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東京理科大学 田村隆治教授に聞く 世界初の強磁性準結晶が拓く新材料の未来(後編)

2026/08/04 11:55 FREE
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東京理科大学 田村隆治教授に聞く 世界初の強磁性準結晶が拓く新材料の未来(後編)

7月27日、MIRU取材班は東京理科大学 先進工学部 マテリアル創成工学科の田村隆治教授の研究室を訪問した。前編では研究の背景や技術的なブレークスルーについて報告したので、後編となる本報では準結晶の応用や新材料が切り出す技術革新について紹介する。

前編:東京理科大学 田村隆治教授に聞く 世界初の強磁性準結晶が拓く新材料の未来(前編)

 

すべての原子に仕事をさせる材料設計

田村教授が究極的な目標として掲げるのが、すべての原子に仕事をさせる材料設計である。一般的な面心立方格子や体心立方格子では、多くの原子サイトが対称性によって等価である。特定の場所だけに異なる元素を配置し、それぞれに別の機能を持たせることは容易ではない。

これに対し、準結晶や近似結晶には局所環境の異なる多様な原子サイトが存在する。ある位置には磁性を担う元素を置き、別の位置には電子状態を調整する元素を置く。さらに別の位置には、熱伝導や触媒反応を制御する元素を配置する。原子一つひとつに異なる役割を与えられる可能性がある。

現在の強磁性準結晶では、正20面体クラスターの頂点に希土類元素が配置されていると考えられている。今後、詳細な構造解析が進めば、周囲の元素を変えることで磁気モーメントの大きさや向き、電子密度を原子レベルで制御できる可能性がある。

この発想は、一つの原子を触媒反応の活性点として利用する単原子触媒ともつながる。従来の触媒では、複数の原子が集まった粒子や表面が反応を担うことが多い。単原子触媒では、孤立した一つの原子に触媒機能を持たせる。準結晶や近似結晶の多様な原子サイトは、そのような原子単位の機能設計に適していると期待される。

熱輸送にも通常の結晶とは異なる特徴が現れている。一般的な結晶では、温度が高くなると原子の振動が激しくなり、熱を運ぶ粒子が散乱されやすくなる。そのため、温度の上昇とともに熱伝導率が低下する場合が多い。しかし、一部の準結晶では、温度の上昇とともに熱伝導率が高くなるという逆の温度依存性が観測されている。従来型の材料と準結晶を組み合わせれば、一方が低温域を、もう一方が高温域を担うことで、幅広い温度領域に対応する熱整流材料や熱制御材料を作れる可能性がある。

なぜ逆の温度依存性が現れるのかは、まだ分かっていないという。これは結晶の周期性を前提とした従来のバンド理論や輸送理論だけでは十分に説明できないためである。実験によって先に現象が見つかり、その後に理論が理由を説明する。準結晶研究では、物質の発見が新しい理論を要求している。トポロジカル物性、非自明な表面状態、スピンアイスに似た磁気状態、巨大磁気熱量効果など、準結晶からは従来の周期結晶では見られなかった現象が生まれる可能性がある。今回の成果は、一つの新材料を作ったというより、未知の物理現象を探すための高品質な舞台を整えた成果といえる。

 

準結晶化により純金を硬く、強磁性材料を室温で使えるように

準結晶の可能性は、磁性や量子現象だけにとどまらない。純金属が柔らかい理由の一つは、結晶中の転位が動きやすいことにある。転位とは、原子配列の一部に存在する線状の乱れである。外から力を加えると転位が結晶内を移動し、金属が変形する。周期結晶では、原子配列が一定の間隔で繰り返されるため、転位が比較的移動しやすい。

一方、準結晶には周期性がない。転位が移動しようとすると、通過した後の原子配列が元と同じ状態には戻らず、より大きなエネルギーが必要になる。そのため、準結晶や近似結晶を金属中に分散させることで、転位の動きを抑え、材料を硬くできる可能性がある。この性質は、純金の高強度化にもつながる。

純金は化学的に安定し、加工性や電気伝導性にも優れるが、非常に柔らかい。通常は銀や銅などを加えて硬くするが、添加量を増やせば金の純度は低下する。準結晶や近似結晶を利用すれば、金の純度を高く保ちながら硬度を向上できる可能性がある。実際、23金に近い高純度を維持しながら、低炭素鋼に匹敵する硬さを示す材料も得られているという。純金の純度を落とさず硬くすることは、宝飾品に限らず、電子部品や接点材料などでも長年の課題である。準結晶は、その難題に新しい解決策を示す可能性がある。

また、磁性材料としても企業から関心が寄せられている。準結晶は一般に電気伝導率が低いため、高周波磁場の中で発生する渦電流を抑えやすい。磁場の変化に素早く応答する軟磁性と組み合わせることができれば、高周波用の磁性コアや電力変換機器への応用が期待できる。

ただし、実用化には大きな壁が残っている。今回の強磁性準結晶が磁気秩序を示す温度は数十ケルビンであり、室温よりもはるかに低い。産業材料として広く利用するためには、磁気転移温度を300ケルビン以上まで引き上げる必要がある。

田村教授は、超急冷を必要としない材料を作るという最初の壁を越えた。次に待つのは、室温で強磁性を示す準結晶を実現する壁である。そのためには、どの原子サイトが磁性を生み、どの元素の組み合わせが磁気相互作用を強めるのかを明らかにしなければならない。高次元空間を用いた構造解析と、AIによる物質探索をさらに進める必要がある。

 

新材料が切り出す技術革新

物質・材料の世界で、根本的に新しい材料群が現れる機会は多くない。準結晶が発見されたのは1984年であり、強磁性準結晶が見つかったのは2021年である。両者の間には約40年の時間が流れている。サマリウムコバルト磁石の登場がウォークマンを生み出し、ネオジム磁石の登場が小型モーターを進化させて現在のEVやドローンを支えているように、新しい材料は社会の姿を変える力を持つ。

あらゆる製品は物質でできている。新しい物質を見つけ、その性質を理解し、使い方を確立することは、次の技術を生み出す土台となる。今回の成果は、完成された応用材料の誕生ではない。強磁性準結晶という新たな材料群を、精密に調べ、設計し、育てていくための出発点である。

教科書を書き換える理論へつながるのか。すべての原子が異なる役割を担う材料を作れるのか。室温で動く軟磁性材料や、純度を落とさず硬い金を実現できるのか。40年をかけて開かれた扉の先には、まだ多くの空白が残されている。その空白こそが、準結晶研究の可能性である。

 

(IRuniverse Midori Fushimi)

Midori Fushimi

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