日本でシップリサイクル復活か
日本郵船株式会社(東京)とオオノ開發(かいはつ)株式会社(愛媛県松山市)は、国内で船舶や大型海洋建造物を解体し、鉄スクラップ等のリサイクルを行う船舶リサイクル事業化を目指し協力していくことで合意、9月18日に日本郵船本店で覚書の締結式が行われた。
戦後しばらくの間行われたが、その後の日本の高度経済成長等の状況により行われなくなった大型船舶リサイクルだが今まさにその復活の兆しが見えたという画期的な出来事と思う。
世界のシップリサイクルの現況
世界の海での航海の役目を終えた外航商船と海底油田掘削等に使われたオフショア・ユニットのほとんどがバングラデシュ、パキスタン、インド、トルコでリサイクルされている。この上位4カ国で全体の約96%を占めるとの統計もある。解体・リサイクル方法としては、ほとんどがビーチングと呼ばれ、海岸での工具を使った人間の手による解体が主になっている。
ベルギーの首都ブリュッセルに本部を置き、シップ・リサイクルを環境、労働問題、人権といった観点から監視している国際NGO「船舶解体プラットフォーム」(Shipbreaking Platform)の統計によると、2023年、446隻の外航商船とオフショア・ユニットが解体され、その大半の325隻がバングラデシュ、パキスタン、インドの海岸でのビーチングとの報告がある。これらの国々では労働コストが安い新興国が多く、安全管理や有害物質管理に問題のある解体ヤードの存在が国際的に問題視されていた。
解体された船舶のほとんどは、もともと東アジアやヨーロッパの海運会社所有のもので、いわば先進国の海運会社がその解体処理を途上国に押し付けているとの批判的な声が年々高まってきている。
環境保全・労働安全確保に適った解撤・解体方法が国際的に求められる
安全で持続可能なリサイクルを求める国際的な声に呼応するかのように、国際海事機関(IMO)による「2009年の船舶の安全かつ環境上適正な再資源化のための香港国際条約」(シップ・リサイクル条約)が2025年6月26日に発効することとなった。同条約は、船舶の解体における労働安全確保と環境保全を目的としたものであると同時に、増加する環境対応型新造船の受け皿としての老朽船の解体を促進し、鉄の再生による循環型経済(サーキュラーエコノミー)の増進、また2050年の脱炭素化、カーボンニュートラルに寄与するものと世界的に期待されている。
長年の努力が実を結んだ結果
船舶の所有者(船主)としてまた運航者として、日本郵船は、以前からシップ・リサイクル問題に様々な角度から取り組んでおり、一例として、バングラデッシュで環境対策や労働安全衛生、人権尊重に関する同社の基準を満たした認証ヤード適合鑑定書を持つ解体ヤードの内、さらに厳しい独自の基準を満たし監査に合格した施設を「認証ヤード」として認定し、郵船グループが所有する船の解体を行っている。
日本郵船株式会社とオオノ開發のリサイクル事業概要
船舶の解体工事は、オオノ開發が愛知県知多市に所有する大型外航船にも対応した国内唯一のドライドック(乾ドック)で実施される予定。最新鋭の陸上解体・廃棄物処理を取り入れた独自手法で行われ、環境や労働安全に配慮した船舶解体を実現するとともに、鉄鋼資源の循環および脱炭素化を以下の項目を通じて促進する。
・解体船の調達
・船舶の解体
・有価物(鉄スクラップ、中古舶用機器等)の売却
・鉄スクラップの国内輸送
・有害物質等の無害化や埋め立てなどの最終処理
・39ヘクタールの広大な解体所
・国内最大級(奥行き810m x 幅92m x 高さ14.3m)のドライドックを有し、大型外航船2隻を同時に解体可能
・最新鋭の陸上解体・廃棄物処理の手法を取り入れた独自のドライドック方式解体により、安全性および効率性を確保
・同敷地内に高効率焼却発電施設を新設し、産業廃棄物の処理まで完結
・係留岸壁と内航岸壁を保有し、同敷地内で船舶の係留および鉄スクラップ等の有価物搬出が可能
循環型経済を促進する事業のイメージ図 (日本郵船サイトより)
最後に ― 長年の夢が叶う時
日本の鉄鋼メーカーが製造した良質な厚板を使った船が20年以上の航海を経て、日本で解体され、そのスクラップが現在普及中の電炉の原料になり、日本の造船所でまた新造船の厚板に生まれ変わるという、まさに世界初の国内における自己完結型、循環型のリサイクルということになる
世界が各分野で追及している脱炭素と循環型経済の未来像そのものであると同時に、日本経済を救う救世主と言っても過言ではないだろう。其のシナジー、経済波及効果たるや国内の海運、製鉄、発電に留まらず、シップファイナンス、新造船の建造費への銀行融資やスクラップされる船舶の売船に関わる投融資にも及び、日本経済の更なる活性化に寄与するものと容易に想像できる。
(IRuniverse H.Nagai)
世界の港湾管理者(ポートオーソリティ)の団体で38年間勤務し、世界の海運、港湾を含む物流の事例を長年研究する。仕事で訪れた世界の港湾都市は数知れず、ほぼ主だった大陸と国々をカバー。現在はフリーな立場で世界の海運・港湾を新たな視点から学び直している。
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