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バッテリーサミット2023 at Hilton Tokyo に参加して 熊本大学大学院 李宗星

 はじめまして。熊本大学大学院でリチウムイオンバッテリーのリサイクルを社会科学的に研究しようと勉強を始めたばかりの李宗星です。今回はIRユニバースの皆さんのご厚意もあって、このイベントにレセプションから懇親会まで参加させていただきました。拙文ではありますが、感想を書かせていただきます。

 

 まずは、吉野彰先生の講演でリチウムイオン電池の役割(サステナブル社会を貢献すること)のご講演でした。また、クルマの電動化だけではなく、電動化による二酸化炭素の削減が重要ということを指摘されていました。既存するインフラをもって、太陽光発電の中では利用できなかった部分を上手に活用するための打開策は、蓄電システムとし利用するリチウムイオン電池。従来のGX化(Green Transformation)、DX化(Digital Transformation)以外に存在するMX化(Mobility Transformation=移動の進化、CASEとMaaS関連)について、大変勉強になりました。

 自民党の甘利明氏は、半導体と進化した電池が結びついて、この2つがDX・GX社会を支える柱ということを指摘されていました。また、リチウムイオン電池の安全性問題(発火のリスク)を強調し、発火事故現場から脱出時間を把握できれば万全を主張する某メーカーを批判していらっしゃったように感じました。(私の誤解があればすみません。)

 

 

 東京都立大学の金村聖志先生の講演も興味深かったです。ここでは、日本における電池技術の開発スピードが遅いという大きな課題が指摘されました。先生は、これを解決するのはプラットフォームの協力が必要と強調されていました。また、カーボンニュートラルによるカーボンの利用制限で、開発が困難になった空気電池開発、低電圧で迷走したマンガン金属電池の開発などについても勉強になりました。

 

 Northvoltの阿武保郎氏は「Make oil history」というスローガンを掲げていたのが印象的でした。19世紀は石炭の世紀、20世紀は石油の世紀、では21世紀は…ひょっとして蓄電池の世紀だということを言いたかったのでしょうか。

 Northvoltは一般的な電池メーカーではなく、脱炭素社会でどうやっ創り上げるかを真剣に考えている企業さとアピールしたのが印象的でした。その他、ノルウェー企業と連携で開発した湿式法(Hydro Volt)、ストラ・エンソというフィンランド企業と連携し、ノルウェーの森からのハードカーボンでナトリウムイオン電池を生産する技術、Scaniaとの連携で進めるトラックの電動化などの具体的な取り組みも紹介し、コラボレーションの重要性が注目されたと感じます。

 その上、イデオロギーの多様性を認め、123ヵ国と取引することができたのは、やはり北欧の「自由理念」を巧みに使っていると感じました。同社は、アメリカでリチウムメタル電池を開発する予定もあるので、このような野心的な企業に、世界はもっと関心を払うべきだと素人ながら感じました。

 

 なお、Northvolt社がアメリカで開発予定のリチウムメタル電池についてですが、これはアメリカで既に開発が進行中なのか、或いは開発予定のかはよくわかりませんでした。また、ここで主としてお話に出た「リチウムメタル電池」とはリチウム金属を負極材にする、従来の黒鉛を代替の「リチウム金属電池」のことでしょうか。この点もよく理解できなかったです。

 

 経済産業省の武尾伸隆氏の講演で印象に残ったのは、動力電池のシェアに関する2年前のデータでした。というのは、中国のBotreeは昨年秋に開催されたICBR2022の報告で2022年1-6月の状況でプレゼンをしていました。

 中国企業のデータに信憑性がないのか、経産省があえて2年前のデータで説明する意図は浅学の私にはわかりませんが、この業界は2年でどんどん進展しているとレセプションや懇親会で、多くの方から聞きました。

 

 また、このプレゼンへの質問の中で、米国のIRA法(インフレ抑制法)が与える影響(中国関連企業がインドネシアで行っているニッケル精錬などが、日本には負の影響を及ぼすのか)について、懸念国(中国、ロシアなど)対策がまだ明確化されていないので、検討を続けることは重要だが、二酸化炭素削減とIRA法と関連するということを心配する必要がないということでした。しかし、バイデン政権下の米国が本気で脱炭素政策に予算をつぎ込めば、事態は大きく変わるとも感じました。

 

 なお、昨年9月にバーゼルで開催されたICBR2022で中国のリチウムイオンリサイクル業者のBotreeが使ったデータは、Global EV Battery Installation 2022 January-Juneで、その出所はCABIA(中国汽車動力電池産業創新連盟=China Automotive Power Battery Industry Innovation Alliance)のもののようです。これと経済産業省が使ったデータ(Lithium-ion batteries for automotive applications 2020)の統計方法の差異が存在する可能もあるかもしれません(ちなみに、経産省のプレゼンで使われたデータの出所は2021年の富士経済の調査だと思われます。これも間違っていたら申し訳ありません。)。

 

 マクセルの片山秀昭氏は、リチウムイオン電池の発展史を紹介し、全固体電池の低温特性と長寿命特性というメリットを説明していました。また、Maxcellが持つmixing(混ぜる)、coating(塗る)、molding(固める)という三つのアナログコア技術で、全固体電池の開発を進めることをアピールしていました。

 

 午前の部で最後に講演を行ったのはGotion high-techの程騫さんでした。午後の部で講演したBYD以外唯一の中国大陸企業が、海外の研究開発センター(日本にはつくばで研究を行っているそうです。)、国内外の生産拠点(海外にはアメリカと欧州以外、LFPを生産するベトナムとインドが注目すべきと思いました。)とサプライチェーンの構造(インドネシアからニッケル、アルゼンチンからリチウム)を紹介していました。

 

 そして、エネルギー密度が高いLFP構造電池(量産化したL300とL600)、CTCデザイン(Cell to Chassis、電池セルを直接車両のシャーシに組み込むこと)を挙げていました。一般的に、標準的なLFP電池はがNCM(円筒形)に比べて、価格が15%低いそうです。

 

 またLFPはNCM(角形)に比べても、価格が20%低いそうです。この5%の差の原因は円筒形の製造性の方がメリットが大きいことを示しているようです。つまり角形の場合、体積増加による製造時間の増加とコスト増加につながるということでした。

 「ゼロコロナ政策の電池産業への影響?」という質問に対して、程氏は「以前は海外への輸出が厳しい(2021年の上海ロックダウンの時点で、港湾が渋滞して、海運が麻痺状態になったそうです。)が、去年、2022年12月でゼロコロナ政策の転換が始まり、今年2023年1月時点では生産輸出双方とも、影響がほぼないと説明していました。

 

 中国における製造と輸出の状況については、ベトナム、タイなどの東南アジア国家以外の欧米顧客へ輸出する際、物流管理に関する安全性問題から電池を危険物として扱い、低SOCで輸送することがリスクを避ける不可欠な条件だそうです。

 また、2022年からの資源価格高騰(ウクライナ戦争などの影響)について、炭酸リチウムの価格が3倍になったそうで、自社で鉱山開発権を持つことの重要性を強調されていました。

 

 ところで、Gotion high-tech(資料配布はありませんでした。)による発票の最後の方で、プレゼンターの程氏が言った「ないせい」は多分、「内製:ある業務について外部委託することをやめて、自社内でその業務を行うように変更すること」の意味と解釈しました。また、炭酸リチウム(電池グレード)の価格ですが、現在の炭酸リチウム価格は47万人民元/トン(2023年2月1日)となっています。(https://mric.jogmec.go.jp/news_flash/20221209/171991/ 参照。)

 

 午後の部も興味深い報告が多かったのですが、とくにBYDの講演は、LFPとNCMの性能比較からはじめ、ブレード電池の製品アピールについてのもので、非常に面白かったです。

 安全性の面に関わる議論がありましたが、リサイクルに関わる部分が少ないのが個人的には残念でした。例えば、海外でBYDのブレード電池をどうやってリサイクルする質問に対して、中国でリサイクル企業と上手く連携して いることを挙げて、海外には量が未だ少ないので、現在は検討していないという答えをされていたと感じました。

 

 

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李 宗星
1998年 日本東京都生まれ。小学校1年まで日本で育つ。
小学校2年から大学までは中国で学ぶ。
2020年 中国湘潭大学の国際経済及び貿易専攻で卒業。
2022年4月より熊本大学大学院にて研究に従事。
電気自動車のリチウムイオン電池のリサイクルに関心がありますが、幅広く教養を身に着けたいと思っています。

 


(写真左 熊本大学外川健一教授、右 李宗星君)

 

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