉄筋メーカーと共通と言えます。

ASTM、JIS等の各種規格に対応し、主要用途は建築、トンネル等の土木用途です。

バナジウム等の添加はなく、非調質鋼などの高付加価値品には対応していません。前述の通り、台湾の景気はすぐれず、短期的には回復の見通しも立たないことから、販売価格は低迷し、スプレッドの確保が難しく経営を圧迫しています。

台湾では、半導体や情報通信の業界は好調ですが、建設や重厚長大業界は厳しい状況です。

生産能力が月間5万5千トン~6万トンに対し、実際の生産量は4万5千トンに低迷しています。(4万5千トン中、3万トンはスクラップから自社溶製し、他の1万5千トンはビレットの購入で対応)。従業員数もカタログでは550人ですが、現状では450人と減少しています。

為替相場が人民元高になっており「大陸中国からの安価鋼材が国内市場に与える影響は無い」とのことです。

消耗品である電気炉の電極は輸入しており、インド製が主で中国製が続き米国製は10%を占めます。使用後の電極はコークスとして再利用します。

ビレット表面のスケール(FeO)は回収後に主に日本に輸出されます。推測ですが、TDKなどでフェライト原料に使用される可能性が考えられます。

 

2.海光の課題と今後の進め方

同社の設備をみると設備能力がややアンバランスです。上工程(溶解工程)が下工程(圧延工程)に対して容量が足りないために、ビレットを外部から購入していますが、溶解能力を強化すれば輸入を減らせます。

しかし電炉を50トンから60トンにスケールアップする提案については、同社は否定的です。容量アップは検討するも改造では済まず、全面的な作り直しとなり費用を回収できる目途が立たないから・・ということです。

製品の高級化、高付加価値化を目指すなら、電気炉の偏心炉底出鋼化や、VOD等の真空炉外精錬設備の設置が必要となりますが、それについても否定的です。減価償却が完了したと思われる既存の装置を使い倒す方針です。

しかし同社は、隣接地に中国鋼鉄と合弁でボルトナットの工場を建設しています。冷鍛や転造加工をするなら、素材の高級鋼化が必須です。売り上げ拡大のためには、中国鋼鉄の材料でなく、海光の素材を使用すべきですし、その為には、設備投資が必要になります。バナジウムを添加して非調質鋼を目指すのも一案です。

一方で、原料スクラップの分別装置はすぐに収益をもたらすプロセスです。原料スクラップを細かく裁断し、銅・アルミ・ステンレス等の有価金属を分離回収できれば、売り上げ増になりますし、製品の鋼材の品質も向上します。

すぐに設置し、短期間で投資を回収できる設備の導入を検討する必要があります。

日本の電気炉メーカーも、原料スクラップの価格高騰、電気代の高騰、製品価格の低迷の三重苦の中で黒字を維持するために苦闘しています。30社以上が生き残りをかけて知恵を出し合っている訳ですが、類似した環境にある台湾の電気炉メーカーも情報を共有する価値はあります。

幸か不幸か、鉄筋市場では日本製品と台湾製品の競合は殆どありません。日台は知恵を出し合うことで協力できると、筆者は考えます。

 

以下、次号

久世寿(Que sais-je)

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