国際自動車リサイクル会議2025(IARC)ベルギー・アントワープで開幕

スイスICMが主催する国際自動車2025(IARC)が、19日に開幕した。会議セッションは2日にわたって開催され、21日はワークショップと自動車リサイクル施設の見学ツアーが行われる。
今年も昨年のIARCに続き、開催地はベルギー・アントワープだ。この街は欧州における重要な貿易港の一つでもあり、中古車を含む自動車輸出の拠点だ。同時に「フランダースの犬」の舞台となった美しい教会がある場所で、訪れる日本人も多く、中世の街並みが残る美しい観光地だ。今年の参加者は、セクター別では、自動車リサイクラーと自動車OEMが最多数、自動車回収業者・部品サプライヤー、鉄・非鉄業者などが後に続く。個人では地元ベルギーからの参加者が最多だが、オランダ、フランス、ドイツ、スイスなどの近隣諸国に加え、昨年に比べ日本からの参加が特に目立った。今回はMIRUのイベントでもお馴染みの熊本大学・外川教授もスピーカーの一人として参加している。
展示会場では、AR REM ・HOFFMANN ・ATM ・Cyclic Materials・Newell Recycling ・LINDERMANNS・IMVIC Groupなどの顔ぶれが揃う。スポンサーはLYBOVER・ autocirc ・ARN・REON Group ・GALOO ・LKQ ・DERICHEBOURG Port of Antwerp Brugesなど。パトロンはCLEPA・EUROBAT・JAMA・JARA・ European Aluminum・Plastic Europe・ RECHARGEなどの主要業界団体。21日の施設見学はベルギー港湾局、自動車リサイクラーLKQおよびDERICHEBOURG。
IARC2025のメインテーマは前回に続いて現在も修正作業が進行中のELV規則法案だ。今回のプログラムでは、規則案のなかで全体的なスコープ、循環型設計、自動車の循環性を推進するツールとして導入されるサーキュラーヴィークルパスポート、拡大生産者責任制度の強化におけるコスト分配制度、自動車の登録制度を大きく改善する目的で導入される電子システムMOVE-Hubに焦点が当てられた。
初日のセッション1は、まず欧州委員会環境総局からELV規則担当のJaco Huisman氏から現在の状況報告が行われ、次に特定の要件をテーマにプレゼンテーションが行われた。欧州自動車工業会(ACEA)からは、「業界がどう新規則の施行するのか」をテーマに、OEMの立場から新規則への対応にあたり、要件は他規制と重複しないこと、ケースバイケースの要件が必要であること、目標値は現実的な数字であるべきなど、規制が実際に機能するために必要な事項が語られた。欧州委員会の研究機関JRCからは「EVのモーターの循環性改善」をタイトルにEV用モーター、自動車に使用される永久磁石やアルミニウムの循環性を促進するためのJRCによる研究作業内容が報告された。欧州自動車リサイクル協会(EGARA)による「循環性を焦点とする新規則におけるATFの役割とPRO(生産者責任組織)スキームとの関係」では、新規制におけるATFの義務とその必要性について疑問が投げかけられた。例えば、規則案では部品の取り外し義務が強化されているが、現在取り外されている部品は市場が存在するからであるが、新しく定められる部品の取り外し義務については市場が形成されていない場合がある。一方で、新義務について業界は対応する準備があるがそのためには一定の条件が必要であることも強調した。
初日最後のセッションでは、自動車OEM(Hyundai)、コンサルティング(tec4U Solutions)、自動車リサイクル業者(Galloo)が参加し、ELV規則案が定めるサーキュラー・ヴィークル・パスポートについてのパネルディカッションが行われた。サーキュラー・ヴィークル・パスポートは、2027年2月に適用となるバッテリーパッテリーパスポートや今後段階的に様々な製品に対して付随が義務付けられるデジタルプロダクトパスポート(DPP)の自動車版でバリューチェーン上におけるデータの共有システムである。さらに、EURO-7下では、環境ヴィークルパスポートが義務付けられることになっている。サーキュラー・ヴィークル・パスポートは自動車に対しで義務付けられることからDPPからは除外されているが、タイヤやスチールなどの半製品などの自動車に使用される部品や材料などにはDPPが必要となる。そのため、大量のデータ収集から管理・更新まで、対応の必要な業者の行政上の負担は非常に大きい。一方で、デジタルプラットフォームの構築・管理は多数のビジネス機会も創出する。ディスカッションでは、自動車OEMがすでに構築している自動車解体データ共有システムIDISとDPPの比較についてTec4U Solutionsから説明があった。そのなかで同氏は、一定のデータは不足してはいるがIDISはすでに基本的にDPPとして機能していると述べ、さらにIDISとDPPの一体化の可能性についても触れた。
初日セッションは、今年もアントワープを代表する美術館KMAKAでのネットワークディナーで終了した。
From Antwerp, Belgium
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SCHANZ, Yukari
オーストリア、ウィーン在住フリーライター。現在、ウィーンとパリを拠点に、欧州におけるフランス語、英語圏の文化、経済、産業、政治、環境リサイクル分野での執筆活動および政策調査に携わっている。専門は国際政治、軍事、語学。
趣味は、書道、絵画、旅行、フランスワインの飲酒、カラオケ、犬の飼育。
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