コバルト市場近況2023#2 今が底値も大幅な上昇は難しい
金属コバルト市況は現在、ポンド当たり16ドル前後まで下落しており、2021年1月以来の安値水準となっている。
2022年5月初頭につけたポンド40ドルからは実に60%の下落、と大幅な下落をみている。ここまでの下落背景としては、LIB(リチウムイオン電池)向けでは、LFPに代表される省コバルトあるいはコバルトレスLIBの拡大による需要減、民生用小型LIB需要の減退(特に中国)があり、スーパーアロイおよび超硬工具向けのコバルトパウダー需要もいまひとつ冴えない状況。結果的に市場には供給過剰感が広がっているのが現状である。
(国際金属コバルト相場の推移 $/lb)
金属コバルト相場のポンド40ドルはやはり行き過ぎで、定位置に戻ってきた感はある。コバルト価格が高すぎることによるコバルト離れをコバルトサプライヤーは最も懸念していたため、ある意味では今の相場に安心感はあるのかもしれない。コバルト扱い筋の見方としては
「まず、これ以上下がることはないと見ています。ポンド15~16ドルというのは採算ラインぎりぎりのところ。今はむしろ支援材料がいくつかあり、ひとつは中国SRB(国家備蓄局)によるコバルトの購入。昨年11月にも一度SRBはコバルトの備蓄買いを行ったが、再びコバルトに買いを入れる可能性はある」という。
また昨年からDRCコンゴ政府とロイヤリティの関係でもめていたTenke Fungurume銅・コバルト(TFM)鉱山は先ごろ、そのコンゴ政府より稼働停止を命じられている。
(関連記事)
コンゴのテンケ・フングルーメ鉱山 銅とコバルトの輸出一時停止へ
この騒動の発端は、TFMの実質オーナーであるCMOC Group(=China Molybdenum社)がロイヤリティのごまかしを行っていたことに依る。昨年7月のロイター報では
TFM(Tenke Fungurume Mining S.A.)社の株式80%を所有するCMOC社が、残り20%を所有する国有鉱山会社Gecamines社に支払うロイヤルティの額を減らすために埋蔵量を過小評価した疑いがあるとしているが、CMOC社はその疑惑を当初は否定していたが、どうやらその後の調べで、現在ではその疑いは決定的となり、先述したようにTFMの稼働停止と相成った模様。
TFM社は2021年にコバルトを18,501t、銅を209,120t生産した。いずれも金属換算ベース。年間需要量が15~16万トンといわれるなかでTFMの2万トン弱の生産が、どこまでかはわからないが、止まるということはコバルト市場にとっては相応にインパクトの強いトピックスである。このTFMの稼働停止で困るのは、同鉱山のコバルト鉱石を使って精錬しているフィンランドのKokkola社(UMICORE保有)であろう。
(コバルト生産は圧倒的にコンゴが占めている USGS2021、JOGMEC資料より)
ただ、DRCコンゴで稼働しているほかの銅、コバルト鉱山、例えばグレンコアのカタンガは順調に生産活動を続けており、問題はない。コバルトの最大消費国である中国ではコバルト在庫は潤沢、を超えて余剰気味だと聞く。
コバルト生産者側からすると、メインの銅価格が高いため、銅の採掘は意欲的に続けている。伴ってコバルトも採掘されるため、供給はきわめて順調。。前述したように需要サイドではコバルトレスのLIBの拡大、超硬工具向けコバルトパウダー需要も冴えない(超硬工具を使う自動車部品市場がまだ低迷しているため)ことから盛り上がっていない。
数年前に騒がれていたコバルト不足はいまは全くない。油断するとオーバーサプライとなってしまうのが今のコバルト市場の現況である。コバルト扱い商社では、2Q(4-6月)で多少は盛り返すも、上がっても18ドル~20ドル。20ドルを超えるようなことはない、とみている。
(IRUNIVERSE/MIRUcom YT)
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