グリーントランジション2024に参加して② 中国におけるグリーンスチールの取り組み

(3)中国の取り組み 水素富化型高炉 HyCROF(Hydrogen ―Rich Blast Furnace)の開発
中国は従来の高炉法でコークスの代わりに水素を用いて鉄鉱石を還元する方法を追及しています。宝武鋼鉄のXinjiang Bali(湛江)製鉄所では2022以降、操業しており、高炉でのCO2排出量を20%以上削減しています。
また水素を用いた直接還元鉄(Hydrogen Direct Reduced Iron)の製造設備は、河北鋼鉄張宣科技(2022年~)や、宝武鋼鉄湛江(2023年~)で稼働しており、実用化が進んでいます。
ここで使用される水素は、ブルー水素、またはグレー水素と考えられます。
水素還元鉄や水素高炉の研究プロジェクトは日本(日鉄、JFE)でも進んでいますが、中国や韓国ほどではないと思います。
今後の課題はグリーン水素の安定的で安価な調達方法の確立です。
3.足りなかった議論
今回の会議では、物足りなかったのは下記の2点です。
(1)水素の運搬、保管に関する新技術についての発表が少なかったこと。
全ての水素は、グレーからブルー、グリーンへ移行する必要があります。実際、多くの脱炭素の議論で語られる水素はグリーン水素であることを前提にしています。しかし、当然ながらグリーン水素は、再生可能エネルギー共通の問題を抱えています。即ち、小規模で発生効率が低く不安定であることです。
それらの欠点を補うには、安価で安全な輸送手段と長期保管手段が必要です。輸送し保管できれば、再生可能エネルギーの欠点を概ね解消できるからです。グリーン水素の発生には、電気分解装置が不可欠です。多くの発表で、エネルギー循環のフロー図に電気分解設備が登場しますが、具体的にその設備に言及したのは、三菱化工機の遠藤英隆氏の発表ぐらいです。
水の電気分解は古くて新しい技術と言え、今なお、効率改善の余地が多くあります。電気分解の逆のプロセスである燃料電池の方は、技術開発が進み、コスト低減も図られています。燃料電池は内燃機関と異なり、熱力学的な効率の上限に縛られない有望な装置と言え、進歩が著しいのです。
その一方で、電気分解の方はやや遅れています。この点を追究する発表がほとんど無かったのは残念です。
(2)水素を活用する方法について
グリーン水素の獲得が難しいなら、とりあえず、水素が何色(ブラウン、グレー、ブルー)だろうと構わないから、その利用技術を確立し、活用するインフラシステムを確立しようという(いささか乱暴な)議論があります。
その場合、水素の利用方法には大別して3つあります。
1)燃料として、熱源や寧年期間の動力源として用いるもの
2)燃料電池を介して電気エネルギーとして用いるもの
3)水素による還元でDRIを製造し、高炉に代わる製鉄方法に用いるもの
3)については、前述しましたが、1)と2)について、比較・解説した議論はほとんどありませんでした。水素を内燃機関用の燃料とする場合、航空機、船舶、自動車での用途が考えられますが、炭化水素燃料に比べて体積エネルギー密度が低いことが問題点と言えます。また熱機関として熱効率の限界があります。一方、燃料電池は熱効率の限界がありません。性能や価格も年々改善しています。
燃料電池の問題は、純度95%以上の、不純物の少ない水素が必要となることですが、ブラウン水素やグレー水素はともかく、グリーン水素の場合は問題になりません。グリーン水素を前提とした議論では、燃料電池が本命になると思われます。しかしこの点に言及した発表は無かったのです。
4.その他
変わった発表としてPeder Osterkamp氏(Stegra)がスウェーデンの高緯度地方の森の中に、バイオマスを用いたグリーン水素の発生プラントを建設している報告、あるいは、Cameron Bell氏-PyrocharによるPyrocharの紹介(オンライン)、Sanjay LODHA氏-TUBACOATによる同社製品(内面に被覆した鋼管)の紹介などがありました。
5.まとめ
今回の会議では、全く新しい技術トピックの紹介はなく、既に方向性が見えている事柄について、その進捗状況を示したり、公的助成やカーボン排出権取引などの課題を議論する内容でした。その中で、日本の取り組みが他国に比べて遅れているのでは?という懸念を持たざるを得なかったというのが実態です。
鉄鋼業界については、従来、技術面では日本が圧倒的にリードしていたのに、もはや脱炭素に関する限り、その優位性はほとんど無くなったと考えざるを得ませんでした。日本の技術者諸兄の奮起を期待するところです。
(IRUNIVERSE Akai)
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