相変わらず厳しい暑さが続いていますが、暦の上では秋が進みつつあります。今月下旬には国連総会が開催され、11月にはCOP30がブラジル・ベレンで開かれます。国際社会の視線は再び気候変動対策に注がれることに、果たしてなるのでしょうか?
COP30で注目されるテーマ
今回のCOP30で注目されるのは、第一に各国の**2030年目標の見直し(NDCの更新)**です。パリ協定で掲げた1.5℃目標を達成するには、現行の目標だけでは大きく不足していることがIPCCの報告でも明らかになっています。そのため、各国がより野心的な削減策を提示できるかが焦点です。
第二に、途上国支援と「損失と被害(ロス&ダメージ)」への対応です。気候変動によって深刻な被害を受ける途上国への資金的・技術的支援は待ったなしであり、先進国がどのように責任を果たすのかが問われています。
第三に、森林や海洋といった自然資源を活用した対策もテーマとなります。特に開催国ブラジルはアマゾン森林を抱えるだけに、自然保全と経済成長をどう両立させるかは議論の中心となるでしょう。
日本の立場と首相交代の影響
このタイミングでの首相交代は、どう見ても日本にとって大きな痛手です。国際会議における首脳の発信力は、単なる言葉以上に重みを持ちます。新しい首相にとっては実績に基づいた力強い発言を行うのが難しく、結果として日本の存在感が薄れてしまう懸念があります。
しかしながら、2030年までに温室効果ガス(GHG)を46%削減し、2050年にカーボンニュートラルを実現するという日本の目標は揺らいでいません。問われるのは、その実現に向けてどれだけ現実的で説得力ある中身を示せるかです。政策の一貫性を保ち、国際社会から信頼を得ることが何より大切になります。
ウクライナとガザ、国際情勢の影
世界の安全保障環境も気候変動の議論に影を落としています。ウクライナでは依然としてロシアとの戦争が続き、エネルギー安全保障はヨーロッパの最優先課題です。また中東では、ガザ地区を巡る衝突が再燃し、多くの犠牲者を出しています。これらの地域紛争は、国際社会の関心を安全保障や人道支援に向けさせ、気候変動対策の優先順位を相対的に下げかねません。
アメリカの動きと国際世論の行方
加えて、アメリカではトランプ政権による政策の影響で、GHG削減のスピードが鈍化しているとの報道があります。世界最大級の排出国が足踏みをすれば、全体の取り組みにも遅れが生じます。さらに、アメリカ以外でも多くの国が安全保障や経済再建に引っ張られ、気候変動対策の優先度が下がることが懸念されます。
https://www.nikkei.com/prime/gx/article/DGXZQOUC114BJ0R10C25A9000000?n_cid=NPMGX000P_20250912_a14
それでも求められる前進
こうした難しい状況の中でも、気候変動は待ってはくれません。異常気象は世界各地で深刻化し、被害は拡大し続けています。だからこそCOP30では、各国が具体的で実効性ある行動をどう共有できるかが鍵になります。
日本としても、国際社会において存在感を示す最後のチャンスと捉え、自国の努力を明確に発信しなければなりません。
おわりに
国際社会が直面する課題は山積しています。しかし、気候変動対策はそのどれとも切り離せない問題です。エネルギー安全保障も、経済発展も、平和の維持も、持続可能な地球環境なしには成り立ちません。
COP30は、私たちが未来に向けてどのような選択をするのか試される場です。今のところその帰趨は全くと言ってよいほど見えませんが、短期的な利害を超えて次世代に誇れる成果を残すために、せめて議論が誠実なものになることを期待したいと思います。
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西田 純(循環経済ビジネスコンサルタント)
国連工業開発機関(UNIDO)に16年勤務の後、コンサルタントとして独立。SDGsやサーキュラーエコノミーをテーマに企業の事例を研究している。武蔵野大学環境大学院非常勤講師。サーキュラーエコノミー・広域マルチバリュー循環研究会幹事、循環経済協会会員